(71)ファンタジーとリアリティ
恭一が、夏生と共に去り、今ヶ瀬はひとりで帰宅。
やがて恭一は帰ってきますが、どれほどの時間がたっていたのか。
盛り上がって朝帰り、というケースも有り得たのに、いやに早い。意外にあっさり終わったのか、と今ヶ瀬は思ったかも。
だとしたら、思い切って「寝てくれ」と懇願するべきか。恭一をこちら側に引き込むべきか否か、迷うたびに見ていたという「オルフェ」がモニターに映っていました。
恭一があの夜、今ヶ瀬にバックを許したのは、本当に意外でした。未経験で、そんな簡単に入らないだろうし、相当に痛いはずです。挿入ならともかく、受け入れるとは。
私見ですが、男は男を恐れている、そんな気がしてなりません。何が怖いかと言えば、「男にやられてしまうこと」です。
目の前の男性がゲイだと判ったとたん、お尻を押さえる場面を、どこかで見て気がします。ヘテロ男性は、こんなに「男にやられる」のが怖いのか。男は、相手を辱めるために犯す、というイメージも強いのです。
しかし、恭一は今ヶ瀬を受け入れた。
そうしなければ今ヶ瀬は出ていく、関係を終わらるつもりだ、それだけは避けたい。今ヶ瀬の願いもかなえてやりたい。どこからその気持ちが来るのかは不明ながら、そうしたかった。
流されるタイプの恭一、夏生と出来なかったこともあり、痛くてもそっちの方がいい、と思ったのでしょうか。また勃たなかったらアレだし、任せようと思ったか。今ヶ瀬にしても、恭一は夏生としたばかり。迎え入れるのは、ちょっとイヤだったかも。
女性とセックスした直後に訪れた恋人に「女とやったばかりで気持ち悪い」と、ゲイが嫌がるシーンが映画「スプリングフィーバー」にありました。
友人に借りた三千円が返せず、口唇奉仕でチャラにしてもらった、と言った男に、皆、ドン引き、ということが昔、酒の席でありました。男にするのが平気、される方も気持ちいいならいいか、と受け入れたのでしょうね。
行定監督も、どんなものか実験、と、口でやってみた同級生がいたと言ってました。好奇心が常識や羞恥心を上回ったのでしょうか。恭一も、意外にリベラルな面が、今ヶ瀬と接するうちに、引き出されてきたのでしょうか。
その後、恭一はタチになるわけですが、最初からそうであっても何の不思議もありません。今ヶ瀬がリードしたのは、あの夜だけでは。男のバックがどんなに気持ちいいか、早く知らせないと、また女に取られてしまう、と今ヶ瀬は思ったんじゃないでしょうか。
しかし、この役割変更に激怒しているレビューがあって、ハア、でした。何故、役割固定にこたわるのか理解できません。どっちだっていいじゃないですか、本人たちがよければ。
BLがファンタジーだな、と思うのは、この、タチネコの固定傾向です。
ネコの側は嫁扱いで、ナニはあっても女性。だから挿入する側には絶対になれない。嫁側に自分を重ねる読者は、ファンタジーの世界では男でも、実際には、入れるべき道具がないのです。だからネコからタチになるような筋では、パニックに襲われて怒るのでは。
ゲイ雑誌で知識を仕入れた私としては、気分次第で立場は変わって当然だし、別にバック使わなくても射精すればいいんだから、相互フ×ラでも、なんでもいい、と思ってます。
本作の性愛シーンを美しいと言われて監督は、「生々しく撮ったつもり」と、ちょっと意外そうでした。生々しいけど、美しい。美しいけどリアル。私はそう感じています。ファンタジーと決めつける向きもありますが、監督は、二人の体格にもこだわった。
「今ヶ瀬があまりに痩せて小さいと、男女の関係を踏襲することになる、それは避けたかった」と。
恭一と今ヶ瀬は長身の見目麗しいカップルで、実に見ごたえがありました。
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