(86) 自転車の埃

 本作の撮影期間は一か月ほど、基本、時間の流れはわかりません。衣装から推察するに、亜紀の終わりから早春にかけて、せいぜい半年の物語なのかと当初は思っておりました。

 恭一と今ヶ瀬の再会と最初の別れまでは、どんどん進んでいきます、離婚時もさほど時間はかからなかったのでは、瑠璃子が「もう一人で住んでるの?」といったセリフもありますし。


 たまきと付き合い始め、婚約にこぎつけるまでも、大した時間は流れていないのかなあと、とにかく撮影期間の短さに惑わされていました。

 でも、それではやはり無理がある。

 ゲイバーに行った後、画面が暗転というか、はっきりと黒い画面になり、次がたまきの自宅です。自宅に呼び母と会うほとに進展している。たまきの髪も伸びていますね。あの暗転は、それなりに時間が流れたという表現なのかもしれません。


 だとすれば、あのセリフもすんなり受け入れられます。

 夜の路上で恭一と今ヶ瀬。

「自転車盗んだの、おまえ?」

「埃かぶってるのに気づいたんで」

 長らく乗っていないから、埃をかぶるんですよね。恭一は自転車通勤を止めて久しい、ということでしょうか、少なくとも数か月は?

 たまきが頻繁に泊まりに来るようになり一緒に通勤するので乗らなくなったのでは、というご意見も見かけましたが、社内恋愛がばれるようなことを、婚約前にするでしょうか。私は疑問です。

 意外と、たまきは恭一の部屋をそんなに頻繁に訪れれなかったのでは?

 ハンバーグを作りに来たのが婚約後。親しい仲なら、もっと早く手料理を披露しに来そうなものですが。「コトコト煮込む料理」について恭一が聞いているので、あれが最初で間違いないと思います。婚約者という立場になれてようやく、妻みたいなことをする気になったのか。包丁使いからして料理初心者なたまきは、母からみっちり仕込まれて、何度も失敗し、ハンバーグ作りに自信をつけてから、かな。


 この映画は、朝の自転車通勤を今ヶ瀬が追う場面から始まります。夜、会社の前で恭一を待つ場面もありました。どちらも恭一は気づいていませんが、別れたのちも、あのようなことがあったとしたら、もう自転車はやめよう、となるかも。

 朝晩、通勤時に今ヶ瀬にストーキングされるのに嫌気がさしたのかもしれません。

 きっぱり別れたはずなのに、つきまとう今ヶ瀬。婚約指輪を渡した夜、気づかれたかったのか今ヶ瀬は隠れ方が下手で、恭一と対峙することになります。

 今日こそはっきり言ってやる、二度と俺の前に現れるな、俺は結婚して普通の道を歩くんだ。

 そんな気持ちで、隠れている今ヶ瀬の元にも度ttのではないでしょうか。

「誰からの依頼?」

 に始まる恭一の言葉はとげとげしく、何度見ても苦しくなります。

「おまえは要らない」

 と言いながら、本心に気づいた恭一、結局、よりを戻し、もう後戻りはしないと決めてしまうのでした。

 

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