第44話



「奈々大丈夫だから心配しないの。奈々の気持ちはちゃんと分かるし、分かる努力はしてるから。私はそれよりも奈々の優しいとこの方が目につくよ?」


私は体を離すと奈々と顔を合わせた。

ちょっと落ち込んでいそうな奈々は私から目を逸らさない。人には必ず悪いとこと良いところがあるんだから悪いとこよりも良いとこを見た方がいい。嫌な人嫌な人って思っていると本当に嫌な人になってしまうから。


「奈々はいつも私の気持ち察してくれるし、私が困ってたりすると助けてくれるじゃん。あの気遣いいつも嬉しいし好きだなって思ってさらに好きになってるよ?」


「……本当?私、あっちゃんの役に立ったりしてる?」


「もちろん。奈々は私のいい理解者だよ。私を分かってくれてるだけで嬉しいし、彼女だし」


「…うん。あっちゃんも私のいい理解者だよ」


「うん。しかも奈々の事一番好きだよ私」


応えてくれた奈々に笑って言うと奈々は嬉しそうに笑ってくれた。もう大丈夫そうだ。


「うん…!私も一番好き」


「うん。ありがと。じゃあ、奈々また会う日決めようよ?やっと奈々帰ってきたしもっと一緒にいたい」


「うん!私夏休み出張のせいでこれからだからあっちゃんがいい日で大丈夫だよ?あ、私あっちゃんとね…」


奈々はそれから嬉しそうに話していて不安は拭えたようだった。私は私で内心ほっとした。

それにしても奈々に言われて気づいたけどかなり奈々は乙女思考なんだなぁ、と思った。

本当にいつも笑ってるし文句とか言わないけど写真も撮りたいし焼きもちをかなり妬いてたのが意外だ。

奈々は前にバケツとかるるさんに嫉妬して落ち込んでる感じだったけど怒るくらい妬いてたのに全く気づかなかった。でも、よく考えると奈々は元々女の子が好きだから私が女と仲良くしてたらそりゃ嫌だよね。


友達だけど同性な分そういうのは思いやすいかもしれない。これは今後気を付けないといけないがそれよりも写真だ。私は奈々に比べたら全てでかいから奈々単体だったらいいけど一緒に撮れば格差社会を感じそうだぜ……。好きだけどね。でも、一緒のが欲しいだろうしここは私が折れるべきだから折れて奈々が満足するまで写真を撮ろう。



そう考えて奈々と軽く話して眠りにつくも私は翌日楽しそうな笑い声で目が覚めた。

すぐ近くで聞こえるそれはとても機嫌が良さそうでうっすら目を開けると奈々が私を上から見ていた。


「あっちゃんやっと起きた。おはよう」


「……うん、おはよう。先に起きてたの?」


「うん。写真撮ってた」


「………え?」


嬉しそうな奈々はベッドの脇に座るとキスをして可愛らしく言った。


「ダメなの?私達付き合ってるのに」


「いや……ダメじゃないけど……寝てたから……」


脅しのようなそれに私はやっと目が覚めてきた。

奈々はいきなりどうしたのかしら……?私は痴態を晒したという事?アーメン…。冷静に察するも私に拒否なんかできなくて奈々は携帯を弄りながらいつものように言った。


「うん、寝てたから可愛くていっぱい撮っちゃった。あっちゃん後で一緒の写真も撮っていい?」


「…うん。いいよ」


「やった。じゃあ、一緒にお風呂入ろう?お風呂沸かしといたから」


「うん…」


奈々はなんか昨日と違うというか、ぐいぐい来る。いつも控え目な方なんだけどどうしたんだろう。

体を起こして目を擦っていると奈々は私に抱きついてきた。私はそれに腕を回すも奈々は何も言わないから話しかけた。本当に一体なんなのかしら…。


「奈々どうした?」


「なんでもないよ。ねぇ、あっちゃんもっとキスしたい」


「いいよ」


奈々に言われてはしない訳にはいかない。

顔を上げた奈々にキスをすると奈々からも積極的にキスをされる。舌まで入れられて頭が覚醒してきたところで唇を離すと奈々は艶っぽく言った。


「あっちゃん、もう終わり?」


「ん?もっとしたいの?」


「うん」


奈々の積極性と態度とこの雰囲気に私はまたキスをしながら察していた。これはつまり…………誘われてるのでは?奈々の表情が艶っぽいしいつもと違う。

私はそうだったら昨日の事もあるししないといけないと思ってキスの合間に言ってみた。


「奈々?」


「なに?」


「していい?」


それで動きが止まる。またキスをしようとしていた奈々の笑顔が一瞬消えた。


「…分かったの?」


「え、…うん。ごめん、察し悪くて」


「そうじゃないよ…」


奈々はいつものように笑っているだけで読めない。私が口を開こうとしたら奈々が先に言った。


「出張で会えなかったからしたくなるの。分かるでしょ?」


「うん。ごめん、気付かなくて」


「もう違う。謝んないであっちゃん。謝るのは私でしょ?あっちゃんはする気ないし」


「え、…いや、あるよ?奈々は好きだから奈々とはしたいよ」


普通に言われてしまって内心動揺した。私の性欲のなさは見抜かれているが私は奈々と触れ合うのに消極的な訳じゃない。奈々は笑顔のままだった。


「全然そうやって見てないのに?まぁ、私じゃそういう風に思えないかもしれないけど…」


「あのね奈々、まず言っとくけど奈々は魅力的だよ?普通にそういう風に思えると思うけど私は人より性欲がないからそういう風に感じさせちゃってるだけ。でも、奈々とはしたいと思ってるよ?奈々の事は本当に好きだから喜ばせたいし触りたいけどいつも緊張するから余計そう見えるかもしれなくて…」


