第48話 イグナートの計画〜③

「目が覚めたか?」

聞き覚えのない男の声でミズリーナは目を覚ます。

未だ頭の中がドラゴンマスクに吹き飛ばされ叩き付けられた影響で朦朧としている。


「うぅっ……」

ミズリーナが目覚めた場所は一見して牢獄と分かる薄暗い石組みの壁の部屋であった。

出入り口は一つだけあり、小さな小窓の付いた金属製の扉が取付けてあるのと外の光が僅かに差し込む小窓というか隙間がある小さな部屋だった。


「こ、ここは?……」

「ここは王城の地下牢獄だ。お前は第一王子デルスクローズ樣の身体に呪物を埋め込んだことにより死刑が決定している。」

最初に声をかけたと思われる部屋の外の兵士から説明がある。


「そうか…」

ミズリーナは瞬時に事情を把握する。

『あのドラゴンマスクという奴にしてやられたというわけか……。』

視線を落とすとミズリーナの手には手鎖、足には足かせが施されている。


『ふん…』

それを見てミズリーナは鼻で笑う。

そして、次の瞬間、それらの拘束具を一瞬で粉々にする。

バキンという大きな音を聞きつけ先程の兵士がやって来た。


「何の音だ!?」

そう言って兵士が小窓から部屋の中を除いた瞬間、ミズリーナが兵士と目を合わせ催眠術をかける。

すると兵士の目からフッと生気が無くなる。


「ここを開けろ。」

ミズリーナが兵士に命令すると、兵士は持っていた鍵を使って部屋の錠前を解錠する。

ミズリーナは部屋を出るや、その兵士の頸椎辺りに当身を食らわせる。

操られた兵士はうめき声も立てずにその場に倒れ込んだ。

流石にドラゴンマスクの攻撃で身体に重症を負ったとはいえ、ミズリーナのレベルになれば普通の人間くらいは片手で事足りた。


「他愛もない…、しかし、あのドラゴンマスクという者がここにいたら危なかったろうが、こんな貧弱な拘束具を使うとは…私を普通の人間だと思っていたのだろうか?いやそれはないな。怪我がひどいから逃げられないだろうとでも思っていたのか?まあ、そう思っていたのなら都合が良い、思念波でブラドーグ様に連絡を取ろうと思ったのだが…うまくいかないな…奴にやられた影響か?とりあえず早くここを抜け出してこの事をブラドーグ様に伝えなくては。」

そう呟くと、ミズリーナは倒れた兵士を蔑むように見ながら牢獄を出て行った。



ミズリーナが牢獄から出ていったと同時に、倒れていた兵士の目がパチリと開く。

そして、ムックリと起き上がるとその場で胡座あぐらをかき、首を左右にゴキゴキと振る。


『やっと行きおったな。』

イグナートの声とともに兵士の姿がドラゴンマスクに変わっていく。

『ベリルや、大丈夫か?』

「だ、大丈夫です龍神様、ちょっと驚きましたけど。」

『まあ、その装備はちょっとやそっとの攻撃でどうなるという代物ではないからの。ところでどうじゃベリル、ワシの言ったとおりじゃろ?』

「確かに。でも大丈夫でしょうか?」

『ん?ああミロのことか?大丈夫じゃ、ミズリーナの追跡には奴の師匠も付いておるからの。』

「私達も追って行った方が良いのでは?」

『心配するな、あのガルファイア・マーズという魔法使いはそこそこ出来そうじゃからな。』

「でも、あのミズリーナという魔物は現世魔王のところに向かっているのでしょう?いくらガルファイアさんが強いと言っても、もし、そんなのと鉢合わせたら…魔界の支配者と言われているくらいですし…大丈夫でしょうか?」

『たぶん強いじゃろうな、まあ、魔王ヤツには別の手を用意している。それと奴のところに行くにしても、ワシらはもう一働きしてからじゃの。』

「やっぱりですか?」

『そう、じゃ。クックックッ』

イグナートは思念波で悪そうな笑いをベリルに伝えていた。


ーーー◇◇◇ーーー


ミズリーナがサイズ王国の王城から出て来るのを隠れて見ている者がいた。


大魔導士ガルファイア・マーズとその弟子ミロ・アランダ、そしてミロの兄弟子のラーチケット・ビナドウだった。


「やはり出てきたな。イグナート様の言われた通りだ。よし、予定通り気配隠蔽の魔法を使って奴を追うぞ。」

ガルファイアがそう言うと二人は黙って頷く。


彼等に伝えたイグナートの計画はこうだ。

『まずドラゴンマスクの力で屋敷にいるデルスクローズの呪物を取り除いた後、ミズリーナを拘束し、一旦王城の牢獄に閉じ込めるが、隙を与えてわざと逃がせば、必ずブラドーグのいる場所まで行くだろうから、隠密裏に奴を追跡しブラドーグの居場所を見つけ出す。』

という内容であった。


ミロがフェナンシェの店から出て別行動をとったのは、ガルファイア・マーズに連携をとらせるためであった。

デルスクローズの呪物の情報をとってきたガルファイアや宮廷魔導士のラーチケット等にすれば、ミズリーナはサイズ王国の崩壊を目論む敵、つまり『獅子身中の虫』であり、意識を取り戻し事の全容を知ったデルスクローズにしてみても、出来れば自分達の手で何とか解決したいと思っているのは当然であるが、ミズリーナの様な者を相手取るにはまだまだというよりも全く力が及ばないのが実際のところであり、イグナートとしても人間界の問題は基本的には立ち入らないというのがスタンスであるが、大魔導士のガルファイアと同様に、今回の様な魔王に関わる事象や災害等の危機的状況にのみ助け舟を出すというのが本来の姿であった。


ーーー◇◇◇ーーー


時間を遡ってドラゴンマスクがミズリーナを倒していた頃、フレイルシュタイザー王国に残っていたゼクアとザドラスだが…

王都フレイルの武装は解除というか、完全に凍結されつつあった。


フレイルの街中に二人は立っていた。


「ゼクアよ、確かに無血とは言ったが、逆にこれは酷くないか?」

ザドラスが呆れたようにゼクアに問いかける。


フレイルの街の中は極地さながらの氷の世界となっていた。

街の人間は建物内に入り出てくることが出来ないくらいに街は凍りつき、出兵どころではなくなってしまっていた。

「ふふふ、お前の言う通りフレイルシュタイザー王国の国王の正体がフロズンであると仮定すれば、我らが奴と対峙すれば間違いなく氷系の魔法を使用するはず。私も一度は奴の魔法に屈する形にはなったが、一度見た奴の魔法は忘れん。戦ってわかったことだが奴は基本的に氷系の魔法しか使えない。この世のことわりでは同じ系統の魔法を使って街を凍らせても、この世界では他人の魔法解除は出来ない。つまり奴にはこの状況に手を出すことができないということだ!」

「なるほど、つまり奴がこの状況に自分の魔法を使えば、更にこの氷の世界の冷凍化が進み、状況が良くなるどころかかえって悪化するということだな?!」

「その通りだ。まあ国民には魔法の影響があまり及ばないようにとは言われているがな…」

「それでもエグいな。」

ザドラスが凍り付いた街を見ながら呟いた。


「あと、イグナート様からちょっと指示があって…」

ゼクアはザドラスに耳打ちをする。

「はぁ?!それを俺達に?!イグナート様も我々の扱いがエグいな。」

「ということで、フロズンが我らの位置に気付くまでにここから移動して準備を始めるぞ。」

ゼクアがそう言うと二人は静かに街を離れて行った。









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