第59話


「ひいちゃんこの展開はなに?まずくない?!奈々いきなりどうしたんだろう…」


私は電話をおいてひいちゃんに波乱の予感を伝えた。なんか起きそうなんだけどひいちゃんは真顔で酒を飲んでいた。


「日本離れるからじゃないの?そんななんか起きないだろ」


「まじで?!私怖いんだけど…」


「なんで?そんななんかしそうに見えないし、私の事はそれなりに話してんじゃないの?」


「うん、それはまぁ話してるけど」


「じゃあ、挨拶的な感じじゃないの?あの子可愛かったからちょっと緊張するなぁ」


絶対緊張してないでしょ?って感じのひいちゃんの意見にまぁまぁ納得したけどなんかハラハラしてしまう。ひいちゃんは奈々との事を全て知ってる人だけど改めて奈々の事を紹介するとなるとちょっぴり緊張する。

しかし、そんな事を今思っても仕方ないので私はとりあえず酒を飲んだ。


「まっ、それならとりあえず酒飲んで明日考えよう」


「いや、明日は早く起きて化粧するから」


しかし、ひいちゃんは酒を飲みながら真顔で言った。

泊まった時いつも化粧してないのにどうしたの?


「え?しなくても可愛いよひいちゃん」


「だめ。ちゃんとした格好で会わないと失礼。あの子可愛いし」


「いや、だからそのままでも行けるってば」


「絶対ダメ。ちゃんとした服持ってくればよかった」


地味にやる気のひいちゃんに私も気合いを入れるべきか悩んだが悩んだ所ででかいのは変わらないのでそのままいく。なるようになるよ人生。


私達はその後しばらく飲んでから寝て翌日にしっかり化粧をした。ひいちゃんは奈々と会えるのをなんだか楽しみにしている感じで来るのを今か今かと真顔で待っていたが奈々が実際に来てから私はハラハラしていた。


「あ、奈々いらっしゃい」


「うん。あっちゃんいきなりごめんね?」


「いや、全然いいよ」


普段と特に変わらない奈々を部屋に通してひいちゃんと改めて対面させる。お互いに頭を下げながら挨拶しているのを見ると親に会わせている気分だった。

私は早速奈々をひいちゃんの対面に座らせると二人の間の横に座った。


「えっとじゃあ、改めて紹介するね。こっちは会社の先輩で友達のひいちゃん。ひかりって名前でひいちゃんね」


まずはひいちゃんを紹介するとひいちゃんはにっこり笑った。


「よろしくお願いします」


「あ、こっちこそお願いします。私の事はあっちゃんから聞いてますよね?」


「あぁ、はい。奈々ちゃんですよね?勝手に呼んでるけど」


「それは全然大丈夫です。私もひかりちゃんて呼んでいいですか?あと、敬語もなしで話しませんか?堅苦しくしたくないので」


「あぁ、はい。お願いします」


ふむふむ。二人はそれなりに話をしてまぁ、普通な空気だ。これならなにも起きなさそう。だけど、なにしたらいいんだろう私……。私は黙って様子を伺っていたら奈々は来た時から持っていた紙袋をテーブルにおいた。


「それで、あの、これはお礼なんだけどあっちゃんは私達の話をしてると思うから間接的に私もお世話になってるから日本離れる前に直接お礼を言っておこうと思って」


「え、いいのに」


「いや、でも、私達の付き合いにも好意的に接してくれてるみたいだし、あっちゃんも私に話せない事とか話してると思うから本当にありがとう」


「私は応援してるだけだけどそういう事なら受け取っとく」


ひいちゃんはいつもの真顔からは考えられないくらい優しい表情をしていた。ひいちゃん私に塩対応すぎるよ?ていうか、奈々の超能力は全てを見通していてもはや千里眼だった。奈々察しが良すぎない?占い師やれば?


