第23話 魔法の修行
こちらはフレイルシュタイザー王国ノーフォレスト領のイグマ村を出たベリルとミロ達だが、既にベンやカーシャ達のいるグレンザの街に入ろうとしていた。
本当なら数日はかかる旅路なのだが、ミロの許可を取り、聖龍の『飛翔』というスキルで移動したのだった。
空は障害物もなく、ミロを抱えたままでも相当の速度が出るので、時間にして数分間、一瞬という感じだ。
空を飛ぶスキルや魔法は他に無い訳ではないが、そのスキルを持つ者や、魔法を使える者は非常に珍しく、空を飛べる者は少ない。
盗賊達が感知魔法を使っていても、100m程度の上空に気がいかなかったのは、そう言う理由があるからであった。
そう言う意味では、ミロについても盗賊に襲われた時には戦闘に集中していたため、あまり空を飛ぶという事に関して特に意識はしていなかった。
しかし、後になって、と言ってもかなり後となるイグマ村に到着の頃、その事実に気付き感動していた。
そして、今回は昼間にドラゴンマスクに変身したベリルに抱き抱えられて空を移動するという奇跡の体験に、心と体が歓喜に震えていた。
「べべべ、ベリルさん、凄いです!私の
実は、ミロがこの魔法を何とか覚えたいとベリルに頼み込んできたのだが、ベリルのそれは魔法ではなく、スキルであり、ミロにはというよりか、普通の人間には習得が出来ない事が判明したのである。
そのため、しばらくの間、魔法使いとしてのミロはかなりのショックを受けていた事は言うまでもない。
本来、『飛翔』のスキルは聖龍の固有スキルであり、人間には使えないというか覚える事すら不可能なスキルである。
なので、ベリルがこのスキルが使えるのは、たまたま、魔石を通して聖龍の力が使えるからこそ実現したものであり、魔石がなければベリルも当然使えないユニークスキルなのであった。
ということは、魔石のネックレスをミロに貸せば使えるのかと言う話になるのだが、それも不可である。
このネックレスはベリルだけが使用を許可された物であり、以前アンジェがこれを使って聖龍と会話をしようとしたが、失敗に終わっている。
とにかく、『飛翔』スキルが使えるベリルは希少な存在だと言えるのである。
ベリル達は人目につかない場所ということで、一旦グレンザの街の近くの森の中に降り、そこからは歩いて移動することになった。
街までの移動している間に、ベリルはあることをミロに尋ねる。
それは、魔法の事だった。
「ミロ様、私がアンジェ様の屋敷で教えてもらったのは、魔法の基礎的な知識と魔力の操作方法、そして魔力の感知系統とかの修業や授業ばかりでしたが、魔法による攻撃や防御といった本来の戦闘魔法の基礎というものを教えてもらっていなかったと思うのですが?」
「確かにそうです。それはアンジェ様が、ベリルさんが魔法の基礎を知らないので教えてやって欲しいと言われましたので、戦闘魔法の基礎ではなく、本来の魔法の基礎訓練をさせてもらっていたのです。基礎的な事を知らなければ戦闘魔法も使えませんからね。」
「なるほど…それで…本来、それらの魔法を覚えるためには基礎訓練にどれくらいの修行が必要なんでしょうか?」
ベリルは
「これは魔法の素養のある者でも最低三年以上かかると言われています。私も三年近くはかかりました。」
「ミロ様でも…なるほど…そうですか…」
さりげなくミロは、自分は三年は掛からなかったと自慢しているのに、ベリルはそれをサラリとスルーし、さらにそう聞いてガックリと肩を落とす。
ミロをもっと誉めてやれよベリル。
ベリルは魔法を使うためには簡単にはいかないと思っていたが、まさかそんなに時間をかけないと魔法が使えるようになれないなんて思いも寄らなかったようだ。
「ですが、ベリルさんはあんな究極の魔法が使えるんですから、気にしなくてもいいんじゃないですか?」
とミロが言ってきた。
だが、ベリルはその言葉に猛然と抗議する。
「全然ダメです。あんなトンでもない魔法ばかりを連発していたら、環境破壊が進んでしまいます。それに、私もミロ様の足を引っ張らないようになりたいんです。ミロ様も普通に人間相手に使用できる魔法の方が使い勝手がいいでしょ?」
人を殺す事を躊躇していたベリルがとんでもないことを言っている。
「た、確かにそうなんですが…」
なのでミロが少しベリルの申し出に躊躇する。
「なので、いくつか教えて貰えませんか?」
ベリルが戦闘魔法の指導をミロにお願いをする。
「うーん、これっていいのかな?」
ミロがベリルに魔法を教える事に抵抗を覚えている。
「お願いします!」
真剣に頼み込むベリルを見て、仕方がないと観念したのかミロが返事をする。
「うーん、じゃあ、とりあえず攻撃魔法は危ないので、覚えて貰う魔法はひとつだけにしましょう。」
「えっ?!本当に教えて頂けるのですか?」
「えっと、ベリルさん?貴方が教えてくれと言ったのに面白いことを言いますね?」
「いや、だって魔法の素養のある人でも、初めての人は魔法を教えて貰うのに三年以上かかると言っておられたんで…断られても当然と思ってました。」
