第27話


「うっ…………、うっ、………あっぢゃんごめんね………」


「え、あ、……あぁ……うん。……大丈夫、……もういいよ奈々?」


「うっ………うっ、…………」


「……………………」


奈々は本当に大泣きしていて私は動揺するしかなかった。これさっきのダメだったの?なんでこんな泣いてんの?怖い怖い怖い……。

誰かお金払うから泣き止ませて……!

私バカだからもうパニックでどう慰めたらいいのか分からないの…。

涙を拭っている奈々はぐずぐずで鼻が垂れている。

これはまずい!奈々は鼻が垂れても可愛いけど美人を辱しめてはいけない。とりあえずまず…………ティッシュを渡そう!

私は大慌てで近くにあったティッシュを取った。


「奈々?鼻垂れてるから鼻かみ?」


「うっ、…………うん。ありがとう……」


「いいよ、全然……」


大泣きしてる奈々に鼻をかませながら私は部屋の電気をつけた。そして悩みながら奈々の背中を擦る。

私、これからどうしたらいいの?泣き止むと思ってたからこんな泣くと思わなくて悲鳴あげそう。あげないけど。


「うっ、…………うっ………、あっぢゃんごめんね」


「え、うん…。もう謝んなくていいよ?私何にも気にしてないから」


「ううん………。わだじ……うっ、本当にダメだから………ごめんね本当に………」


「いや、いいよ奈々。もう本当に大丈夫だから…」


なんかすごい謝られても罪悪感しかない………。

どうしよう……。もう謝らないで本当に……!これはまだ気にしてるって事だよね?分かんないけどそれしか導き出せない。奈々は泣くのに必死だけど私はとにかく気持ちを伝えた。


「奈々?私奈々大好きだよ?もうね、奈々が気にする事とか気になんないくらい好き!…そうだね、毎日背負って歩きたいくらい好き!だから泣き止んで?」


「う、…………うう………」


小さく頷きはしたが泣いている奈々に冷や汗が出そう。ていうか、毎日背負って歩きたいとか意味不明なんだけど。頭悪い私………。

しかし、このままではダメ。次の手を打たないと!

私は口を開いてすぐに閉じた。

何かしたいのは山々なんだけどこんな泣かれるとなに言ったらいいのか分かんないよ……!

どなたか恋愛マスターを呼んで?私はもう恋愛感死んでたから分からないの。頭が死んでるの!

私は白目を向きそうになりながら無言で奈々の背中を擦った。分からないからとにかく優しく擦りまくった。


「………あっぢゃん………」


「ん?!なに?!どうした?!」


そうしてしばらくして奈々が呼んできたから風の早さで返事をする。次はなんだ?奈々は顔を上げて私を見た。


「わだじのこど……好きでいてくれてありがとう…」


突然のお礼に私は戸惑いながらも答えた。


「…うん。だって、奈々いい子だし、嫌いになる訳ないじゃん。私ずっと大好きだよ」


「………うれしぃ………。でも、私、頑張るから…」


「…うん……」


「……私、……あっちゃんに何もできてないから、……もっと頑張るね?あっちゃんいつも察して言ってくれたりやってくれたりするから………」


さっきよりも泣き止んだ奈々はやはりエスパーだった。もう私の言動の童貞臭は嗅ぎとられている。もしかしたら今までやってたスキンシップとかも空気読んで合わせてくれたのかもしれないが、ここでこう言うって事はあんなんでもプラスになったって事だ。

あんまり察してあげられなかったし分かんなくて悩みまくってたけど本当に良かったよそれは。


しかし、ぬか喜びしてはならぬ。

あんなのやった事として薄すぎるのだ。

事実、私が一番やらかしているの。



私は最大の汚点を謝った。


「いや、私全然なにもしてあげられてないよ。付き合ってから恋人らしい事なにもしてあげられてないし、最近やっとそれっぽい事できるようになったけどさ……あれ奈々嫌じゃない?」


「私は嫌じゃないよ。…でも、嫌なのはあっちゃんだよね?あっちゃん私に合わせてくれるけど…スキンシップ苦手って前に言ってたから、あんまり私はしないようにしてたし………」


「え…………」


私は奈々の言葉に衝撃を受けた。確かに昔そういう事を言っていたのを忘れていた。だから奈々は一ヶ月も普通に笑って過ごしてたんじゃん…………?てか、私があんな事言ったからお泊まりとかもしてなかったんじゃん?奈々が私にずっと気を使ってんのって大本これじゃない?つまりやっぱり全部私のせい。

…………なんて罪をおかしているのかしら私……。え、そろそろ捕まる?私は気を失いそうなくらいの罪悪感を感じたが奈々をしっかり見て謝った。

あれは確かにそうだったんだけど奈々は別だ。


「奈々本当にごめん」


「なにが?」


「あれは確かにそうなんだけど奈々は違うから。私奈々にはいろいろ見せられてるし一緒にいて楽しいし好きだからスキンシップしたくないとか思ってないよ。奈々とはもっと一緒にいたいし、奈々が嫌じゃなかったらスキンシップはもっとしたい。奈々は考えが変わるくらい私にとって特別だからあれは忘れて?なんか私いろいろ言ってたけど本当に奈々の事好きだから」


