(96)じたたばもがいていたかった


 初見から二年半が過ぎ、今の私は、恭一と今ヶ瀬のお互いへの思いの違いを考えることが多くなってます。

「一緒に暮らそう」発言の後、今ヶ瀬が出ていったのは何故なのか、突然の幸せを受け止められなかった、と当初は解釈していましたが。


 今ヶ瀬が出ていったのは「一緒に暮らそう」が原因だと思い込んでいましたが、本当にそうか?

「恋愛でじたばたもがくことより、人生にはもっと大事なことがたくさんある」

 これが引き金だったのでは?

 恋愛体質の今ヶ瀬にとって、恭一と平和に暮らすことより、じたばたもがくことの方が重要だった気がするのです。

 なのに恭一は突然、たまきとの別れを告げる。万の障害もない、平和な愛の暮らしが始まる、結構なこと、のはずなのですが。今ヶ瀬にとっては違ったのかもしれません。

 納得がいかない表情の裏で、今ヶ瀬の心に、再度、あの言葉がよみがえってきた。

「あなたじゃなダメだ」。

 もちろん、恭一が穏やかな家族としての今ヶ瀬を求めるなら、そうできない自分は「あなたには俺じゃダメだし」ということになります。

「じゃあ彼女と別れてください。別れられるわけないか」とタカをくくっていたのに、恭一は明日、別れると。

 直前まで、たまきを欺きながらずるずる関係を続けていくつもりだった恭一。

 共犯者のはずだった恭一が、自分を選び同居を持ち掛ける。今ヶ瀬にとっては青天の霹靂でした。

 もうおしまいだ、と思ったのでしょう。


 それでももちろん、未練は残る。

 恭一の寝顔を、手にしたタバコの灰が落ちるまで見つめた。

 もう関係は続けられない、でも、きっぱりあきらめられるわけではない。虚勢を張って見知らぬ男とベッドインしたものの、行為はできなくて泣き崩れる。


 その頃、恭一は、たまきに別れを告げ、帰宅。今ヶ瀬との新しい関係を確信して、灰皿を洗っている。今ヶ瀬の居場所だったスツールに腰かけて満足そうに灰皿を見つめる。そして一陣の風。

「今度こそ戻ってこないかもしれない」

 と言いながら、待ちたい、それが恭一の本心。

 今ヶ瀬はさあ、どうするのでしょうか。

 じたばたもがき続けるために、必ず戻ってくると思うのですが。

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