第42話



「答えられなかったら全然いいんですけど、るるさんの好みのタイプはなんですか?」


こういう次元の違う人の好みは気になるものだ。

るるさんは男の匂いがSNSからしてこないけどいそうだしぜひ聞きたいところ。

ワクワクしていた私は思わぬ回答に持っていかれてしまった。


「え~、私はあっちゃんみたいな背が高い人が好きかな?」


「え…やだ、なんかすいません。恐縮です。ありがとうございます」


「ふふふ。あっちゃん秘密だからね?早くチェキ撮ろ?」


「あ、はい。よろしくお願いします」



にこにこ眩しい笑顔のるるさんに促されてしまりのない顔でチェキを撮る。私はその後写真を貰って嬉しさのあまりにやけていた。

え……ちょっと待って私の鋼の心臓がときめいたんだけど?!恋愛においてときめくどころか普通な人いないの?って迷走してたのにるるさん商売上手過ぎない?営業なのは一番理解してるけど見事に撃ち抜かれた…………!アイドルにはまるってこういう事なんだね?!


私はもうヘラヘラしながら外に出て待っていた奈々と合流した。そしてすぐに報告した。報連相は大事。


「奈々!もうちょっとやばい!やばい!聞いて!」


「え、どうしたの?」


嬉しさのあまり興奮が隠せない私に奈々は驚いていたが興奮は収まらない。


「さっきるるさんが素敵過ぎてときめいちゃった!もうダメかも……!素敵。……マジ好き。好みのタイプを伺ったらね、私みたいな背が高い人っておっしゃっててもー、ちょっと嬉しすぎました。はい」


「そんな事聞いたの?でも、良かったね」


「うん。ちょっと気になるじゃんアイドルだし?でももっと違う回答が帰ってくると思ったけど一瞬で死んだ~。ときめきと嬉しさが止まらないんだけどー。やー、どうしよ~。営業なのは分かってるけど私くそでかいのに嬉しい~。なんて素敵なのるるさん」


久々の高まりに私はもう上機嫌だった。

あんなキラキラ女子に言われて喜ばない訳ないじゃん?でかいの普通にコンプレックスだけどへらへら笑っていたら奈々は笑いながら手を握って引いてきた。


それは初めての事で私は驚いた。


「嬉しいのは分かったけどもう行くよ?早く帰ってご飯食べたい。お腹減った」


「え、うん。じゃあ、どっか寄ってく?」


とても自然に手を引かれて私は嬉しさがどっかに行ってしまってどよめきだった。

おいおいおい、手を繋ぐのは全然いいんだけど私なんかと手を繋いでいいのか人がいるところで?!相手が私じゃ恥ずかしくない?私でかいからリアル街路樹なんだけど……もはや背景。奈々はいつも通り優しい口調で笑顔だった。



「ううん。途中で買って帰ろう?カナダのお酒も買ってきたからそれ飲みたい」


「ああ。じゃあ、いいけど…」


それきり会話は失くなってしまった。

私の手を引く奈々はなんらいつもと変わらない雰囲気だけど私は焦っていた。

え、いきなりどうしたこの展開………?これなんか言った方がよろしいのかしら?なんだよ恋愛難しいなおいぃぃぃぃ………。

手を握られてるのに握り返していいのかも分からずにおやおや悩んでいたら奈々がしばらくして口を開いた。



「……こういうのやだかな?」


「ん?なにが?」


「外で………手繋いだりするの…やだ?」


「え、いや、やじゃないけど」


少し不安が伺える言い方に勇気を出してくれたのかなと察する。今まで外では繋いでいなかったけど私は特に抵抗はない。奈々がいいのであればそれでいいのでこの機会を逃すべく私は優しく手を握り返した。

すると奈々は小さく微笑んだ。


「よかった。………握り返してくれないからやなのかと思った」


「いや、あの、握ってもいいのか分かんなくて……。ごめんね?」


「握ってくれたからいいよ」


そうしてまた会話がなくなる。

別に嫌な沈黙ではないけれど手を繋いで歩くだけで緊張する。このまま黙っててもいいかもしれないが、なんかちょっとソワソワしてしまう。どうしよう……。こいつはどう仕掛けたらいいのか……。

黙ってそのまま歩いていたら奈々はまた話しかけてきた。


「あっちゃん私とは全然違う反応だね?」


「え?」


なにが?と言う前に奈々は不満そうに続けた。


「好みのタイプ。私前に好きな人どんな人?って聞かれたからあっちゃんみたいな人だよって言ったらあっちゃんデブ専なの?って聞いてきたよね?意味分かんない…」


「え、あぁ、うん……ごめん……」


「私に言われても嬉しくないかもしれないけど……冗談だと思ったの?」


「いや、そんな訳ないじゃん」


「じゃあ、どういう意味?るるの時は凄い喜んでたのに…。私と全然違うじゃん。私ずっと好きだったのに」


奈々は怒ってはないけど尋問されてる気分だった。

はぁぁ、どうしよう……あれ今だに意味不明だよ。あの時奈々がキレてたからすぐに引き下がったけどここに来て清算しなきゃならないなんて人生うまくできてんなおい……。あっぱれだぜ。