「指輪貰った時どうだった?朝海ずっとひよってたから心配してたんだけど」


そしてひいちゃんはやめてと思うような話をしだした。しかし、口を挟む間も無く奈々は言った。


「嬉しかったよ。あっちゃんらしく緊張してたけど本当に嬉しかった。あれもひかりちゃんが助言してくれたの?」


「私は助言って言うか本当の事を言っただけ。応援はしてたけど、ここまで上手く行くと私も嬉しいよ。朝海今までで一番頑張ってたから」


「ちょっとひいちゃん!奈々も聞かないでいろいろ!」


私はもうすぐに止めにかかった。

こんなの私がいない時にやってよって感じだが奈々はにっこり笑った。


「そんな怒んないでよあっちゃん。日本離れるから会っておきたかったの。仲良しなんでしょ?」


「まぁ、そうだけどさぁ……」


「朝海あっちゃんって呼ばれてんだね。ふふ……」


「え、ちょっと笑わないで……。いいでしょなんでも」


ひいちゃんは本当におかしそうにクスクス笑っていてもう頭を抱えそうだった。言ってなかったけど知り合いに聞かれるのはちょっと恥ずかしい。私年下だし……。


「奈々ちゃん海外でも頑張ってね?応援してる。朝海が浮気しないように私が見張っとくから朝海は任せといて」


「え、ねぇ?ちょっと……」


突然話が変わってまた突っ込みたくなったが奈々に先を越された。


「ありがとうひかりちゃん。あっちゃんの事よろしくね?もうしばらく会えなくなっちゃうから不安もあるけどひかりちゃんと会えて良かった」


「まぁ、本当の遠距離だからねぇ。不安しかないと思うけど朝海に限って浮気はないから安心して。奈々ちゃんの事いろいろ話してたけど最初から真面目に悩んでたから。それに、何かあれば私に連絡してくれれば話しも聞くし朝海の話しもするよ。奈々ちゃんとは話したの今日が初めてだけど前から知ってるから」


「うん。ありがとう。じゃあ、早速連絡先教えてくれる?ひかりちゃんと友達になりたいと思ってたんだ」


「私も。ちょっと待ってね……えっと……」


二人はなんだか仲睦まじく携帯をいじりながら連絡先を交換していた。そして仲良くなんかいろいろ話し始めた。ひいちゃんは機嫌良さそうでにこにこだし、奈々も嬉しそうだからいいんだけど二人仲よしすぎない?


てか、ひいちゃんいつもと違う………真顔じゃない……なんで?でも、良い事なので私は黙って受け入れた。

二人が仲良くなるとは思わなかったけどどっちもいい人だからいいだろう。

それから三人で話をして楽しい時間を過ごした後、ひいちゃんも奈々も早めに帰った。

奈々は本当に会いに来ただけみたいでちょっと寂しかったけど顔が見れたし良しとしよう。


それよりも私は奈々にあげないとならない物がある。

私はひいちゃんが見せてくれたのを検索してすぐに買った。とりあえずこれだけ渡して後は奈々に聞いてみよう。買ってあげられる物はあげたいし、離れたらすぐあげられる訳じゃないから何かしてあげたい。

私は使命感に駆られながらそわそわしていたら直接奈々に送ってあげたのが届いたみたいで奈々は喜んで連絡をくれた。私も買ったから一緒やろうねと話して何かあれば言ってねと言ったら奈々は来週には日本を出ると言ってきて唖然とした。



まだ一ヶ月もしてないし、あんまりって言うか一回しか会ってないのに……急すぎ………。

一瞬言葉を失っていた私に奈々は最終日近くに会いたかったけど仕事で無理になっちゃったから日本を出る日に会えないかと言ってきて二つ返事でOKをした。

まさか本当に日本を出る日にしか会えないとか思ってなかったけどこれで本当に最後になるのに私あとなにしてあげたらいいの?ていうか、その日は超大事な日になるのでは?


ここまで考えて私はとにかく何かせねばと考えた。

飛行機に乗る前のちょっとの時間しかないけど気持ちも改めて伝えときたいし奈々になんかしてあげたいし。

私は異常にそわそわしながら奈々のために考えて考えて毎日過ごしていたらすぐに当日になってしまった。


奈々は朝の飛行機に乗るから早朝に空港に向かってだいぶ前から奈々を待っていた。今日は絶対遅れられない日だからいいけど今日で最後って悲しいし現実味沸かない……。私なんて奈々に声かけよう…ずっと分からないのだが……。

