第53話



そしてひいちゃんと飲みに飲んで翌日を迎えた。

ひいちゃんはいい気分転換になったようで喜んで帰って行った。私は私でやる気が出たからやってやるぞ!って意気込んだがよくよく考えて自分に引いていた。


だってさぁ、指輪だして一生一緒にいてくれベイビーって言うんだよ?キャラに合ってなすぎ…鏡見ろよ……。しかも私じゃ勝率低い………。この肩幅と巨体と元々男性と付き合っていたのはでかいよ。

諦めないでとことん頑張るつもりだけどフラれたら傷でかくてしばらく放心状態だし、奈々逃したら奈々みたいに将来考えられる人現れなさそうじゃん…。イコール詰みだろうが人生の一大事だから頑張るけどどうなるんだろう………好きだけど逃げたい。



八割不安の私は家にいるのに落ち着かなかった。

奈々が来るから勘づかれないように平然を装わないとなのに今からこれで大丈夫か私?

ていうか、指輪ができたら渡す時どうするよ?

初めてだから分からないぃぃぃ。

もう真顔になっていたら部屋のインターフォンが鳴った。私はハッとしてモニターを確認しに行くと奈々がいた。ひぃぃ!もう来た怖い……!

でも、落ち着かないと。落ち着いて冷静に指のサイズを計るまでやらないと……!

私は急いで玄関を開けた。


「奈々、来てくれてありがとう」


「うん。さっきコンビニでいろいろ買ってきたよ」


コンビニの袋を見せる奈々は笑顔でこれから試練が始まるのを漂わせた。奈々って笑顔で私に試練を寄越す人なのに将来も考えちゃうくらい好きって私はマゾなの?

私はお礼を言ってそれを受けとると奈々を部屋に入れた。今はマゾとかどうでもいいんだよ。


「昨日は楽しかった?」


「え、あぁ、うん。楽しかったよ」


隣同士に座って奈々に話しかけられて笑う。


「いきなり会えない?って言うからビックリした。なんか言われたの?」


「え、そんなんじゃないよ。いつもそんな言われないし」


「そうなの?じゃあ、サプライズ?」


「残念ながら何もありません。あってもすぐ気付くでしょ奈々は」


少しヒヤッとしながら笑う。盗聴でもされてたのかと思うくらいだが私はいきなり会いたいとか言わないからだろう。奈々は笑って言った。


「じゃあ、私からあげる」


「え?」


「すごいやつ欲しいって言ってたでしょ?」


予期せぬそれには本当に驚いた。奈々は普通にコンビニの袋の中から店で飲んだら数万はする酒を出した。


「え?……え?これ売ってたの?」


「うん。あっちゃん好きだと思って買っちゃった。ていうか、私も好きだし」


「え、でも高いでしょこれは。これだってただの酒とは…」


「もうお金はいいから飲もう?せっかく喜ぶと思って買ったのにやだった?」


「いや、やじゃないけど…驚いてさ……」


万単位でしか買えないと思うし飲めないから滅多に飲んだ事がない酒は恐れ多かった。さすがだぜ……。奈々はにっこり笑った。



「じゃあ、貢いだお礼にハグして?あとキスも」


「うん。分かった。ありがとね奈々。嬉しい」


「うん」


奈々に求められて私はすぐに抱き締める。ここでも気を使われたんじゃ何か言ってはダメよ。顔を寄せてキスをすると奈々からもキスをされた。奈々は機嫌が良さそうだった。


「こんなに嬉しくなるんじゃまたすぐに貢いじゃいそう」


「え?高いからダメ。私は貢がなくても何でもするよ?」


「でも、驚いた顔も見れるし喜んでくれるからいい気分なんだもん。あっちゃん気付かなかったでしょ?」


「うん。まじで驚いたよ。奈々本当にすごいやつ持ってくるんだもん」


「だって好きだもん。すごいやつしかあげたくないよ」


奈々が嬉しそうに言うもんだから私は笑ってまたキスをした。本当に好かれるとこんなに嬉しいんだなと気付かせてくれた奈々には愛情がどこまで沸くのか分からない。


「本当にありがと奈々。大好き」


「うん。あっちゃん早く飲もう?」


「うん。準備するから待ってて」


私もすっかり奈々に喜ばせてもらって早速飲む準備をした。それから仲良く飲んでいたが奈々は酒を他にもいろいろ買ってきてくれていていろんな味が楽しめて良かった。

そうして結構な酒を飲んだ所で私も酔ってたけど奈々の方が酔っていた。


「あ、あっちゃんルイ見せてあげるね?」


「あ、うん。見たい見たい!」


「ちょっと待ってね……ん~…」


奈々はもう私に寄っ掛かっていて支えてないとフラフラするので支えているけど大丈夫かしら……?ていうか、酒が強い奈々にしては珍しかった。私は内心不安を感じながら待っていたら奈々は携帯で写真を見せてきた。


