第29話
「奈々が喜んでくれてて安心したけどそんなに私に合わせなくていいからね?私達対等な関係なんだから言いたい事は言っていいんだよ?私は沢山奈々の我が儘聞きたいくらいだし、私奈々の事もっと分かりたいし」
一緒の重みを分かち合わないと恋愛は終わりやすい。そもそも一緒にいるのに同等にしないなんて変だもん。楽しようとするとダメなのは仕事と同じ。
人の気持ちなんか特にだよ。あいつやってくれるからいいやじゃダメなの。
しかし奈々もそれは思っているようだった。
「それは私も同じだよ?あっちゃんいつも私の事気にかけてくれるからそんなに気使わなくてもいいし、私にしてほしい事とかあれば言ってほしいし………」
「んー、奈々は好きだから気使いたいから無理。それに私奈々に言いたい事言ってほしいくらいしか思ってないかな?」
「でも、あっちゃん聞いてくれるから……私言ってるよ」
「それでも。私バカだからなんでも言ってね?」
私は体を奈々に向けてちゃんと言った。
頭の弱い私は察してあげられる自信がないのではっきり言っておいた方がいい。
同じ過ちを繰り返してはならないのよ私。別れる元。
「あっちゃん………」
「ん?なに?」
奈々は私を呼ぶと何だか言いにくそうな顔をする。
なんだろう…………。私には難しそうな予感がして怖い。バカだからあんまり難しい事言われるとキャパオーバーしちゃうよ…。けど聞かないと。ここで聞かないなんて女が廃る。私は意を決して今一度聞こうとしたら奈々が突然身を寄せてきた。な、なに?……いきなりの行動に怖いと思っていたら奈々は顔を近付けてきた。
「好き……」
「…うん。私も好……」
言いきる前に奈々にキスをされる。
覚悟してなかった私は舌を入れられてド緊張しながらも応えた。好きだけど怖い……!怖いけどやらないと…!私は奈々の背中に恐る恐る腕を回す。それからしばらくキスをして唇を離した。奈々はなんだか照れていて可愛かったが私はそれに心底安心していた。嫌がられてない私。
「あっちゃん大好き……」
「うん。私も」
「……私ね、今までいいって思ってたけどもうそうは思えないからこれからキスとかいっぱいしたい。……でも、自分からはちょっと苦手で……したいとは思ってるんだけど…」
「じゃあ、私がする。私もしたいし苦手な事はお互いに補っていこう?」
「うん。ありがとう」
私は今回ばかりは即察してあげられた。
私も恐怖の緊張である意味苦手だけど奈々のためなら頑張る。このくらい私がリードしていかなきゃだもん。上手くリードはできないし今までもちょっとキモかった時あったけど奈々のためなら頑張れる。ていうか、リードの一つや二つしないと捨てられるから是非やりたい。
それから笑いあって無言の時間が生まれる。
今は距離も近いし奈々が目を逸らさないから条件が揃っているように感じた。
「奈々もっとキスしていい?」
もう間近にいて空気も良さげなのに私は聞いていた。
私は乗り気な時はなかったから聞かないと雰囲気や流れではできないの。過去の経験はとても響いているが私はこれからもこうするだろう。自分がされて嫌だった事はできないの。
奈々は笑って控え目にキスをしてから言った。
「いいよ。いっぱいして?」
「うん」
そうして何度かキスをして私達は恋人らしい時間を取り戻した。二ヶ月目でやっとこういう時間を得られたのは嬉しい限りだが大丈夫かなって動悸が酷い。奈々は嬉しそうだから奈々の表情を見てホッとするもいつ慣れてくるのか定かではない。
私達はそれから奈々が借りてきてくれた映画を見た。
コメディ系の楽しい映画は笑えて話が弾む。二人で笑って楽しんでいたら私は奈々を見てふとある事に気づいた。
「この人最近よくテレビ出てるよね?恋愛ドラマばっかりだからこんな面白いのやってると思わなかった」
「うん。確かに。こういうのでドラマやればいいのにね」
「うんうん…………」
奈々も私も笑顔だが私達の間には初期からある絶妙な隙間がまだあったのだ。この距離感まずくない?
私は笑いながらテレビに顔を向けて悩んだ。
キスまでしてるくせにこの距離感はなに?もう大分時間経ってから気付いた自分に引くけどこれは埋めないとだよね?今朝キスしたくらいで今まで何もやってないし何を呑気に映画見てんの私。いつまでバカなの…?……でも、一体どうしよう?
