第28話 魔法陣解除

トニーがエイドリアル王子の進路手前に仕掛けた魔法を解除することが不可能であるとガルファイアから言われたベリルがガックリとしていた時であった。


『ベリルや、何をそんなに塞ぎこんでおるのじゃ?』

聖龍の思念波であった。


「あ、龍神様!実は…」

ベリルが聖龍の呼びかけに声を出して応え、

ガルファイアがそのやりとりを隣で聞いている。

『なんじゃ、そんな事か。』

「そんな事って…指定された魔法はエイドリアル殿下にしか反応しないので、そう簡単に見つけられないし、解除も簡単には出来ないらしいんですよ、こうしている間にもエイドリアル殿下はこちらに向けて進んでいるみたいですし…龍神様には何か良い考えでもあるのですか?」

ベリルは聖龍の言葉に反応した。


「どうした?何か聖龍様に言われたのか?」

ガルファイアがベリルの言葉を聞いて尋ねてきた。

「あ、いや、その、仕掛けられた魔法の事を『何だそんな事か』と言われまして…」

「何?それは本当か?!まさかとは思うが…ベリル君、ちょっと私にも聖龍様と話をさせてくれないか?」

ガルファイアはベリルの言葉に顔色を変えてそう言った。


「話ですか?」

ベリルが聖龍にその事を伝えると、聖龍はベリルが旅に出る時にミロにやってみたような『思念波』をガルファイアに送った。


『ガルファイアとやら、この話に興味があるようだな?』

『ははあ!!』

ガルファイアもミロの時と同じ様に、ベリルの前でひざまずく。

正確にはベリルの着けているネックレスだ。

聖龍は魔法を使う者達の間では『神』的な存在であり、魔法使いの頂点とも言われる大魔導士一人であるガルファイアでさえこの様に跪くのだ。


『何卒、そのお知恵とお力を私共にお貸し下され!』

『うむ、良かろう。では、その方法を教えるが、ただ、このやり方はベリル、つまりドラゴンマスクの力を必要とする。』

聖龍がそう断言するとガルファイアも納得の表情で頷いた。

『やはりそうでしたか…』

『気付いておったか…』

『はい、古代の魔法にはあらゆる呪文を解除する呪文が存在したと…ただ、それを扱うには膨大な魔力が必要であると聞き及んでおります。』

『その通りじゃ、並みの魔法使いであれば千人は必要じゃな…』

『せ、千人ですか?』

ベリルも横で聞いていて流石にその数に驚く。


『トニーとやらが設置した魔法の位置は既にワシが目に見えるようにしておる。マーキング程度なら楽じゃからな。後はベリル、いや、ドラゴンマスクに与えた魔力を使って古代の魔法の解除呪文を唱えれば良いだけじゃ。』

