第34話 ミロの迷い
サイズ王国メイッサリア王女付きの侍従長アステアと王女の護衛リアンヌの二人はミロに連れられてカーシャの泊まっている宿屋に来ていた。
「御迷惑をおかけしてスミマセン。」
部屋ではアステアがカーシャ達に頭を下げていた。
すると、カーシャはにっこりとしながら、
「アステア様の方こそ、私達の後を付けてここまで来られるのは大変だったでしょう。」
と今まで自分達の尾行をしてきていた事を責めるよりも相手のことを気遣う素振りを見せるとアステアは目に涙を浮かべる。
その涙には、王都から事態を収める為にフリークスまで旅をしてきたが、途中、内乱勃発の危機が発生し、自分達の命が狙われ恐怖に怯える厳しい日々に耐えていた事を意味していた。
「これから、どうされますか?」
カーシャがそうアステアに尋ねるとアステアは、
「王女様の元に戻りたいのですが、今の情勢ではそれも難しいかと…」
と答える。
「そうですね…」
カーシャがアステアの言葉に頷く。
確かに、内乱が勃発する危険性がある最中に、二人が王都へ帰るには非常に危険すぎた。
「ではこうしましょう。アステア様達は一度フリークス領においで下さいませ。アンジェリーナ様に事情を説明すればしばらく身を隠す事は出来るかと思います。それからの事はフリークス領に着いてからということでどうでしょう?」
カーシャがそう言うとアステアが何かを考えている様子で言葉を返す。
「申し出は大変有り難いのですが、もしデルスクローズ殿下が王位に就くこととなればフリークス家もどういった処分を下されるか…」
アステアは第三王子であるエイドリアルの身柄を預かっているフリークス家の事を考えていた。
デルスクローズの性格であれば、第三王子側に付いているフリークス家はもちろん、今後自分に対し
それに加え、もし自分達がフリークス領の庇護下にあるとデルスクローズ陣営に知られれば、メイッサリアにもエイドリアルとの間にあらぬ疑いをかけ、王女自身も処分対象にし得る事も考えられたからだった。
彼女の言葉からそれらを察したヒューノが言葉をかける。
「今のところ貴方達がフリークス領に入るという情報は漏れてはいないでしょうが、このままここにいてはデルスクローズ殿下の配下の手はいずれこの地まで伸びてくる事になるでしょう。貴女達は私が必ず守りますので、どうか安心してフリークスまでおいで下さい。」
カーシャ達の護衛をしているヒューノ・サテライトは士族サテライト家の三男である。
彼の仕事は、当然ながら戦士として戦うこともあれば主君やその家族を守る事である。
今、自分の目の前にいるのは王族でもなければ貴族でもない。
だが、彼女達を守ることにより後々、王子や王女の命を守る事に繋がるとなれば守る事は当然であると言えた。
ヒューノの出で立ちから士族であるとわかったアステアはその言葉を聞くと涙を一筋流し黙って頷いた。
「わかりました。では、よろしくお願いします。」
そう一言ヒューノに告げた時、外からベリルが帰ってきた。
「どうでしたか?」
ミロが視線をアステア達からベリルに移しながら尋ねる。
ベリルは部屋の中を見回し、カーシャ達に気を使いながら、この場では言えない話があるとミロに目で応えるとミロもそれを察して立ち上がり、ベリルと共に部屋を出た。
部屋の外に出るとベリルは先程の男達の事をミロに報告した。
「彼等には洗脳魔法が掛けられていました。」
「洗脳魔法?!」
「ええ、腕に洗脳魔法の魔法陣が描かれていました。それで彼等は操られていたのだと…」
「なるほど…それは一体誰が?」
「多分、…トニー・デニサイトの仕業かと…」
「何?!それってエイドリアル殿下を襲おうとした大魔導士ではないのですか?!」
「はい、龍神様によれば魔法陣の系統からまず間違いないだろうと…」
「しかし、一連の行動から、彼はデルスクローズ派だと思うのですが、何故メイッサリア様まで付け狙う?」
「さあ、そこまでは分かりかねますが…」
