第54話
「やだ……わたし…」
「ダメ。喋るとキスするよ?それと息ができないくらい強く抱き締める」
「……いいよ……」
「私がダメ。奈々もう寝て?おやすみ」
「んん……」
奈々はもう限界みたいで反応がなくなってきた。
今日は疲れていたのかなぁ…。奈々の顔を撫でながら私は小さく話しかけた。
「奈々~」
「……」
「可愛い寝顔だね」
奈々は完全に眠ってしまっているようだった。反応がないし、とても安らかに息をしている。私は起こさないように奈々に布団をかけてあげた。
よし、奈々は寝たぞ!これからが勝負だ!
私はサイドテーブルに隠していた糸とペンを取り出した。もうかなりお酒が入ってるから起きないと思うが慎重にやらねば!
今一度奈々をしっかり確認してから私は奈々の手を優しく握った。
相変わらず小さい手は暖かくて緊張する。奈々は本当に寝てるよね?私は生唾を飲みながら指に糸を巻いて印をつけた。
よし、よしよしよし!ヒヤヒヤしすぎて怖いけど今日の任務は成功した。私は直ぐ様糸とペンをサイドテーブルに隠した。これで指輪の確保ができたぞ!
奈々は起きなかったし、私はやってやったぜ!!
後は糸の長さを計って指輪の注文しないとだけどいつできてくるだろうか?私はうきうきしながら携帯で調べようとした。
「あっちゃん?」
「はぁっ?!!なに?!ここにいるよ?!どうかした?」
奈々の小さな呼び掛けに私は跳び跳ねた。本当ビックリしたけど不振な動きはしちゃダメよ私。私は携帯を置くと急いで奈々の顔を覗き込んだ。
「なんで一緒にいてくれないの?」
「え、いるよ。ここにいるでしょ?」
「いないじゃん。一緒に寝てたのに…。一緒に寝よ?」
奈々は甘えるように首に腕を回してきた。奈々は本当に離れたくないようだから離れないようにしないと。
私は奈々に腕を回しながら横になった。
「うん。寝るよ。ちょっとトイレ行っただけ」
「…ちゃんとくっついてて」
「うん。分かったよ」
奈々は私に身を寄せるように抱き付いてきた。
もう奈々は私を離したくないようで笑ってしまう。
今日の任務は成功したから後は奈々のしたいようにしよう。私は背中を撫でてあげていたら奈々がまた小さく言った。
「……あっちゃん」
「ん~?そんなに呼んで今日はどうしたの?」
「………好きだから呼びたい」
「じゃあ、明日呼んで?今日はもう終わり。私寝れないもん。一緒に寝るんでしょ?私だけ寝不足になっちゃうよ」
「……でも、どっか行くから……」
「もう行かないよ」
甘えん坊もここまでくると子供だ。私はあやすように背中を優しく叩きながら顔にキスをした。奈々はなんとか起きているがもうすぐ寝るだろう。
「………あっちゃん」
「奈々?もう寝るよ?もう静かに」
「………うん」
ようやく黙る気になった奈々はそれからすぐに寝てしまったみたいだった。反応がなくなって思わず笑いながら私は奈々の顔にまたキスをした。
今日は任務も無事達成できたし可愛い奈々が見れて満足だ。奈々がこんな甘えてくるのは中々ない。お酒様々だろう。嬉しい気分で目をつぶり奈々と一緒に眠りについて翌日。奈々は朝からずっと照れていた。
朝起きた時からなんか様子がおかしいと感じていた私は昨日やらかしたかと深刻に悩みそうになったが奈々があんまり目を合わせてくれないしテーブルを挟んで隣に座るのでこれはそうかとはっとした。
こりゃ昨日のが後を引いているのだ。泣いてたし甘えてたしそりゃそうだよね。私を気にしながらテレビを見ている奈々に私は遠慮気味に話しかけた。
「あのさ、奈々?」
「ん?なに?」
こちらを見てくれるけどなんか気恥ずかしそうで私はなぜか悪い気分になる。このままにしておくのも可哀想だから私はなるべくいつもみたいにしようと思った。
「隣来てよ?寂しい」
「え……うん。分かった」
絶対私の隣に座る奈々がテーブルを挟むとなんか落ち着かないのでとりあえず奈々に隣に来てもらった。
でもまだまだ空気はいつもと同じじゃなくて奈々はぎこちない。私は天皇陛下ではなく一般のでかい人だからそんなに意識されるとそわそわしてしまう。日の丸の旗でも応援として振りたいとこだけど今はとにかく奈々のために私が頑張らねば………。
「奈々、あの、くっついてもいい?あの、変な風には触らないから」
「うん。いいよ。ていうか、そんなの聞かなくていいよ……?」
「あ、うん。ちょっと恥ずかしいよね。ごめん」
「ううん……」
なんだか付き合いたてのカップルみたいな会話に初期の頃を思い出す。私はあの頃からずっと奈々に上手くしてあげられてなくて自分の首を絞めたくなる。
もっと自然に良い感じで言えるようにならないのラガーマン朝海……?