「まあ、確かにそういうところはあるんだけど、ベリルさんは少し別格ですから。」
「そうなんですか?それはどうも、ありがとうございます!」
ベリルはミロに頭を下げる。
ミロは聖龍に認められたベリルに対し特別な気持ちを持っていた。
魔法の神様的な存在に認められた人間。
それは魔法を、魔道を追求する人間にとって非常に誉れ高き事であるからであった。
それが彼女の持つ別格という気持ちであった。
「じゃあ、街に入る前に少しだけここでやっておきましょうか。」
ベリルはミロにそう言われて、辺りを見回す。
まだ、街には遠く、結構な森の中であった。
近くは道路も整備はされてはいるが、昨日の件もあったので、獣道を選んで通っていたからだ。
それなのに、それこそ盗賊に目立つ様な魔法の練習をここでやるのかとベリルは驚いた。
「えっ?!ここでですか?」
「そうですが、何か?」
「イヤイヤイヤ、こんな所だと昨日みたいな盗賊に見つかったらどうするんですか?」
「大丈夫ですよ、こんな街に近い森の中で盗賊なんて出ませんよ。さあ、やりましょう。」
とミロが盛大なフラグを立て、魔法練習が始まった。
「こういうものは本人の感覚が大事ですから…まずは、ベリルさんが使ってみたいなと思う呪文を教えて下さい。」
「そう言われても、私の魔法の知識は龍神様から授けられた知識しか無いですし、もちろんミロ様の座学の授業で、ある程度の種類等はわかりますけど、戦闘において、何が有効な魔法で、何が有効でない魔法なのか、それがあまりよくわからないんです。」
「うーん、じゃあとりあえず、ここは森だし、火の魔法は厳禁だから、風か土、若しくは水かな。」
「なるほど、系統魔法という事ですね?それは思いつかなかったです。」
「ん?ベリルさん?今、系統魔法の中から選ぶ予定じゃなかったみたいな言い方でしたよね?」
「あ、ええ、何か、例えば『火』とかの系統魔法ってちょっとこの間、村が燃やされたのを思い出して恐くって…、それより毒や痺れの魔法とかなんかは軽くすれば良いのかなとか、呪いの魔法なんかは、火みたいに熱くないだろうし、痛くもないだろうから大丈夫かな、なんて思ってました。」
「それの方が恐いわ!!」
思わずツッコミを入れるミロだった。
『うわっはっはっはっ!ベリルや、お前も中々の天然じゃな!』
いきなり聖龍の笑い声が頭に響く。
「うわあ!龍神様!いきなり話しかけるなんて、驚くじゃないですか!」
ベリルが聖龍の声に驚く。
ミロもその様子を見て、ベリルが聖龍からの思念波を受けたことに気付く。
『いやあ、驚かせてすまんな。ところでな、ベリルや、お前達の話を聞いて思ったんじゃが、お前にぴったりの魔法があるぞ!』
「私にぴったりな魔法ですか?」
『そうじゃ!』
「それは一体?」
『生活魔法じゃ。』
「生活魔法?」
『そうじゃ、ミロにそれを言ってミロなんてな。うわっはっはっはっ!』
「全然、おもしろくないです!」
聖龍はそれだけ言うと再び沈黙したが、ベリルの聖龍に対する信仰心が少し減っていた。
「あの、ミロ様、龍神様がミロ様に生活魔法を教えてもらえと…」
「ああ、なるほど、それはいいかも知れませんね。」
ミロがそれを聞くとニヤッと笑って納得する。
「生活魔法って言うくらいだから、戦闘には使えないんですよね?それって?」
「ふふふ、生活魔法はね、王族や貴族が専属の魔法使いを雇う時の基準になっていて、それはとても繊細な魔力制御力や魔法操作力が必要で本来は全ての魔法を覚えるための登竜門的な魔法なのよ。」
「登竜門的な魔法?」
「ええ、今の魔法使いのほとんどは一部の魔法に特化したりしていて、全ての魔法が使える訳ではないのです。特に冒険者系の魔法使いなんかは、系統魔法のうち攻撃魔法で花形の『火の魔法』だけしか使わない人もいるわ。でも、生活魔法は違っていて、全ての系統魔法を扱わなくてはならないため、極める事は非常に難しく、普通の系統魔法が使えるだけでは無理なのよ。」
「えっ?それって、凄く嫌な予感が…」
「それなら、慣れれば街の中、家の中でも行使することが出来るわ。」
「た、例えばどんな魔法が?」
「んー、水系統なら『
「そ、そうなんですか、私はもっと戦闘で、こうミロ様の助けが出来る様な凄い魔法を…」
「ああ、それはもう結構ですから。」
ミロはベリルの言葉をバッサリと切り落とす。
「ええっ?!!そ、そうなんですか?」
「私、聖龍様に言われて気付きました。そう、ドラゴンマスクでない時のベリルさんに攻撃魔法は似合わないと…」
「ええっ??!!それって、どういう?」
「とりあえずベリルさんには、普段の生活の時のために生活魔法を覚えて頂き、後はそれを自分なりに工夫と調整で何とかしていただきます。」
「よ、よくわからないんですけど?」
「わからなくて結構です。さあ行きますよ!」
こうしてベリルは戦闘魔法ではなく、生活魔法をミロから教えて貰うことになったのだった。
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