私はとにかくテレビを見ながら自然な感じを装おって考えまくった。
こういう時は…………こっち来いよ?って無難に腰を引き寄せる?いや、でもこれダルってなってたしなぁ……。しかもちょっと俺様感あってウザくない?あ?ってなりそうな案件だよ。俺様系は空気が読めないナルシストしかいないし奈々はそういうやつにウザ絡みされてそうだし。となれば次だ。次は…………勝手に距離詰めて触るしかなくない?でもこっちの方がダメそうじゃん………?いきなりなんだようぜぇなってなるやつじゃない?そんで肩とか抱いて頭撫ででもしたらねぇ、やめて?って真顔で嫌がられるよ。
そして何を自己陶酔しているの?って引かれてコイツ自分大好き野郎なんだなぁって思われるだけですね。
これはあかんよ。ここまで来たのにそんな思いさせられないよ。あぁ…………スキンシップってどうしたらいいの………。
私が悩みに悩んで頭が痛くなっていたら奈々は笑いながら話しかけてきた。
「ふふふ。絶妙に噛み合ってないのが笑えるねあっちゃん」
「……うん。笑える笑える……」
笑えない私の現状に苦笑いになりそうになりながら何とか笑った。奈々には悪いけど今は映画どころじゃないよ。早くこの隙間を埋めないとまだ友達だよ距離感が。
でも、どうしたらいいんだ…?!私はなにも思い浮かばなかった。勝手に触るなんて私には恐れ多くてできない……。奈々とは付き合ってて彼女だけど、彼女だから余計怖い。
もはや絶望をしていた私は今までの事を思い出して腹を括った。
なんにも思い浮かばないならいつもみたいに聞いてやればいいのよ。ちょっと空気をおかしくしてしまった時もあったけれどこれが一番無難な安全策。
ダメならダメで謝って引けば傷付くのは私だけ。何ら問題はない。そうと決まれば私は真面目に言った。
「ねぇ、奈々?」
「ん?なあに?あっちゃん」
奈々が笑いながら映画から私に目線を移す。私は目をしっかり見た。
「くっついてもいい?」
「え?うん……いいよ?」
「ありがとう」
ちょっと奈々を戸惑わせているがとにかく私達の間の隙間を埋めた。これで距離感は失くなって友達を少し抜け出す。よし、ここまではいい。だけど問題は次。どうスキンシップを取るかだ。あぁ、どこを触ったらいいんだ私……!女の子ビギナーの私にはさっぱり分からないよぉ……!でもその前に許可だ。許可がないと私は怖い。
「奈々嫌だったら断っていいんだけどさ、触ってもいい?あの、スキンシップって意味で…」
「え?……うん。いいよ……?」
「うん。ありがとう」
奈々はちょっと恥ずかしそうだったが受け入れてくれた。許可も出たなら今がチャンスだけどどこを触ったらいいのか分からないぃぃぃ………!私は真面目に悩んだ。密着できたけど手の出し方が分からなくて動けないよ…!
ええっと、頭は泣いてる時とかしか撫でちゃダメだし、腰は人によりけりじゃん?あとは、あとは……太ももとか触るなんて論外だし……。
私は真顔で悩んだ結果うつむいてしまった。もうダメだったのだ。自爆して機能停止して黙って動けずにいた私に奈々は聞いてきた。
「………あっちゃん触らないの?」
聞かれて当然の質問に私は情けなく思いながら奈々に顔を向ける。意気込んだのに分からな過ぎて機能停止した自分が情けなくて謝った。私は所詮くずなのだ。
「うん。触りたいって言うかスキンシップしたいけどどこ触ったらいいか分からなくて………ごめん。頑張ろうと思ったけど分かんなくて頑張れなかった……」
言っていて情けなくて泣きそうだった。
ここまでしてできないとかもうクソじゃん。また童貞臭撒き散らしてるよ……。今キモイって思われてるよね私。き、消えたい…………。盛大な自爆をした私は奈々を見ていられなくてまた下を向いたら奈々は私のでかい手を握ってきた。
「じゃあ、手繋ごう?私、手繋ぐの好きだから握ってたい」
「……こんなでかいけどいいの?」
もう死にかけながら奈々に顔を向ける。忘れてたと思い出すも手の大きさが違い過ぎだし私は手を繋ぐのも嫌だったから自信がないよ。手に関しては確かに前に言ってたけどこの空気だから気を使わせてたらどうしよう。奈々は私のでかい手を両手で握って笑った。
「うん。そんなの気にしてないよ?私あっちゃんの手好きだもん。あっちゃんの手ちょっとドキドキするんだ。指が私よりも長いし綺麗だから触りたいなって思うし、手握られると包まれてる感じして安心する」
「……………………そうなの?」
「うん……本当だよ?」
「……うん……………そっか」
奈々は照れていて普通に可愛いかった。
それにしてもこんなでかい手を誉められる日が来るなんて…………。たまには役に立ってよかった私のでかさ。
奈々は本心で言ってくれてるみたいだし、フォローしてくれてごめんけどありがとうの気持ちしかなかった。
「ごめんね情けなくて……」
私は奈々の小さい手を優しく握りながら謝った。
私なんでずっとバカで情けないんだろう。自然にスキンシップなんてできないし奈々にずっと気を使わせてるし…………。
自分のダメさに干からびそうになっていたら奈々はおもむろにキスをしてきた。突然のそれに私は情けない顔で唖然とした。
「情けなくないよ?私あっちゃんのそういうところも可愛いくて好きだもん」
「……うん。奈々マジありがとう」
「ううん。あっちゃんそんなに落ち込まないで?」
奈々はそう言って頭まで撫でてくれて泣きそうだった。心情を正確に読み取られたようだが、泣きそうなくらいうちひしがれてたから優しさが本当に胸に染みる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます