(89) 棒読みではない


 前の記事で海外での本作の評価が高いことをお知らせしましたが、「特に大倉忠義の演技を褒めたものが多い」とのことで、とても嬉しいです。

 何度も言いますが、本作最大の発見は彼の演技でしたからね。

 しかし一般的には成田凌の演技ばかりが取りざたされていて、不本意もいいところです。中でも大倉忠義に対して「棒読み」という表現が散見されて驚きました。


 ぶっきらぼうと感じる場面はありますが、恭一はツンデレですから、さほど親しくない頃に「キスして」「耳かきして」とべたべたされてもねえ。


 なぜ「棒読み」と感じてしまうのか、もしかしてアニメのセリフ回しを基準にしている?

 先日、声優と俳優兼業の方のトークを聞いたのですが。両者は明らかに違うとのことで、たとえばアニメで走る場面。「ハッハッ」と声を入れるとか。実写なら、ただ走ったくらいで、それはないですよね。

 やっぱり、と思いました。絵だけでは表しきれない躍動感や視線など、絵だけでは足りない分を声やセリフで補う。自然と、アニメの言い回しは大げさになります、そのへんが私がアニメを好きになれない理由のようです。

 以前、アニメは子供が見る者でしたが、今や全国民がアニメになじみ、ヒット作も実写より多かったりする。

 結果、アニメに限らずドラマもオーバーな演技が目立つけれど、そうしたものに慣れた皆さんは、繊細なセリフ回しが「棒読み」に感じ慣れるのではないかと勝手に思っています。


 夏生を交えてのレストラン。

「シャワー室で後ろから」と告白する今ヶ瀬に、「やめろよ!」と恭一はブチギレる。また、たまきとの仲を追及する今ヶ瀬に、冷静に対処していたが、ついに「だからそんなんじゃないって!」と声を荒げる。恭一が激高するのはこの二か所だけですよね。夜道の電話シーンもかな。どちらにしても数少ないです。

 だぁらこそ、普段と違う、とハッとさせられます。逆に、ワインをプレゼントする時、再会の夜道で「元気でやってるか」と、とろけそうに甘い言葉をかける、このギャップにやられてしまいます。通常の口調がぶっきらぼうだからこそ効果的なので「棒読み」と決めつける方々は、このあたりの演技が目に入っていないのか?


 表情の細やかさも特筆すべき点で、トイレ前で今ヶ瀬を待ち伏せ、メール見たんだろ、と問い詰める。「あの男なんだよ」のふてくされた顔、「おまえが誰と何をしようと気にしない」と言いながらめちゃくちゃ気にしている顔。

「シャワー室で後ろから」には、ビールを飲みながら目が怖い、嫉妬丸出しです。


 たまきに指輪を渡す場面では、とても冷たい目をしてぞっとした、と私的する方もいました。

 今ヶ瀬に別れを告げる場面の「何かが抜け落ちたような目」、これは監督に「あんな目見たことない」と言わせているし、特典映像で「要らない」と突き放した今ヶ瀬を力いっぱい抱きしめる。もう自分を偽れない、今ヶ瀬がいとしい、と顔に書いてある。

「あんな顔するんだ」

 と、これも監督を感嘆させていますが、私もあの顔にはぐっときました。「要らない」は、たまきに言うべき言葉でした。カフェでの別れの場面、恭一の心を占めていたのは今ヶ瀬を待つことと、たまきは不要であると、口には出せないものの大倉自身、そう思っていたらしいです。



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