第43話
「え、あれ面白くなかった?ゴリラみたいで私も笑ったんだけど……」
「あんなのつまんなかった…」
「あ、…………そっか。ごめん…………」
酔っていたのに私は急に酔いが覚めてきた。
…………なんだと?あれは傑作だったしバケツが引くくらい笑ってたんだけどそんなバカな……。しかし、奈々がまぁまぁマジなトーンで言っているからつまんないのだろうけど自信があった分面目なかった。
「じゃあ、次はもっと面白いやつ送るね?私頑張っちゃうから任せて!」
私はめげないで言った。
これからも出張はあるだろうしここは奈々のためにも頑張りたいところ。次はどんなやつやろうかなと考えていたら奈々は不機嫌そうに言った。
「……あんなのいらない」
「え………うん。分かった」
「……写真なんか撮ってくれないくせにムカつく…」
「え?」
とってもショックを受けていたら突然の奈々の発言はいつもからは考えられないくらい穏やかではなくて驚いた。どういう意味だと思っていたら奈々は突っ伏したまま話した。
「私との写真なんか一枚もないでしょ?」
「え、……うん。そうかも……」
それはよく考えたらあり得ないけど事実だった。
彼氏との写真は友達ほど仲良くないからいらなかったし撮っても私は保存しないから習慣がなかったけど忘れていた。超大事だったじゃんと言われて気づいたけど…………。
奈々はそれから体を起こすと私を見て更に続けた。
「あっちゃんいつも綺麗な人が隣にいるし、いっつも嬉しそうに笑ってるし距離近いし好きってすぐ言うし…………ムカつく。私彼女なのに………私は特別じゃないみたいでムカつく……」
初めての不満に私は本当に驚いて面食らってしまった。
奈々が気にしていたのを私は全く気づかなかったから。まさかこんな事を言われるなんて夢にも思わなかったのだ。
「……いや、あの、奈々は特別だよ私にとって。すごく大切だし彼女だし…」
「じゃあ、なんで久しぶりに会ったのにキスもしてくれないの?抱き締めてもくれないし、そもそも触ってくれないし……。私がいない間に誰かいい人でもできた?」
「そんなはずないじゃん。確かになにもしてないけどそれは誤解だし、私は奈々が好きだよ」
奈々は私をよく見ていると同時にいろいろ感じていた。いつも笑っていたけど嫉妬も不安も沢山あったんだ。それに久々に会ったのに何にもしてないのに頭が痛くなる。なんてバカなんだろう。
奈々を考えればこれは私の落ち度だった。
「………ごめん。いきなり疑ったりして」
しかし奈々はそう言って私から顔を逸らした。私は突然のそれに困惑しながらも奈々の肩を擦った。
「ううん。平気だよ。私こそごめんね?大丈夫?」
「うん。……本当にごめんねあっちゃん。出張行くとよく浮気されてたから、変に勘ぐってた……。いきなりごめんね本当に」
「いいよ別に。会えなかったし、しょうがないよ」
「…………」
奈々は涙を拭いながら謝ってきたが私がそもそもカップルみたいな事ができていないから私のせいでもある。
私は何も言わない奈々を優しく抱き締めた。
ここは反応とか許可とか気にしている場合ではない。
「不安にさせてごめんね奈々」
「あっちゃんは何も悪くないよ……」
「悪いよ。奈々の事泣かせてんじゃん」
「疑った自分が情けなくて泣いてるだけだよ」
「でも、私のせいじゃん」
「ううん。本当に悪くないよ。……私の心が狭いからだよ。いつも優しくしてくれるのに疑ったり不安になってて……寛容になれなくて本当にやだ…」
恋愛において心を広く持てないというのはよくあるもの。だって好きだもん。理屈じゃない時はあるの。私は否定してくる奈々の顔を覗き込んでキスをした。やっぱり分かりあうのは時間もかかるし難しいもの。これは私が言動で示して安心させていくしかない。ちゃんと言動で伝えていって関係を維持していくものだもの恋愛は。ここは怠ってはいけないの。私は奈々に何度かキスをしてから意を決して奈々を持ち上げた。奈々は突然の事に狼狽えていた。
「えっ?あっちゃんいきなりなに?!私重いから…」
「いや、軽いから平気。掴まってて?」
「でも、あっちゃん……!」
私は奈々の声等無視してベッドまで来ると奈々を丁寧に下ろした。そしてまたキスをする。受け入れてくれた奈々に私は言った。
「あのね、断っても全然いいんだけど、今からしてもいい?」
「……うん」
「ありがと奈々。好きだよ」
「……うん。私も」
正直緊張するし突然過ぎだしやるの事態に不安しかない。怖いから。でも、今はそれどころじゃないの。
久々に会ってキスも触れる事さえも言われてやってるようじゃダメなのよ私。ここは私から積極的に攻めていかないと。
奈々にこれ以上負の感情を持たせてはダメ。
私はそれから緊張と不安と恐怖に苛まれながらなんとかセックスをした。