急な不安にまた頭を抱えながら真顔で考えていたら奈々は早めにやってきた。


「あっちゃん!」


「あぁ、奈々」


手をあげると奈々は大きいキャリーケースを引いて近くまで来ると抱きついてきた。


「あっちゃん会いたかった。本当はちゃんと会いたかったのにごめんね?ちょっと急ぐ事になっちゃって」


「ううん。いいよ別に。それより荷物預けてきたら?途中まで持つよ」


「うん。ありがとあっちゃん」


私は軽く奈々を抱き締めてキャリーケースを引きながら奈々の手を引いた。そして荷物を預けてから飲み物を買って空港の中にあるベンチに座った。その間もしっかり手を繋いでいたが私は奈々に渡そうと思っていた物を先に渡した。


「奈々忘れないうちにこれ渡しとくね?」


「え、なにこれ?」


「ええっと、携帯で撮った写真をあの、ちゃんとしたのにしてみた。なんか形に残したくて。いらなかったら捨てても良いからね。あと私の家の鍵も入ってるからいつでもきて良いからね」


奈々は写真を欲しがっていたのもあったし、こっちに来た時にいつでも来れるように鍵は大事かなと思って渡したが奈々は喜んで受け取ってくれた。


「ありがとあっちゃん。あっちに行ったら写真飾るね?それに帰ってきたらあっちゃんの家直行する」


「うん。奈々頑張ってね?一番応援してる。あっち着いたら連絡してよ?」


「うん。あっちゃん、私も渡したい物あるんだけど良い?」


「え?うん。いいけど」


私はここにきて笑いながら焦った。送る側なのに貰ってどうすんだよ。また気を使わせてる私………。奈々はにこにこ笑いながら鞄から小さなケースを取り出した。


「嬉しかったから一緒のやつにしちゃった。あっちゃんもつけてくれる?」


小さなケースを開ける奈々に笑ってしまった。

奈々にあげた指輪を私のサイズで買ってくれたみたいだ。さすが気遣いな奈々なだけある。


「わざわざ買ってくれたの?」


「うん。私はいつかあげたいなってずっと思ってたから…あっちゃんに先越されちゃったけど」


「ありがと奈々。じゃあ、もうつけちゃうね」


「うん」


私はケースごと受け取ると指輪を指にはめた。

ぴったりはまるそれは可愛いから自分が欲しいと思った事もあったけど本当に自分がするとは思わなかった。奈々には喜ばされてばかりだ。


「ぴったり」


「最初の頃にちゃんと計ったもん」


「さすが奈々。愛されてるね私」


「うん。ずっと大好きだからね」


「私も」


二人で笑いあってまた手を繋ぐ。

隣にいる奈々は笑っていたのに少し暗い顔をした。


「私あっちゃんに会いたくなりすぎちゃったらどうしよう………」


「そしたらテレビ電話したらいいじゃん?」


「うん……」


「奈々最初からそんな弱気にならないの。大丈夫だよ。今までなんとかやってきたでしょ?」


「うん。あっちゃん時間になるまで離れないでね」


「うん。分かってるよ」


奈々は手を繋ぎながら腕に抱きついてきたのでしっかりと握り返した。それからさっきよりも明るくなった奈々とくっつきながら話した。いつも通りの日常の話だがそれはとても楽しくて嬉しかった。奈々もにこにこ笑ってくれてほっとしたし飛行機の時間になって見送る時も泣かなかった。

笑顔で送り出せて良かったし、これから頑張るぞ!と改めてはりきって半年経った。







最初は不安もあったけど意外にも私達は順調だった。

奈々はあんなに弱気だったのに泣かないし弱音も吐かない。仕事は忙しそうだし時差もあるけど二人の時間を作ってテレビ電話するのは毎回楽しくて充実していた。ただ話すだけじゃなくて時間を合わせて散歩したりご飯を食べたりお酒を飲むのは画面越しなだけで前と変わらないし奈々とは毎回お互いに好意を伝えていていい関係を築けていた。それに奈々はひいちゃんとも頻繁に連絡をしているみたいで私の昔話とかを聞いていてその話をされると戦慄だけど嬉しそうだから許していた。