私は気持ちを持ち直して奈々に密着するように座り直すと手を握った。そしてうまい言葉が見つからないからストレートに投げた。変に考えても辱しめてしまいそうだから。
「昨日の事気にしてる?可愛かったよ?」
「………気にするよ。私あっちゃんの前で泣いてばっか。もう自分を殴りたい…」
奈々は居たたまれなさそうに下を向いてしまったがそんな恥ずかしい事じゃない。人生泣いてなんぼよ。
生きてると泣きたくなるの。それが人生。
「いいじゃん。ずっと私の事呼んでて可愛かったよ。離れないし」
「…………もうやめて」
「でも、きゅんてきたよ?あんな甘えただと思わなかった。年上のくせに」
「…うん………」
奈々はいよいよ黙ってしまった。
私はごめんという思いを込めて奈々の頭にキスをした。だってあれはちょっと困ったけど本当に可愛かったからしょうがないじゃん。
「奈々大好きだよ。もう言わないからこっち見てよ?」
「…………私がどれだけ好きか分かってないでしょ?」
「分かってるよ。充分伝わるもん」
「………絶対分かってない」
「じゃあ、そういう事にしてあげる」
「バカ…………」
また黙ってしまった奈々は顔を上げそうにない。もうこりゃ待ちに出るしかなさそうだ。気長に待つかと思っていたら奈々は観念したように話し出した。
「私あっちゃんに会えないと携帯でいっつもあっちゃんの写真見てるんだよ。それに毎日朝からずっと考えてるし会えるとただ一緒にいるだけで嬉しいし笑った顔が可愛くていつも見入っちゃうし……話せるだけで舞い上がってる。好きって言われるだけでもバカみたいに浮かれて喜んでるし…あっちゃんには利用されて騙されてもいいって思うくらい好きなんだよ……。たまに病気かなって思っちゃう……。あっちゃんの事になると自分があまりにもバカで……」
「まぁ、それもいいじゃん。私も同じようなもんだし」
「そんなのあり得ないよ……。私はあっちゃんみたいに返せてないもん」
「なにがよ?」
奈々は心底恥ずかしそうだが私には可愛く思えて仕方なかった。可愛い奈々の思考は私には検討もつかない。奈々は手をぎゅっと握ってきた。
「愛情。いっぱいあげたいのに伝え方が下手だからあげられてない気がして……。私はあっちゃんが好きだからよく見てるし話してあっちゃんの事も分かってるつもりなんだけど、あっちゃんが求めるものとか嬉しい事はあんまり分からないの。いつも喜ばせたいとかって思ってるんだけど、自分が逆に喜ばせられてるし嬉しくさせられて沢山求めてて……だからちょっと心配なの」
「も~、そんなに真面目に考えなくていいんだよ?私は奈々が喜んでくれて、好きでいてくれれば嬉しいの。求めるのはそれくらいだよ。好きって言ってくれたら嬉しいし元気になるし奈々に好かれてるって思うとにやけちゃうもん。単純色ボケ野郎なの」
奈々の心配は取るに足らないものだった。
好きでいてくれる事が何よりなのに分かっていない。
やっと顔を上げてくれた奈々に私は待ってましたと言わんばかりにキスをした。愛情は私の方がもっとあげたいものだ。
「してる時なんか名前も好きもいっぱい言ってくれるじゃん。ドキドキするけどあれ毎回嬉しいよ。でも、奈々エロ過ぎ。しかも可愛くて私ヤバイよ手汗とかいろいろ」
奈々はしてる時とんでもなく可愛いくてエロいので私はいつも奈々に流されるままである。いつもと違う奈々は私をど緊張させてきて動悸がいつまでたっても収まらないのだ。これはいつもとのギャップが激しいからだと思う。奈々はこう見えて意外に夜は激しい。
「……いつもすぐやめちゃうじゃん」
「だってちょっと心配になるし、疲れたかなって」
「……あっちゃんしてる時も優しくて困る」
「そんなん大切だから当たり前でしょ。だから奈々の言う事はなんでも聞くからね?喜ばせたいし……なんでも言ってね?」
「………言ってるよ」
少し奈々を辱しめてしまったがこれは重要事項なので聞けてよかった。セックスは人によってだいぶ違うので大事よ。私は今まで通り奈々に流されるままだろうが好きだから喜んで流されよう。良かったとひと安心も束の間に奈々は逆に聞いてきた。
「でも、あっちゃんはなんかある?」
「え、私?」
「うん…」
恥ずかしそうに聞かれても私には特になかった。あるとすれば体格差がありすぎるので姿勢とか力加減?まずいと一瞬真顔になって私は真面目に聞いた。
「あの……ちょっとごめんね?恥ずかしい事真面目に聞くけど…奈々してる時やりにくいとか、体制辛いとかない?」
「あんまりないかな?あっちゃん聞いてくれるし…」
「あぁ、そっか。じゃあ、あの、強いとか痛いとか…………そういうのはない?」
「うん。ないよ?………いつも優しいじゃん。そうしてるの分かるよ私も」
「あぁ、そう……。そっか……」
ないならないで良かったがこの感じはいろいろ読まれてそうだ。あんまり話すと私が恥ずかしい思いをしそうだし、気を使わせて奈々を辱しめる可能性もある。
私はもう話を区切る事にした。何事もほどほどにだよ。
「じゃあ、終わりにしよこの話は。ちょっと照れるから」
「うん。……あっちゃんはさ、してる時私を見て緊張するだけ?」
「え?」
しかし、終わろうとしたのに奈々はアクセルを全開にしてきた。
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