第21話 昨日の反省と悪の企み

次の日、ベリルとミロはイグマ村を後にした。

「しかし、アイツ達のうち、一人でも生かして捕らえておけば良かったですね。」

ミロが昨日のことで、少し愚痴をこぼす。


「スミマセン。もう少し、僕、いえ私に余裕があれば良かったんですが…」

ベリルも昨日の事については反省ばかりである。

とにかく聖龍がアンジェに説明したように、聖龍の魔法は規格外過ぎて普通の戦闘には使用出来ない事が、立証出来た事になる。


「しかし、もう少しマシというか、戦闘で使える魔法が覚えたいですね。」

とベリルが言うとミロが、

「ベリルさん?もしかして、他にも聖龍様の魔法覚えておられるのですか?」

と尋ねてきた。


「え?ああ、そうですね、いくつかというか、かなりありますが…」

「かなり…ですか…?た、例えば?」

ミロが怖いもの見たさというか、聖龍の究極魔法にかなり興味がある様子である。


「た、例えばですか、うーん、聖なる龍神様の魔法なんですけど、自分から数㎞四方の生物を五代まで呪い殺す『極呪死滅魔法』とか、昨日の『隕石衝突メテオインパクト』の上位魔法で10倍以上の大きさのある『巨大隕石衝突メガメテオインパクト』、大陸全土の国を炎の海にして滅ぼしたとされる『炎滅』、何十年も草木が生えない程、地面が腐り続ける水の魔法『腐り雨』、その場にいる者の血液や体液を沸騰させる『血煮沸』とか…」

「ひぃーー!も、も、も、もう結構です。」

ミロは聞くだけで背筋が凍りつく様な気持ちになる。

それは、昨日の魔法を見ていたからであり、それがなければ只の、ホラ吹きの戯言としか思えない程の魔法である。

まあ、ベリルも最初はミロの様な反応だったが、

『自分が使わなければいいだけ。それにまだ、メテオの魔法はメガの上にギガとかテラとかさらに上位があるし…『炎滅』は普通の火じゃなくて石とか鉄も溶かす程の威力だと聞いてる。『腐り雨』は雨が降った場所にゾンビが湧き続けるとか、『血煮沸』はその対象の生物の体に触れたりしたら、その者がその魔法を抱えて移動して100体の生物にその魔法の呪いを感染うつさないと死ねないとか…まあ普通の魔法じゃないと、僕みたいな者でも思うよ。』

と思っているので、今は落ち着いている。


「でも、さっきの話に戻りますけど、昨日の盗賊って、本当に盗賊だったんでしょうか?ミロ様も人数が多すぎるとか言ってましたし…」

とベリルがミロに尋ねた。

「そうですね、確かに私達二人だけなのに対して、かなり多すぎると感じました。それは、彼らが私達の素性を知っていたからなのではないかと思います。」

「そうですか、やっぱり。」

「ベリルさんも感じていましたか?」

「ええ、魔法のレベルも私がミロ様に教えてもらったものよりも、非常に高かったですし、あの連携した動きは確かに訓練された人達のものだとしか思えませんでした。イグマ村の人達も大人数で私達二人を狙うのは珍しいと言っていましたし…」