「ほら、これルイ。可愛いでしょ?」


「え、うん。こんな綺麗な犬だったの?足長いし綺麗」


ルイは奈々の言った通り奈々より大きく見える犬だが綺麗な毛並みと足が長いのが印象的で顔が凛々しい。

可愛いって言うか綺麗な犬で犬の癖に綺麗なやつだなとよく見ていたら奈々は急に携帯を隠した。


「もう、ルイばっかり見すぎ」


「え?………うん、ごめん…」


奇想天外な発言は困惑しか呼ばない。見せてきたのになぜ?だいぶきてる奈々は私に抱きついてきた。


「あっちゃん抱き締めて?寂しい」


「え、うん……。これでいい?」


こんなに近いのに寂しい奈々にますます困惑しながら抱き締めると奈々は首に抱きついてきた。


「あっちゃん」


「ん?」


「あっちゃん」


「ん?どうしたの?」


奈々はもう末期なのかしら……。そんなに呼ばれても何も出せないよ私。これはどうしようか?と思っていたら奈々が強く抱きついてきた。


「私あっちゃんの事好き」


「うん。私も好きだよ」


「あっちゃんの匂いも好き」


「え?…うん…私も奈々の匂い好き……」


奈々は匂いを嗅いでいるみたいでハッとしたがこのまま動く訳にもいかない。これはすんすんタイムのための罠だったのかと思ったら奈々が首にキスをしてきた。

はぁぁぁぁぁ!今かよおい!と顔面蒼白になりかけている私に奈々はまた摩訶不思議発言をした。


「あっちゃん私がいなくなったら浮気する?」


「え?しないよ。する訳ないじゃん。倫理的に無理だよ私は」


「じゃあ、私がいなくなったら悲しい?」


「そりゃ悲しいよ。奈々いなくなったら困るよ」


「……そっか」


「うん…………」


さっきから奈々はなんだろうか…………。私には未知だった。奈々は末期症状に苛まれてるのか?もう寝かせるべきかしら?これは風呂にいれたら溺死しそう。私は明るく奈々に提案した。


「奈々もう寝ない?お酒もほとんど飲んじゃったし横になろうよ?」


「やだ。離れたくない」


「え、じゃあ、一緒に横になろう?私も横になりたいし」


「……やだ」


「奈々………」


奈々の末期は深刻だった。なんでやなの奈々………。仕方ないので私は奈々にもう一度提案した。

酔っぱらい相手にめげちゃダメよ私。


「奈々このまま離れないようにベッド連れてってあげるからダメ?」


「やだ」


「………絶対離れないからダメ?」


「……離れるからやだ」


「え…………奈々?なに?どうしたの?」


奈々は急に泣き出して私は困惑するだけだった。ねぇ、さっきから本当になんなの?!私何を間違えてるの?!いったいどうしたらいいの?!メーデー!メーデー!

奈々はしくしく泣いていた。 


「あっちゃん大好きだよ」


「え、うん。私も好きだよ?好きだから泣かないで奈々。大丈夫だから」


「……私あっちゃんの事好き」


「うん。私もだよ。私なんかもうあり得ないくらい好きだよ?好きで困ってるよ?奈々の事毎日考えてるし」


「うん。私あっちゃんに浮気されても好きだよ。何回されてもずっと好き」


「あの…、浮気は誓ってしないよ?本当に。絶対しないからそんなの考えないで?私の中では犯罪に等しいからできないから」


私は浮気の心配をされていたの?私は何が何だかよく分からないけどとにかく寝かせようと思って泣いてる奈々を抱き上げて急いでベッドに運んだ。

もう未知数だから考えても分かんない私には。だからとにかく離れないようにして寝よう。それで励まそう。今一番の最善策はそれだ。

私は離れない奈々を抱きながら一緒に横になった。


「奈々言った通りでしょ?離れてないよ?」


「……」


「奈々大好きだよ。浮気とか絶対しないから安心してね。ていうか、奈々しか相手にしてくれる人いないんだから大丈夫だよ」


「……私が相手にしたくないって言ったら?」


「そしたら相手にしてもらえるように頑張るよ。奈々じゃないとやだもん」


「うん…」


奈々はやっと泣き止んできてちょっと安心していたら体を離して反対を向いてしまった。急な方向転換に次はなに?と恐怖する私に奈々は小さく言った。


「泣いてごめんね」


「いいよ。そういう時もあるでしょ?」


「……うん。ごめんね」


「だからいいってば」


私と言う抗がん剤が効いたのか奈々は末期症状が改善したようだった。血迷ったのか謎は解明できてないけどめげないで良かった。だが、ちょっと心配だから私は後ろから抱き締めながら密着した。


「奈々くっついて寝ていい?」


「うん…」


「ありがと。こうしてたら私ルイみたい?」


「……ルイは私が抱き締めて寝てたよ」


「え~?本当に贅沢な犬だなぁ。ルイはいいね」


ルイは犬のくせに奈々に本当に好かれている。奈々は本当に大事にしていたようだ。


「あっちゃんあったかい……」


「眠くなった?」


「うん……あっちゃん」


「ん?」


「…………あっちゃん」


「ん?なあに?」


呼んでくる奈々は私の腕を掴んでくる。

今日は甘えたいようで奈々は少し黙ってからこちらに向き直った。奈々はもう眠そうだった。


「あっちゃん」


「なに?」


「好き」


「はいはい」


「……あっちゃんは?」


もう目が開かなくなっている奈々はなんとも可愛らしい。今日は飲みすぎたなと思いながら顔を撫でて答えた。


「超好き」


「やだって言っても?」


「勿論。嫌がってぶん殴られて、ふざけんなって怒鳴られても好き。まぁ、そういう事は起こさないようにするけどね。もう寝な奈々?眠いでしょ?」


眠そうに私を見ようとする奈々はまだ喋った。


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