聖龍の知識を持つベリルにもそこまで詳しくはわからなかったので、そう答えるしか無かった。
「どちらにしても、このままにしておく訳にはいきませんね。」
ミロはカーシャ達がいる部屋の扉を睨みながら呟いた後、ベリルに尋ねる。
「ところでトニーは今どこに?」
自分の師匠であるガルファイア・マーズと共にベリルが捕らえている大魔導師の行方をミロはまだ聞いていなかった。
「龍神様の祠の方に…強力な結界を張って閉じ込めています。」
「そ、そうでしたか…」
それを聞いたミロはホッとした表情となる。
生半可な牢獄などあの大魔導師にとってはゆりかごと同じだ。
「ミロ様はこれからどうされますか?」
「私は…」
ミロには現世魔王の捜索を師匠であるガルファイアやアンジェから現世魔王の所在を確認するという重大な任務を命じられている事もあり、アステア達の事にばかり首を突っ込んでいる訳にもいかないという理由があった。
だが、この件に大魔導士が絡んでいたため話がややこしくなってきていたのだ。
「一度、御師様に相談してみます。」
ミロは一言そう言うとカーシャ達のいる宿屋から出ていった。
ベリルは一旦カーシャ達のいる部屋に顔を出して一言挨拶をして帰ろうとしたが、そこでベンに捕まってしまった。
「おーい!ベリル!話を聞いたけど、なんかミロ様に魔法を教えてもらっているみたいだな?」
ベンもカーシャもベリルの正体こそ知らされてはいなかったが、ベリルがアンジェの命令でミロから魔法の指導を受けていることは聞かされて知っていた。
ベンはベリルの肩に腕を乗せて、ニヤリと笑う。
「えっ?あっ、ああ、そうなんだよ、まあでも、余り上手くいかなくてな…」
ベリルは魔法の修行が上手く出来ていないフリをした。
本当は聖龍の力により、とんでもないレベルの魔法を使っているのだが…
「そうなのか…まあ、ベリルの事だから親父さんに似たら魔法もいいトコまで行くんじゃないのかな。」
ベンはベリルの肩に乗せた腕を外すと、その手でベリルの肩を叩きながら、ベリルを慰める。
ベンがそう言ったのは、魔法が使えれば魔華族とまではいかないが、国から優遇され、かなり良い仕事にありつけるからであった。
「今は無理だけど、今度、暇が出来たら、飯でも一緒に食いに行こうぜ!」
「ああ、わかった、ありがとう…」
ベリルはこの陽気な友人に秘密を隠している事の後ろめたさを感じながら部屋を後にした。
「あの方は…」
アステアは、ミロと一緒にいたベリルが、先程自分達のいた建物までやって来た例の男達を一瞬で倒していたことを知っていたが、この宿屋に来る途中、ミロから絶対に彼の事を口外しないように口止めをされていたためカーシャ達には何も言わなかった。
そのため、彼には何か重大な秘密があるのだろうと感じていた。
「それでは、荷物をまとめて出発しましょうか。」
カーシャが立ち上がり皆に言うと、それを聞いたアステアはカーシャ達が注文の品が届くのを待って延泊予定でいると思っていたので不思議そうな顔をして尋ねる。
「えっ?出発はまだなのでは?」
カーシャはニヤッと笑って応えた。
「心配は御無用です。」
ーーー◇◇◇ーーー
宿屋近くの路地裏でミロは師匠のガルファイアと思念魔法で話をしていた。
ここなら誰かが来ても直ぐにわかるし、周りに人もいないので話を聞かれることはまずなかった。
「ーーという訳で、御師様、わたくしはどうすればよろしいでしょうか?」
ベリルはその様子を真剣な面持ちで見ている。
「はい、わかりました。」
ミロは最後にそう答えると念話を終えた。
「ガルファイア様は何と?」
ベリルが恐る恐るミロに尋ねる。
フリークス領まで戻るのか、それとも現世魔王を探す旅を続けるのか、どちらにしてもベリル達にとっては厳しい事になるのは目に見えていた。
「現世魔王の所在を追えと…」
ミロは一言そう言った。
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