前回でどうしたらいいのか、何がいいのかそれなりに理解したから前に比べたらマシなセックスだったと思うけど私は本当に真面目にやってたから奈々には私の緊張が伝わってしまったと思う。
その証拠に奈々は終わった後に控え目に言ってきた。
「あっちゃんいつもありがとね」
一緒にベッドに横になっていたら突然お礼を言ってきた奈々。奈々は私の方に体を向ける。私は気遣いがバレてるんだなと思いながら私も奈々に体を向けると奈々は小さく笑った。
「私もう不安じゃなくなってる。いつも我が儘聞いてくれてありがとう」
「ううん。それより、めっちゃ手汗かいててごめんね?気持ち悪かったら次から手袋でも何でもするから言ってね」
私は手は震えなかったものの反応が怖くてしてる時に手汗が酷かった。奈々は何も言わなかったがやだったらまずいよなと思うも奈々は笑いながら私の手を軽く握ってきた。
「そんなの気にしてないよ。手袋の方がやだからしないで?」
「うん。分かった」
「うん………あっちゃんずっと会いたかったよ。本当はカナダに着いてからずっと寂しくて辛かった。会えないのも声聞けないのもやだったし携帯で話してたら最初から我が儘言いそうでやだったから連絡もしないようにしてた。それで心配かけさせちゃってごめんね?」
奈々は思い詰めたように話し出した。
私がしつこく言ったり言いやすいように言ってあげたら良かったなと改めて思うも後の祭りだ。
「電話して話せたからいいよ。そこもちょっと心配してたから聞けて良かったよ」
「……でも、ただの我が儘だよ?やじゃない?」
「やじゃないよ。言ってくれた方が安心だもん。奈々が出張行ってから私ずっと体調もそういうのも心配だったし、もっと察してあげたいけど私は鈍いから言ってくれた方が助かるよ」
何も言わないと今日みたいになるだろう。
奈々はたぶん今までの恋愛経験から自分の不満や不安を口にするのは難しいだろうがこれはフェアに言い合えないといけない事だ。
「……あっちゃんいっつも優しいよね。私絶対嫌いにならないと思う……」
「…ありがとう。ありがたいけど奈々も優しいじゃん。それに気遣いで可愛いし、私もずっと好き」
「うん……。ありがとう」
頬を撫でてちょっと照れている奈々にキスをする。
奈々は大人だけどよく照れるのが可愛らしかった。
「奈々大好きだよ。いつも奈々といれて嬉しい」
「うん……私も……」
「ふふふ、ありがと」
「…………」
これはちゃんと気持ちを伝えねばなのでは?と思って改めて言ったのに奈々は黙ってしまった。と言うより私が黙らせてしまったかもしれない。……え、まずい?これまずいよな?私は困り顔の奈々にとりあえず笑いかけた。これは空気をどうにかしないとダメ。奈々が困るくらい恥ずかしい思いはさせてはだめ。
「奈々次出張になったらさ、電話とかいっぱいしよう?テレビ電話もできなかったからさテレビ電話もしたいし、奈々の我が儘いっぱい聞いてあげる。やだ?」
「……ううん。でも、会いたいとか寂しいとか……私いっぱい言うと思うよ?あっちゃん嫌になるかもしれないし……」
「そんなの全然だよ。私が励ましてあげるし寂しくないようにいっぱい話そう?一緒に酒とか飲みながら話したら楽しそうだし」
「うん………。あっちゃんありがとう……」
奈々はそう言って急に抱きついてきた。
小さい奈々に抱きつかれるのは久しぶりでまた緊張する。私は優しく背中に腕を回した。
「奈々大好きだよ」
「うん……私も。いつもごめんね?私いつも平気なふりしてるだけなの。本当はすぐに寂しくなって不安になって焼きもちやいて、ちょっとした事でも気にして落ち込んでる。でも、嫌がられたくないから笑って何でもないみたいに強がって……一人になるといつも後悔してるの。聞いたり、言ったりすれば良かったって勇気もないくせに考えていつも言えないし……」
「でも、今日は言ってくれたじゃん?前も聞いたら言ってくれたよ?」
「今日は不安すぎたから口から出ただけだし、前はあっちゃんが優しく聞いてくれたからだよ。私いつも勇気がなくて、嫌われたくないから笑ってる。あっちゃんはちゃんと話してくれる人だから…そういうとこは私と正反対だし、いつか本当に嫌がられそうで怖い」
奈々の心の内は今までの言動の裏付けだった。
奈々は確かに言わない方だし言わない人って言うのは正直めんどくさい部類には入ってくる。
それは一々こっちが何かしたりしないといけない頻度が増えるからだ。それにそういう人と一緒にいるとえ、なんで言わないの?とか素直に言ったらいいじゃんって思う時があったりして相当その人に魅力がなければダルってなって即終了になりやすい。いつも自分からってかなり労力がかかる事だもの。
だが、奈々は昔に比べたら変わったし、この子はこう言うけど私は嫌いにはならないと思う。
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