私は奈々と離れても奈々には勝てないみたいだ。



そうして今日も私は奈々とテレビ電話していた。


「奈々ブル二連続?」


「うん。また私の勝ち」


「奈々私の事嫌いなの?」


「え?好きだよ?何言ってるのあっちゃん」


今日は私があげたダーツセットをお互いの部屋でやっていた。ひいちゃんの勧め通りこれはとても役に立っていて奈々とよくやっている。私は昔に比べたらそれなりにできるようになったが奈々に勝てる日はくるのだろうか。


「ごめん、血迷った。それより奈々もうすぐ帰ってこれるの?」


「うーん、まだ無理かも。今の仕事が一段落つくまでは無理だと思う」


奈々は冬休みにカナダにいるのに違う国に行っていて会えなかった。奈々はいろんな物を輸出しているみたいでその契約やら何やらがあるようでいろんな国に行っている。前よりも忙しそうな奈々は冬休みは一応あったみたいだけど違う国に仕事に行きながら休んでいたから一回帰るとは言っていたがまだまだ先になりそうだ。


「そっか。じゃあ、気長に待ってるね。無理しないようにね奈々」


「うん。ごめんねあっちゃん。もう半年も私のせいで会えなくて…」


「いいよ。奈々は仕事順調そうだし体調も悪くなさそうだからそれだけで充分。今も一応会えてるし」


会えないのは寂しいがこればっかりは仕方ない。奈々はダーツを投げるのをやめて画面に近付いてきた。


「そう言ってくれるのは嬉しいけどあっちゃんに会えないからへこんでるよ私は」


「いや、私もへこんではいるけど仕方ないじゃん」


珍しくしょんぼりした奈々。今までそんな事言わなかったのに我慢していたのだろうか。


「うん。でも、早く会いたいよ。寂しいからあっちゃんの写真いっぱい飾ってるし。見てると嬉しいけど苦しい」


「寂しいのは分かるけど一応帰ってこれるんでしょ?」


「うん……」


「奈々は帰ってきたら何したい?何でもしてあげるよ?」


私は落ち込んでしまった奈々に明るく話しかけた。

すると奈々は即答した。子供のように。


「あっちゃんに抱きつきたい。ずっとくっついてたい」


「あとは?なんか食べたいとかないの?」


「それよりキスして好きって言われたい。それでボニーピンクのライブも行きたいし、手も繋ぎたいし………あっちゃん早く会いたいよ」


「会えるから大丈夫だよ。約束したでしょ?」


「うん。………あっちゃん大好きだよ」


落ち込んでいた奈々はそう言って私があげた指輪にキスをした。キスができないから指輪にしようと提案してからこうしているが奈々は私がキスすると笑ってくれるから私も指輪にキスをした。


「うん。私も好き。愛してるよ奈々」


「うん。私は部屋があっちゃんの写真だらけになるくらい愛してるよ」


「うん。知ってるよそれは……」


やっと笑う奈々は本当に至る所に私の写真を貼っていてテレビ電話する度にえ…?って思うけど何も言えていない。ちょっとじゃなくてストーカー並みに大量に貼っているから言いたいけど私は奈々の信者だから言えなかった。だってストーカーとかキモイとか言ったら傷つけそうじゃん……。


「ねぇ、あっちゃんは私と会ったらなにしたい?」


「ん?私はまず抱き締めたいかな。あとは奈々と一緒」


「…じゃあ、帰ったらずっとくっついてようね?」


「もちろん」


「あ、あと忘れてたんだけど私あっちゃんとやりたい事あった!こないだ調べたんだけどね…」


元気を取り戻してくれた奈々は笑いながら話すから私も笑った。奈々とは初体験が多すぎていろいろあったけどお互いに努力して上手く行っている。



無償の愛なんてない。愛されたいなら努力しろとはよく言うが本当に恋愛はこれに尽きる。だって努力しなかったらここまで来れなかったもの。ていうか、ここまでしたいとも思わないだろう。

努力もしない人なんか誰も好きにならないから。

何かしたいって思わせるのも思うのも簡単じゃない。




早く会いたいなぁ、と楽しみに奈々といつも通り話していたが奈々がその後泣き出して波乱があったのはまた別の話。






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綺麗なバラにはクセがある 风-フェン- @heihati

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