『そうでしたか!ありがとうございます、それでは早速始めさせてもらいます!』

ガルファイアは頭を下げ、

「ベリル君!古代魔法を使ってくれ!」

そう言ってベリルに指示を出し、ベリルもその言葉に頷く。


ベリル達は空に舞い上がると、先程追い抜いたエイドリアル達の方に再び戻る。

すると、その途中で例のモノが姿を現していた。


「あった!」

それは

それは直径が100mを越えるほど巨大な魔法陣であった


『魔法陣は術式の中でも昔から使われている方法だ。その規模によって込められる魔力量が変化する。』

聖龍がそれの解説をしてくれた。

『と言うことは、この大きさなら…?』

『数㎞先まで破壊力が到達するじゃろうな。』

『えっ!?』

ベリルはそれを聞いて、驚きに唾を飲み込む。

『人間の魔力でそこまで破壊することが出来るのですか?』

『まあ、奴が大魔導士というのも嘘や伊達じゃないと言うことだな。』


ベリルはこの様な大きな魔法陣があることにも驚いたが、ただそれは1つだけでなく見渡すだけで10個以上はあった。


『こんな短期間でこれ程の魔法陣を設置するなんて…』

聖龍の言う通り、トニーは流石大魔導士と言えるだろう。

ドラゴンマスクの能力で遠くを見たが、既に一行はトニーが仕掛けた指定魔法の直前までやって来ていた。


「ベリル君、俺が殿下達を引き停めておくので、解除を!」

「わかりました。」

二人は二手に分かれて移動する。


「早く解除しなくちゃ!」

ベリルは聖龍に教えられた解除呪文を唱え始めた。

普段は無詠唱であるのだが、これは古代魔法のため少々の詠唱を必要とした。


詠唱は古代語のため何を言っているのか全くわからないが、ベリルは頭に流れ込んできた言葉をそのまま詠唱していた。


「あっ!」

呪文の詠唱が終わると大きな魔法陣がその形を維持できなくなり消滅していく。


「よし、次だ!」

ベリルは最初の魔法陣の消滅を見届けると次の魔法陣に移動した。


その頃、ガルファイアはエイドリアル達の前に現れていた。


「おーい!その一行!ちょっと止まってくれ!」

大きな声を出してエイドリアル一行の前に空から舞い降りながら立ちはだかった。


「な、何者だ!怪しい奴!」

「こちらはエイドリアル第三王子の一行であるぞー!」

「名を名乗れ!」

先行していた部隊の騎士が剣を抜いて構えた。

流石に先程、ウギーズの部隊に囲まれていたこともあって、騎士達の顔には極度の緊張が現れている。


「まあまあ、慌てなさんな。」

ガルファイアが何かの魔法を使用すると騎士達の動きが止まる。


「なっ!?か、体が動かない?」

「何だこれは?!」

突然の事に騎士達の声が上擦る。


「どうした?!何があった?!」

そこにやって来たのはエイドリアルの側近でアンジェの兄であるヴェルトナであった。


「あっ!」

ヴェルトナはガルファイアを見ると直ぐに反応した。

「これは!ガルファイア様!」

ヴェルトナはガルファイアの前に進み出ると右手を胸に当て一礼する。


「おーダイス殿の息子ではないか!久しぶりだな。」

本当はアンジェに様子を見てくれと頼まれてここまで気配を消しながら付いて来ていたのだが、ガルファイアは白々しくヴェルトナに挨拶をする。


「どうしてここに?」

ヴェルトナがガルファイアがここにいる理由を尋ねた。

まあ、大魔導士がこんな片田舎の外れの街道に現れる事を不思議に思ったのだろう。


「いや、何、只の散歩の途中だ。だが、その散歩でとんでもないことを見たんでな…」

「とんでもないこと?それは一体…?」

当然そんな事を言われれば気になるのが人である。


「ドラゴンマスクだよ。」

「ど、ドラゴンマスク?!」

ドラゴンマスクの事はフリークス領内の貴族ジャミル・ワイドハイルから聞いて知っているし、巷ではフリークス、いやサイズ王国の救世主ではないかとまで言われている者であり、知らない訳がない。


「ドラゴンマスクがどうしたのですか?」

ヴェルトナはガルファイアの口からドラゴンマスクという名前が出た事にも驚いていたが、このタイミングでドラゴンマスクが自分達に少なからずも関わっているという偶然に心臓の鼓動が早まるのを感じていた。


「この先で王子達を狙う魔法使いがいてな…」

「えっ!?魔法使い?」

ヴェルトナはガルファイアの言葉に緊張を隠せなかった。

「そう、身構えるな、まあその魔法使いは俺とドラゴンマスクの二人で捕まえたんだが…」

「捕まえた?というかガルファイア様はドラゴンマスクの事を御存知なんですか?!」

ヴェルトナはまさかガルファイアとドラゴンマスクが一緒に行動しているとは思っても見なかったので、その驚きはかなりのものだった。

「御存知というか、いや何、先程たまたま奴と一緒になってな、まあ、それよりもその魔法使いがこの先で大きな魔法陣を仕掛けていたのだ、それもエイドリアル殿下だけに反応して発動する大型の魔法をな。」

全部本当の事を喋る訳にはいかないので、ガルファイアはベリルとの関わりを上手く濁して本題の方に話を進めた。


「何と!それは誠ですか?で、その魔法陣は?」

「それなんだが、今、ドラゴンマスクがその魔法陣の解除にあたっている。だが、大きさや数が問題でな、このまま王子が進んでしまえばこの辺り一帯がとんでもないことになるので進むのを止めに来たのだ。」

「な、なるほど、そうだったんですか。わかりました。ではそれが終わるまで我々はこちらで待機する事にします。」

ヴェルトナがそう言った時だった。


「どうされました?何かドラゴンマスクがどうとかと聞こえましたが?」

ジャミルがドラゴンマスクの名前を聞き付けてこちらにやって来たのだ。


『面倒な奴が来たな。』

ガルファイアはそう感じた。

ファイル程ではないが、ジャミルもそこそこ頭が切れる。

それにミロやアンジェらの話で、ジャミルも『ドラゴンマスク探索隊』に入っていると聞いてはいるがアンジェがドラゴンマスクの正体を今のところ探索隊の誰にも明かしていない事も聞いていた。

そんな訳でガルファイアの独断でドラゴンマスクの正体を今の時点で明かすわけにはいかなかった。


「貴方は?」

ジャミルはガルファイアの事を知らなかったが、ガルファイアは事前にアンジェから探索隊に指定する要員について相談を受けていた事もあって要員候補であった『フリークスの守護神』ことジャミル・ワイドハイルの事は聞き及んでいたし、その者の姿もミロの伝達魔法により把握していた。

なので先程のジャミルの火ダルマ状態を救ったのもそのためだった。


「こちらは彼の大魔導士ガルファイア様だ。」

そう言ってヴェルトナがジャミルにガルファイアを紹介する。

「えっ!?」

ジャミルは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、直ぐに平静を取り戻し、ガルファイアに一礼する。


「ドラゴンマスクがこの先でエイドリアル殿下に反応する魔法陣の解除をしているらしい。」

「なんですって?!それは本当ですか?」

ジャミルはヴェルトナからそれを聞くと直ぐにその方向へ足を向けようとした。


「どこへ行く?」

ガルファイアがジャミルに声を掛ける。

「ドラゴンマスクの確保を…」

「止めておけ。邪魔だ。」

「な、何を?!」

ジャミルはガルファイアから制止され、目を剥く。

ドラゴンマスク探索隊員として任命され、少ない目撃情報の中で、ようやく目の前にドラゴンマスクがいると言われて行かない訳にはいかなかった。

それを止められたのだから頭にくるのは当然だった。


「今、ドラゴンマスクはここ一帯が破壊しつくされる様な魔法陣の解除に当たっている。そんな所にお前のような者が行って巻き込まれでもすれば、王子に被害が及ぶのは必至。そんな状況を作り出されてはこちらも迷惑でしかないからな。」

そう言ってガルファイアはジャミルの行動を切り捨てる。

「くっ!」

ガルファイアから正論をぶつけられたジャミルも反論が出来ない。

この国の最悪な状況を打破するためにはドラゴンマスクの力が必要であることはジャミルにも十分にわかっていた。

だが、エイドリアルの命が掛かっていると言われれば引かざるを得ない。

そんなジャミルの気持ちを察してか、ガルファイアがジャミルに声を掛ける。


「まあ、もう少し待っておけ、もうじきに終わる。」

ガルファイアはそう言うとベリルのいる方向を見た。

『頼むぞベリル君…』










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