「……じゃあ、私から抱きついたりとかしてもいい?」


「勿論!奈々からそういう事してくれたら嬉しいよ」


奈々からは純粋な愛情を感じるから全く触られても嫌じゃなかった。私の事を知っている上で好きでいてくれるしそれで愛情が深まるならやりたいと思う。ちょっと違うドキドキを感じるけど。


奈々は嬉しそうに笑うと私に控え目に抱きついてきた。


「じゃあ、今日からあっちゃんにくっついたりするね?私ずっと自分からくっついたりとかしたかったんだ。嬉しい」


「うん。ごめんね奈々。私はとにかく嫌じゃないから奈々はじゃんじゃん私にくっついたりしていいからね?」


「うん……!」


誤解が溶けてほっとするがちっちゃい奈々に抱きつかれてど細くて怖い………。小さいし細いから優しく抱き締め返した。奈々にはこれから気を付けないと。優しく丁寧に扱わないと強引とか痛いって思わせちゃう。



「あっちゃん?」


「ん?」


そして奈々に呼ばれて顔を向ける。近過ぎる奈々に恐怖の動悸を感じていたら奈々はおもむろにキスをしてきた。

一瞬触れるだけのキスなのに奈々はとても恥ずかしそうにしている。


「私とキスするの……本当にやじゃない?気持ち悪くないかな?」


「え、全く。可愛いし嬉しいって思うよ?」


これは事実だった。奈々には気持ち悪いとかめんどくさいとかは全くない。だが、好意は嬉しいのに変に緊張して怖い。一回やらかしたと本気で思っちゃって反省した身としてはなんか変な事して嫌がらせないようにしないとならない気持ちが強い。


「……よかった。じゃあ、もう一回してもいい?」


「うん。いいよ」


奈々がまたキスをしてきて私は受け入れる。

そして嫌がられていないのを確認して内心ほっと一息ついた。今は照れてるから大丈夫大丈夫。私は嫌がられていない。内心やな思いさせたらと思うと次は立ち直れそうにない。本気で反省してたからもう間違えたくないの。照れている奈々は私に言った。


「あっちゃんがやじゃなかったら、あっちゃんからもキスしてほしい……」


「え?……うん。分かった」


正直それは怖かった。でも、奈々が言うのであれば私は怖くてもやるまでよ。たぶん、次は大丈夫だよ。

きっと上手くいく。

避けられたら多少傷つくけど大丈夫………。

私は意を決して顔を寄せた。

さっき顔を背けられてるから不安で不安でしょうがない。また嫌がられないよね?………怖い。

内心を悟られないように私は真面目な顔をして目をつぶった奈々にキスをした。


そして唇を離してようやく私は安心した。

よ、よかったぁぁぁぁ………。やっとキスできた。嫌がられてない。怖かったけど私は成し遂げたぞ。

心の底から安心しても私は一応奈々に聞いた。


「奈々やじゃなかった?」


今はさっきみたいに照れてるから大丈夫だと思うけど聞かないとちょっと不安。明らかに照れている奈々は恥ずかしそうに言った。


「やじゃないよ。ずっとしたかったから……嬉しい」


「…………よかった……」


安心を聞けた私は肩から力が抜けた。

本当によかったぁぁぁ。キスするだけで波乱だったけどキス大成功だ。今ならもう思い残す事もなく死ねる。

私は使命を成し遂げた。もう安心と嬉しさのあまり泣きそうになっていたら新たな使命が下った。


「あっちゃんもっとキスしたい……」


「え?…うん。……分かった」


もう満足していたのに奈々から催促されたら応えるしかなくなる私はとっさに頷いた。

ほっと一息ついたのにまた緊張するじゃん……!

もっとってあと何回?………嫌な思いさせないように真面目にやらないと……!私は不安を感じながらもまた顔を寄せた。恐る恐るキスをして唇を離すと奈々からもキスをされる。

これ、大丈夫なの…………?不安が拭えない私はそうやって何回かキスをしていたら奈々が至近距離で私を見つめながら恥ずかしそうに言った。



「あっちゃん……口開けて……?」


「……うん……」


言われて内心動揺する。そうだ、キスと言えばそれ!なんかもういっぱいいっぱいの私はそんな事頭から抜けていた。ただ唇を重ねるだけでど緊張してるのに舌まで絡ませるなんて………緊張のあまり具合悪くなりそう。

いや、でもやらねば。やらないでどうするんだ私。女を見せろ私。ここで戦わないでいつ戦う?

私は自分に活を入れると自分から奈々にキスをした。

そして舌を入れると奈々はそれに応えてくれる。

とにかく強引さを感じさせないように舌を絡めてもう引こうとしたら奈々が首に強く抱きついてきて離せなかった。

なんで………?と思って冷や汗が出そうになるも強く抱き付かれては抱き返さないとと思い背中と腰に腕を回して引き寄せる。

大丈夫かな?私引かれてないかな?私は手が震えかけていたら奈々はやっと唇を離してくれた。


「……あっちゃん好き」


「うん。私も好き」


奈々は嬉しそうな顔をするから大丈夫だったのだろう。

唇が触れそうな距離でじっと観察するが今は気を使ってない……と思う。普通に可愛いし、なんだったらもう少し………はっ!私はここでやっと気づいた。

今はチャンスの時だ。



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