(72)いやな女しか出てこない

 本作に出てくる女性たち、それぞれ問題はありますが、人間臭くて私は好きです。が、「いやな女しか出てこないから、この映画は嫌い」とおっしゃる方がいるそうで驚きました。どういう女ならよかったのか、聞いてみたい。

 監督によると、主演の二人を引き立たせるために、個性の強すぎない女優を選んだそうで、確かに、主役を食うような目立ちすぎなキャラはいませんでした。


 知佳子。

 今ヶ瀬が言うように、かわいらしくて女らしくて、そのくせ、したたか。

 今時、したたかさは女の必須条件、というと語弊があるかもしれませんが、そうでないと生きていけない感じ。

 打算的、確かにそうですが、恭一との生活に嫌気がさしているうえ、交際相手もいる。恭一のダメ夫ぶりを思うと、稼ぎがよくて経済的には恵まれていたけど、遺恨もありますよね。

 恭一の「信じてたから」に「信じてtた」とオウム返しの知佳子。呆れた、といった口調でした。恭一は知佳子を信じていたのではなく、甘く見ていた。金さえ入れれば何をしても構わないのだと口にはしなくても。


 慰謝料をせしめるのがベストだけど、証拠は出てこない。痺れを切らして、彼のもとに走ろうと決めたんだと思います。最初は、恭一への腹いせで交際したとしても、本気で愛してくれているのが分かり、生活レベルは落ちても彼と暮らしたい、気持ちに応えたい、だから「彼のために別れたい」という知佳子の本音には好感が持てます。


 瑠璃子。

 恭一のことが気に入って、付き合いたい、セフレでいいから関係したい、と思ったのでしょうね、欲望に正直でいいじゃないですか。ビシッと断れなかった恭一が悪いのです。

 今ヶ瀬と並んで、がっつり性愛シーンがあります。ヘテロ男性として人並み以上の性欲があることを示す存在として登場、なのかな。

 恭一の離婚を知っても、じゃあ私を後釜に、なんてことは思わず、しいて言えば、奥さんにバレることを恐れずに付き合えていいわ、くらいだったでしょうか。残念ながら今ヶ瀬がいたので、お別れとなりましたが、特に嫌な感じは受けませんでした。


 夏生。

 恭一とよりを戻す気満々だったのに、玄関前で今ヶ瀬にコケにされ、怒り心頭。今ヶ瀬との対決では、絶対に恭一を勝ち取る気で臨みました。こっそり恭一に連絡しておいて三人で話し合うように仕向ける策士ぶり。恭一を、普通の男なら女を選ばなくちゃ、と無言の圧力をかけ、「容赦なく追い詰める」ものの、恭一の体は正直でした。

「どぶ」発言で不評ですが、男を取り合う席です、あのくらい言うでしょう、私だって言うかも。

 恭一はダメだ、と気づけば、あっさり「帰るね」と見限る。次いこう、の精神で、正しい道だと思います。女たちの中では、私は夏生が一番好きです。


 たまき。

 原作と違って最初から出てきます。部下から婚約者へと昇格。離婚前から恭一が好きだった模様です。

 父である常務のお通夜では、おそらく「わざと」雨に濡れて恭一を待つあざとさに参りました。ネットで指摘されるまで、その不自然さに気づかず。「ついてあげてて当然だろ」と恭一は今ヶ瀬に言っています。

 今ヶ瀬との不本意な別れの後、婚約。あっという間に別れ。あの二番目でいい、的な発言には驚きました。大倉忠義いわく「大して好きでもないのに利用された」のは御気の毒ですが、付き合ったのがそもそも間違い。


 たまきを裏で操った、というと不適切かもしれませんが、常務の愛人、つまり、たまきの母親の存在も大きいですね。

 知り合った頃には常務は既に既婚者だったのかと想像しますが、結局、日陰の身のまま、たまきを産み育てます。

 陰の女に徹してきた母親の道を踏襲するかのような、たまきの言動。

「出ていった相手が戻ってくるまで、このままで」とすがりつく、たまきでしたが、最後は「戻ってくるって信じてるんですね」と、恭一の思いをくみ取ってくれて良かったです。


 それぞれに、自分の欲望に忠実。目的のためには、女らしく、かわいくふるまい、そのうえで、したたかなのは当たり前、というのが今時の女では。本作では、したたかな面が強調されていたかもしれませんが、それでこそリアル。演歌の世界じゃあるまいし、彼のために身を引くだの、尽くすだの、はありえない。

 だから、やっぱり疑問なんです、「いやな女」って。どんな女なのでしょう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る