私は苦笑いしながら慎重に言葉を選んだ。


「えっとね、あれは……あの、驚いたって言うか………自分だと思わなかったし、……あれは本当に申し訳ないけど私も今だに意味が分かってないと言うか…謎と言うか…なんか、本当にごめんなさい……」


「私告白した時に好きなとこ言ったのに本当に今も分からないの?」


「え?…………いや、あの、それは分かるけど…全部が全部は分からないって話しだよ?ほら、あの、付き合っててもちょっと思い違いみたいなのあるじゃん?そういうのだよ」


「なにそれ…」


「うん……ごめん……」


もう肩身の狭い私は別に怒鳴れてる訳じゃないのに死にそうだった。奈々が全く納得してないんだもん。ていうかもうたぶん読まれているだろう。こちらの気持ちを全て。エスパーに対抗しようとした私が悪いよこれは。言い訳はやめてもう一回謝ろうとしたした時、奈々は私の手を少し強く引いてきた。咄嗟に奈々に顔を向けるも奈々は怒ってないけど呆れていた。


「もうあっちゃん、ちゃんと聞いててよ?」


「うん、分かった。聞いてるよ…」


次は何を言われるのか恐怖を感じつつ真面目に返事をすると奈々は言い聞かせるように話し出した。


「私はね、背が高くて気遣いができる人が好きなの」


「………」


「あっちゃん聞いてる?あっちゃんの話だからね?」


「え?うん!聞いてるよ!聞いてる!」


黙ってしっかり聞いてようとしたのに早速墓穴を掘ってしまった。私の話だったの?と困惑するも奈々は話を続けた。


「それでね、笑うと可愛くて、落ち込んでたらいつも励ましてくれて、悪いとことか全部知ってる上で受け入れてくれて認めてくれる人が好きなの」


「うん……」


「しかもね、よく察してくれて言ってくれたりやってくれたりする人で、ちょっと心配性だけど離れてても気遣ってくれていつも気さくなの。でも、真面目なとこもあって自分の事よりいろいろ考えてくれてちゃんと言葉にしてくれる人だから嬉しいの。恥ずかしい時もあるけどはっきり言葉にして伝えてくれるからいつも安心するし嬉しくなるんだよ」


「……うん。よかった」


奈々の純粋な気持ちは嬉しい限りだった。

私そんなにできてた試しがなかった気がするけど分かってくれていたんだなぁと頭が上がらない。奈々だって言葉にしてくれるくせに気遣いはどっちなんだか。

私達はお互いに同じようなところを好きでいるのも嬉しく感じた。


「ちゃんと分かった?」


「うん。充分分かりました。ありがとうございます」


「じゃあ、次また変な事言ったら怒るからね?」


「え?それは勘弁して?絶体気を付けるから」


「んー、あっちゃんたまにずれてるからなぁ。まぁ、あっちゃんだからいいけど」


笑顔の奈々はいつもの感じに戻っているのでとりあえず一件落着したようだ。だが、よく空回りで顔色読めてなかったりするから気を付けねばと気合いが入った。

今の様子を見るに奈々はたぶん冷静にキレてくるタイプで会話をしっかりしてくるだろうからけちょんけちょんになりそうだよキレさせたら。こういう所は男性に比べたら本当に大人だ。ガキみたいな癇癪起こしたり怒鳴ったり逃げたりしないもんね。しかも上手だから普通に私が反省しそうな事しか起きなさそうじゃん………。普段優しい分幽霊より怖いぜ………。



私達はそれから話しながら奈々の家に向かう途中で適当にご飯を買って帰った。

そして奈々の家で食べながら飲んだ。

奈々はすごく美味しいお酒を買ってきてくれてそれが美味しいあまりお互いによく飲んでしまって早々に酔いが回っていた。


「奈々本当に無事に帰ってきてくれて良かったわ。こんなうまい酒までマジでありがとね?」


「ううん。…それよりあっちゃんまたあのジュナちゃんって人と飲んでたんだね?」


「あ、そうそう!偶然会ってさ、最高に可愛かったからまた鼻の下伸ばしちゃった~。ジュナちゃん奈々の事心配してたよ?また飲もうねって言っといたけど」


あの日を思い返すと美人と飲めて最高しか感想はないがジュナちゃんは優しいので奈々を気にしていた。

隣にいた奈々は顔をしかめた。


「……またへらへらしてたんでしょ?」


「え?そりゃもちろん。ジュナちゃん超可愛いじゃん。あんな人いたらへらへらするよ。可愛い可愛いっていつも言ってくれるしまじ癒しだったわ。奈々の事も可愛いって言ってたよ?」


「私にはへらへらしないくせに」


「奈々にするわけないじゃん。やりたいだけみたいで失礼過ぎるだろ。絶対できないよ」


彼女の奈々に鼻の下伸ばしてへらへらとか軽蔑の目で見られそうで私には一生無理だから即答したのに奈々はしかめた顔のまま言った。


「……なんであの写真送ってきたの?」


「私の変顔が最高に決まったから。あれまじ笑えたでしょ?バケツとか大笑いしてたから絶対いけるって思ったんだけどどうだった?」


実は私は最高にキモイ顔をしていたからこれには自信があって笑ったのに確信を持っていたのに奈々は急に私から顔を逸らしてテーブルに突っ伏した。



「なんにも笑えないし…………」


そうして奈々は予想外な反応を見せた。



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