「いつも私の様子窺ってるもんね。いつもすぐ謝るし、困った顔してるし、……そんなに気使う私?」


「いや、そこまでじゃないけど、好きだから…」


「今も使ってるのに?」


「それは……」


奈々はどこまでも読んでくる。上手な彼女の正確な発言に私は言葉が詰まってしまっていた。確かに気を使っているが私の気遣いが悪い方に作用している。全てが悪い方に受け取られている。

奈々は私から少し距離を取った。


「私怒って言ってるんじゃないよ?私が我が儘言い過ぎてるからあっちゃんにそこまで気を使わせたくなくて言っただけ。あっちゃんいつも合わせてくれるし」


「うん…。あの、でもね?私、別にそんな気使って奈々といるんじゃないからね本当に。ただ好きだから、緊張したりとかして……」


「うん。分かってるよ。分かってるから大丈夫。ごめんねいきなり。気分悪くさせてごめん。私先にお風呂入ってくるね」


「え、あ、うん……」


奈々は笑ってそのまま風呂に行ってしまった。

終始笑っていたしいつも通りだったけど私の行動諸々裏目に出ている。違う意味で感じ取られているのは確かだった。これは、とてもまずいな。

弁解しようにもあの様子じゃ意味なさそうだし正確な事を言われて終わりそうだ。

でもだからって行動しないとダメだ。このまま黙ってたらそうだって言ってるようなもんだもん。


私はそわそわしながら考えてとりあえず風呂に向かった。そして緊張しながら風呂のドアを軽くノックした。


「奈々?あの、私も一緒に入っていい?」


シャワーの音がしていないから私の声は聞こえている。奈々はすぐに言った。


「私もう熱いから出るから後で入ってあっちゃん。ごめんね」


「あぁ、うん。分かった。こっちこそごめん…」


行動してもさっきの今じゃ当然の結果だ。

私はがっかりしながら部屋に戻って奈々が出てきてから風呂に入った。そして、風呂から出たら奈々はご飯を作ってくれていていつもと変わらなくて、奈々は本当に大人だった。さっきの話しには触れないし私から距離を取って笑顔で話しかけてくる。

私達の間にはあの隙間が開いていた。


「あっちゃんまた優馬のとこに飲み行こう?優馬達にもお菓子買ったんだ私」


「あ、そうなの?うん、行こう行こう」


「じゃあ、行く前にまたダーツしたい。いい?」


「うん。いいよ。次もブルに当てられるように頑張る」


奈々は笑っていて私も笑っているが内心どうすべきか分からない。隣にいるのにこの絶妙な隙間が全てを物語っている。奈々は私に気を使っている。私が嫌とか思うくらい気を使っているかもしれないと踏んでいるからきっと自分からもう触れてこないだろう。


「ふふふ、じゃあ、また当たったらなんでもしてあげるね?」


「えぇ?本当?いつもありがと」


「ううん。私がしたいだけだからいいの」


変わらないけど、変わってしまっているこの距離をどうにかしたい。私はさっきから笑って話すのが辛くて軽く奈々の手を握った。


「どうしたの?」


奈々は笑顔で聞いてきたけど私は笑顔でいられなくて奈々を真面目に見つめた。


「あのさ、さっきの事なんだけど」


「さっきのは私が気を付けるからそれでもいい?」


奈々は私が言うよりも先に言ってきた。


「付き合った時みたいな距離感の方がお互いにいいと思うからそういう風にして行きたいんだけど」


「でも、私、奈々とキスとかしたいよ…」


「たまにすればいいじゃん。いつもは疲れるから、たまにしよう?キスも、するのも。そっちの方が私も楽だから」


「…………」


奈々はいつもみたいに笑っていたが私はなにも言えなかった。先手をことごとく奈々に打たれていて私はただショックだった。もう私に何か言わせたくないしこの話しもしたくないようだし、奈々は波風立てずにこの関係を維持しようとしている。私が好きだから私に気を使わせまいと。


「奈々は……やだ?私とキスとかするの」


振り払われない手で奈々の手を強く握る。

怖いけど私は聞いていた。だって聞かないと奈々は私に気を使う。奈々は困ったように笑った。


「嫌じゃないよ。嫌じゃないけど、いつもやらなくてもいいから」


「そっか……」


上手いかわし方をしてくる。本当は嫌なくせに。奈々は内心したいと思っていたくせにここに来てまた隠された。私は本音を言わない奈々に居たたまれなくなって少し強引にキスをした。奈々はそれでやっと動揺を見せた。


「いきなりごめん。でも、私本当にしたいよ?奈々が好きだから触りたいし、キスもしたい。これは、本当に本当だから……無理してるとかじゃないよ」


ちゃんと言えば奈々は応えてくれると思ってた。でも、奈々は少し黙ってから笑みを消して言った。


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