第28話
怖いけど今までの時間を取り戻すチャンスだよ!雰囲気が作れない私にとっては絶好の雰囲気だぜ。
私は恐怖の動悸をそのままに口を開いた。
「奈々もっとキスしていい?もっとしたい」
キス自体は嬉しいけど恐怖心の方が強い。だけどキスしないとダメなの。キスして取り戻さないと私達は終わる。終わると言うか私がフラれる。私は奈々を逃したくないのだ。
「……うん。私もキスしてほしい」
奈々が恥ずかしそうに言ってくれて私は安堵した。
よし、許可も出た。あとは引かせないようにキスをすればいいだけ。ここで怖がってたら本当に愛想をつかされちゃう。それだけは絶対嫌なの。私は気合いを入れて真面目に恥ずかしそうな奈々にキスをしてさっきのように舌を絡めた。奈々にそんな事をしているのが私に恐怖をもたらしてくるが気にしてはダメ。
数えきれないくらいキスくらいしないと捨てられるよ?自分の罪を忘れてはダメ。
何度かキスをして唇を離すと奈々はまたぎゅっと抱き付いてきた。
「……あっちゃん……」
「ん?」
「……好き」
「うん」
「嬉しくて、気持ちよかった……」
「そ、そう。よかった…」
首に抱き付いている奈々の顔が見えなくて本当によかったと思う。なんかどう反応したらいいのか分からなくて眉間にシワが寄ってしまった。私よく考えると何年ぶりのキスだよ……。
「私あっちゃんとこんなにキスできると思ってなかったからもうダメかも……」
「え?なにが?」
さっきから奈々に戸惑ってしまう。
理解したい気持ちは誰よりもあるんだけど理解不能。私は頭が弱くて分からないのごめん奈々…。
奈々は小さな声で言った。
「なんか、嬉しくてずっとドキドキしてるから……苦しくて死にそう………」
「え……じゃあ、やめる……?」
何て言えばいいのか分からなくて困りながら聞いてみたら奈々は即答してきた。
「やだ……絶対やめたくない……。もっとしたい」
「うん。じゃあ、もっとしよ?」
「……うん」
女心は私には今一よく分からないが複雑なんだろう。これ以上なにか言ってはダメよ私。ここで地雷を踏んだら雰囲気ぶち壊しだよ?せっかく合法的に許可を取って触れられてるんだから触れておかないと。恋人としてのスキンシップの意味を込めてちゃんと触れとかないと一ヶ月ノータッチの私の罪は消えないよ。
それから奈々はちょっと黙ってから話し出した。
「あっちゃん明日もキスしよ?もっとしたかったけどちょっと嬉し過ぎてもう無理だから……」
「え、うん。する」
「うん……」
そんなに恥ずかしかったのだろうか?私は疑問に思いながらも即答した。キスが恥ずかしいって思った事なかったけど奈々は素敵女子だからデリケートなのかな?それとも私がもしかして辱しめている……?私が辱しめてたら大問題だが私はべたべたやらしく触ったりなんかしていない。
あれって冷めている人を余計冷めさせるからできない。べたべた触られても勝手に触んなようぜぇなぁ。おまえヤる事しか考えてなくて幸せだな?おまえみたいになりてぇよってなってたから私は今後も無理。触り方にもう性欲しか感じないし、なんでそんなに触りたいのか理解不能。女って勝手に触られるのウザいって思う子結構いるから許可を取るか顔色と空気を正確に読んでやらないと地雷だよ。でも、よくよく考えると将来的にはやらないとなのではなかろうか?ここも今後の課題なのかもしれない。
「じゃあ、奈々そろそろ寝る?」
私は明日もキスすんの動悸しちゃうと思いながら言った。キスできて嬉しいけどまたあの緊張をしていたらいつか気を失いそう。奈々は体を離すと私を見てきた。
「うん。でも、あっちゃんと一緒に寝たい。別々なのやだ」
「あ、そうだね。一緒に寝よっか」
「うん」
私はでかいから別々の方が正直いいが笑って即答した。ここで嫌なんて言ってみろ?私は奈々が悲しむのを見たくない。と言うか女を悲しませるのはあってはならないの。女の子は大切にしないといけないの。
私は奈々と一緒にベッドに横になるとなんかもう今日の出来事がありすぎてどっと疲れを感じて眠くなった。
今日の私はから回っていたが頑張ったよ。本当に女の子を分かってないが私は結果を出した。念願のキスまで行った。恋愛戦士としてよくやったよ。バカでクズだけどここまできたのは偉い。私は目を閉じて自分を称えた。
「奈々、眠いから寝るね。おやすみ」
「うん。おやすみあっちゃん」
なにかもう少し話しておくべきだと思うには思ったのだが限界の眠気に私は一瞬で寝落ちしてしまった。
そして翌日、私は目を覚まして驚いた。
仰向けで寝ていた私の腕を奈々が抱き締めるように寝ていたのだ。しかも私のでかい手を握って。私はそんな奈々にビックリし過ぎて叫びそうだった。それになんか腕重いと思って腕を上げなくて本当に良かったと思う。
私はとりあえず起きてからじっとしていた。今日は休みだし奈々のブルーレイを見るだけだから早く起きなくたっていい。という事で奈々は起こさなかった。奈々は死んでる?ってくらい安らかに寝ていて起きそうにない。
私は私で目が完全に覚めてしまって暇なので奈々をじっと見ていた。
うん。奈々は寝てても可愛い。顔がね、整いすぎ。肌が綺麗で全てが小さいし、握られている手を握り潰しそう。
昨日寝る時は離れてたんだけど手繋ぎたかったのかな?