「となると、最初から私達を『ドラゴンマスク探索隊』の者であると認識していた可能性があるな…」

「そんな…結成もまだ公にされていないのに…誰が…あっ、そうすると先にギルアリアを出発しているカーシャさん達も狙われたのでしょうか?!」

「それはわからないな、護衛の剣士がついていたのだろう?」

「ええ、ヒューノさんですよね、それはそうなんですが…」

ベリルに一抹の不安がよぎる。カーシャの一行には士族のサテライト家三男、ヒューノ・サテライトとベリルの幼なじみのベンが同行している。


『ベン、どうか、無事でいてくれよ。』

ベリルはみんなの無事を祈っていた。


その頃、ベンはベリルの心配を他所よそにカーシャ達と無事、ノーフォレスト領の中心街グレンザに到着していた。


「昨日の大きな音と地響きは凄かったですねぇ。」

ベンがカーシャに話しかける。

ちょうど、二人は大きな仲買の商人の店から出てきたところだった。

「ええ、そうですね。何があったんだろう?」

カーシャはベンの言葉に相槌は打つものの、余り、昨日の件には興味が無いようであった。

それよりも、アンジェに頼まれた仕事を完遂することに神経を集中していた。


「それと、カーシャさん?兵糧にする食料の手配は済みましたし、次は衣類や雑貨ですかね?」

ベンが、カーシャに尋ねる。

「そうですね、塩や油は検閲が厳しいので多くなると国の許可証が必要なので少ししか手配出来ませんでしたが、多少は何とかなりました。それよりも難しいのは武器の材料となる鉄鉱石でしょうか、あと、最近、南方の国で発明されたという大砲や銃とかに使う火薬も規制が厳しいので入手は困難でした。とりあえずは入手可能な物資の確保に努めましょう。」

「わかりました。では食料は、フリークス領の人口を約一万人とすると、最低その内1割の人間、つまり千人が兵士や騎士で、物資の兵站が、約五分の人間、50人が必要ですね。」

「ああ、その通りだ。だが、少し少ないな。」

「ええ、そこは領民を支援に使うということで…」

「何人くらいだ?」

「そうですね、村の数に比例しますけど、各村から自分達の村を守るためと言う名目で出してもらえば200人は確保出来るかと…」

「あー、それは仕方がないな、でも一般民を戦場に近付けるのはアンジェ様が嫌がるからなあ。」

カーシャはこのベンの計算の速さには一目置いていた。

取引に使う金の計算から物資の配給品の数量と各街や村に対する振り分け量の均等計算、先程の戦争時における人や物の配分等、あらゆる『数字』に関する事に対して瞬時に答えを出した。


ベンはベリルが知らない能力を持っていたのだ。


ところで、彼等にベリル達の前に現れた様な盗賊がいたのかという事だが、結論的に言うと、それはなかった。

何故かと言うと、この街に入る前の彼等は物資を調達する前、つまり、取引のため、ある程度の金銭は所持してはいたが、食料等の物資は持ってはいないため、酒や食料、衣服等を中心に狙う盗賊にとってからの馬車は狙う価値もないという訳なのだ。


彼等は、基本的に街に出て行って買い物をする様な危ない真似はしない。

金銭を持っていても街に入る時の検閲で、身分証の提示を求められるため、直ぐに身元がバレてしまい捕まるのがオチである。

例え、買い物をする事が出来たとしても、盗賊団となれば大量の買い物をする必要があるので、それを街で購入したり、森の中にあるアジトに運んだりする手間やリスクを考えれば森の中を大量の荷物を載せて通る馬車を狙う方がよっぽど効率が良いのだ。

それに例え『ドラゴンマスク探索隊』を狙うつもりであったとしても盗賊を装うのであれば積荷がある方が格好が付くという意味でも、彼らは町を出る時に襲う予定であったようである。


なので、彼等は無事だったし、帰りも多分大丈夫だろう。

何故なら、彼等を襲うはずのその盗賊達はベリルが既に魔法で一掃しているからだ。


何という事だろう。

そう、ここでも、あのアンジェのスキル『強運の引き』の力が発揮されていた。

彼女は『兵糧』という物を、欲した。

その時に彼女の神スキルが発動したのだ。

なので多分、あの物資は無事、それを欲した彼女の元へ届くであろう。


恐るべし神スキル。


ーーー◇◇◇ーーー


ここはノーフォレスト領のとある屋敷。


「デザベル!」

「はい、失礼します!」

名前を呼ばれた男が慌てて、その声の主の部屋に入る。

周囲の雰囲気からかなり立派な屋敷の中のようである。


「昨日、魔法使いの女を始末しに行った奴等は帰ってきたのか?」

「はっ、その事ですが、見届け人の話では、どうも奴等は今朝になっても戻って来ていない様子でして…。方角からして、もしかすれば昨日の巨大な火柱が魔法で、それに巻き込まれたのではないのかと?」

「何だと?魔法?あれ程の音や衝撃がか?バカなことを、どう見ても天災レベルだろう。どこをどうやれば、人があれだけの魔法を行使出来るレベルになるのだ?」

「確かに言われればそうなんですが…偶然にも二人が通った場所に近いようですし…相手は魔法使いですから…」

「まあ、そこで多少巻き込まれたとしても、確か奴等は全部で50人はいたはずだ…、爆心地から離れていた者もいるだろうし、まさかそれだけいて討ち漏らすことは万に一つも無いだろうが…」

「ええ、確かに、いくらあの小娘が大魔導士ガルファイアの弟子といえども暗殺者級アサシンクラスが10名もいる中を突破出来るとは思えません。ただ…」

「ただ?」

「ええ、取るに足らない噂なのですが、フリークスに入り込んでいる手下から妙な話を聞きまして…何でも、『ドラゴンマスクという英雄がフリークスに現れた』というものでして…」

「何?『ドラゴンマスク』だと?何だそれは?」

「ええ、なんでも、神とも悪魔とも思えるような凄い力でギルアリアの街に現れた魔物数百体を倒したとか…まあ、あくまでも噂なのですが、そんな存在がもし、居たとすれば流石の奴等でもやられるのでしょうが…」

「ふははは、そんな存在がいる訳ないであろう。今は神代かみよの存在が没した世界…誰もが現実の、自分達の力を信じる時代だ…そんな存在がいると誰が信じるのだ!」

「もしかすればサイズの王位継承争いに中立を保つためのフリークスが企てた策略噂話かも知れません。」

「なるほどな、だが、その様な根も葉もない話はどうでもいいとして、奴等がきっちりあの魔法使いを始末したか確認を取れ。」

「わかりました。」

「それと、先にフリークスを出ていた商人どもはどうなっている?」

「あれは今、グレンザに入っております。彼等にはアクトゥーラ様の御言い付けどおり見張りを付けております。今は泳がせていますが、盗賊の仕業に見せるため、奴等が荷物を載せ、フリークスへ戻る道中を襲わせる予定です。」

「なるほどな、わかった。フリークスの奴等には色々と邪魔をされているからな、たまにはこちらからも痛い仕返しをせねば…」

「その通りでございます。…では、失礼します。」

デザベルは部屋から出て行った。


「グロウ!」

その後、直ぐに、アクトゥーラが名前を呼ぶと、いつの間にか部屋の中に、先程のデザベルとは違う男が現れた。

男は、アクトゥーラの前に跪くと、返事をする。

「はっ!お呼びでしょうか?」

「お前は中央へ行き、現状を報告しろ。魔法使いの件は継続中だとな。」

「わかりました。」

グロウと呼ばれた男は頭を下げる。

ちなみにここで言う『中央』とはフレイルシュタイザー王国の王都のことである。


「恐らくは、彼等は魔法使いにやられたであろうと、思われる。」

アクトゥーラが口を開く。

「で、では!!あの小娘が?」

「いや、それはまず無いだろう。まあ、確証の無き事だが、デザベルの話にあった『ドラゴンマスク』とか言う奴の事だ…もしかするとガルファイアが其奴に成り済まして裏で動いている可能性がある。」

「確かに…大魔導士と言われる程の者ならば…」

「恐らくは可能だろう。」

「デザベル様の報告は待たなくても?」

「構わん、あれは事後処理みたいなものだ。それよりも、その魔法使い達の動向が気になる。それと王位継承争いに乗じてフリークスの娘が父親と一緒になって何やら不穏な動きをしている。こちらに戦争を仕掛けるつもりなら逆にめてやるのだがな。」

「彼等は我々の計画に気付いたのでしょうか?」

「それはわからん。ただ、妙な動きをしているのは間違いない。現在、サイズとは表面上、友好国として国交を解放しているので、サイズ王国の人間が流入することに関しては規制がかけられない。例えスパイがこの国に入っていたとしても表面だけの検問ではどうにも出来んがな。」

「その通りで…まあ、こちらもサイズが内乱に陥れば、その機に乗じてサイズに攻め込むつもりとは知るはずもないのですから…」

「グロウ!」

アクトゥーラが喋りすぎの部下を注意する。


「口は慎め!誰が聞いているかわからないからな。」

「すみません、調子に乗ってしまいました。申し訳ありません。」

「まあ、ここまで入り込む奴もいないとは思うが念には念を入れなければな。」

「はい、それでは、私は中央に向かいます。」

「うむ。」

グロウもデザベルの様に静かに部屋を出ていった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る