そういえば私はこれで思い出した。奈々は前に手を繋ぎたいと言っていた。しかも勇気が出たらやるって謎な言葉も。あれも昔の私の発言のせいだけど手くらい繋がないでどうする私………。これも今後の課題だ。
私は目標の中に手を繋ぐもプラスした。
あとスキンシップとかキスとか慣れてかないと嫌な動悸のせいで気が気じゃないよ。
奈々とは付き合ってるから間違いはないんだけど冷めていた過去の恋愛を思い出すと怖い。
だるっとかなんだおまえ萎えるーみたいな思いはさせたくないの。そういう小さな積み重ねが破局を呼ぶのよ朝海。おまえが一番分かってんだろ。付き合ってるから大丈夫なんて勘違いはしてはいけないのだよ。
付き合っていても嫌な時や嫌な事はあるし、引く事もある。それを肝に命じた。
しかし、私は奈々に対してダルいとか嫌とか本当にないなぁと思った。奈々はエスパーだから自分がダメなのを思い知るタイプだからいい男とかと似ている。あぁ、この人ここまでしてくれるんだ、じゃあ、私もこうしないとってなるタイプだ。実際は私がクズを発揮していて奈々を苦しめているが……。
奈々を苦しめていたのに好きでいてくれる奈々には懐の深さを感じる。
「奈々ごめんね」
私は本当に小さな声で謝った。
本当は土下座して金を積むくらいの事をしたいんだけど引くと思うからしない。
というか、謝っても謝りたりねぇな………。こんな好きでいてくれる人中々いないよ?皆自分の方が好きだもん。
はぁ…………。
これからもっと巻き返していかないと。
反省は山二個分くらいあるけどそれ以上に頑張らないと。落ち込んでばっかいないで次に生かして行かないとだよ。そうやって持ち直して天井に顔を向けた時だった。
「なにがごめんなの?」
「はぁっ?!!ビックリしたぁ……。起きてたの?」
奈々に突然話しかけられて体が跳び跳ねそうになるほど驚いた。心臓止まるかと思ったよ………。奈々は手をぎゅっと握ってきた。
「うん…。それより、なにがごめんなの?私あっちゃんに嫌な事とかされてないよ?」
「え?まぁ、奈々はそうかもしんないけど私はちょっと、そうじゃないと言うか………」
あぁ、心が抉れる。せっかく前向きになったのに。奈々はすぐに察してきた。
「あっちゃんが前に言ってたのを私が気にしてた事?」
「……まぁ、うん……。そうかな……。私最初から奈々に我慢させてたなって思って…………」
自分で言うと罪悪感で息ができなくなりそう……。もう奈々から目を逸らそうとした時、奈々は笑った。
「私我慢なんかしてないよ?付き合ってからずっと嬉しかった」
奈々は本当に嬉しそうに言いながら私を見つめた。
「私別によかったんだよ?スキンシップとかお泊まりとかできなくても、あっちゃんと会って話してそばにいれるだけで良かったの。まぁ、ちょっとは寂しかったしくっついたりとかしたいなって思ってたけどあっちゃんといるの本当に嬉しかったから無くてもそんなに気にならなかったんだ。あっちゃんいつも私の話聞いてくれるし私に興味持ってくれて好きでいてくれるんだなって分かるから……それが付き合う前からずっと嬉しかったの。だから我慢って言うか、まぁいっかって思ってた。嬉しいから別になくてもいいやって」
「そうだったんだ…。全然気づかなかったわ…」
「ふふふ。そうだよね?私付き合ってる時ずっと顔色伺う生活してたからあっちゃんが気にならないように自然に笑って合わせてた。あんまり喧嘩したくないし、ウザいとかめんどくさいって思われたくないから笑うようにしてたの。笑ってれば気づかれないから相手の気持ちに合わせて笑って空気を読んで行動しようって。でも、あっちゃんは私がいいやって思う気持ちも察してくれたね?いいやって思ってたのにすごく嬉しかったよ。私何も言ってないし嫌な顔なんか一回もしてないのに謝ってくれて積極的にしてくれて……嬉しくて幸せだなって思った。好きだなって思った時もそう思ってたのにこの人こんなに私の事嬉しくさせてくれるんだって……付き合って良かったって思ったよ。だから謝らなくていいからね?私ずっと嬉しいから」
奈々の気持ちを知れて私は握られている手を優しく握り返した。奈々は言えないんじゃなくて言わないようにしている。気持ちを敏感に察知して笑って隠して合わせるなんてある意味昔の私のようだった。
だから本音を聞けたのは嬉しいが少しモヤついてしまった。
こういうタイプは溜めやすいし相手のせいで精神的に疲れやすい。そしてある日別れようとなるかキレる。
私はそういう思いはさせたくないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます