第35話




「でも、あっちゃんは私としたいとか……思う?そういうのは……気持ち悪くないかな?気持ち悪かったら本当に言ってくれていいから…」


一番気にしていたのかなと思うようなそれに少し胸が痛んだ。自信以前にこれが一番奈々を悩ませていたのかなと思うと苦しくなる。キスした時に気持ち悪くない?と聞いてきていたのは合わせてもらってると思っていた節もあったって事だ。これはこういう話をちゃんとしなかった私の責任もある。




「私は奈々が好きだから気持ち悪いとかはないよ。それに奈々がしたいって思ってくれてるならしたい。でも、奈々がしたくないならしたくない。奈々は?」


私は奈々の気持ちを知りたくて手を軽く握った。

奈々には不安な思いや嫌な思いの他に遠慮もしてほしくないし我慢もなるべくさせたくない。

私は奈々と意見を言い合える対等な関係でいたい。

それでどうするかは私達の気持ちによるけど最初から意見も言えないような関係はダメだもん。ましてや話し合えないなんてもっとダメ。

付き合ってるのに一緒にいる意味がない。


「私は………したいけど、怖い…。あっちゃんには引かれたりとかしたくないの。あっちゃんの事は本当に好きだけど、もしかしたら気持ちが離れちゃうかもしれないって思う事があってね…。私は、今まで好きって思っててもダメになってたから……」


「じゃあ、奈々は私と一緒に頑張る気ない?」



私は奈々なら応えてくれると思って言ってみた。

好きという気持ちは大事だけど好きなら頑張るのは当たり前。しかもそれは一人でじゃなくて二人で頑張らないといけない。それが恋愛という人間関係を作るのだから。



「私も奈々にフラれるかもって思う事あったし、嫌な思いとかさせて嫌われたくないってよく思ってるよ?でも、それでも奈々が好きだから頑張らないとって勇気出して頑張ってる。嫌われたくないけどそれ以上に奈々が好きだからそうしてる。だから奈々がしたいなら私もしたいから頑張るし、そんなに不安に思わなくてもいいんじゃない?私達初めてだし上手くできなくてもまたしたらいいじゃん。上手くやって満足させるとか思う前に私は奈々が好きだからできるだけで嬉しいと思うし、奈々が私としたいって思ってくれるだけでも嬉しいし」



「…うん。……私もそう思う。私もあっちゃんが好きだからできるだけで嬉しいと思うし、したいって思ってくれるだけでも嬉しい。それに、私もあっちゃんみたいに思って頑張ってた。不安に思う時もあったけど好きだから頑張ってた」



奈々は私が握った手を握り返してきた。

それが嬉しくて笑ってしまった。

奈々が頑張ってるのは最初から知っているから。

奈々は私よりも頑張っているもの。



「うん。知ってる。奈々は意外に積極的だしちゃんと好きとか言ってくれるから好かれてるんだなって嬉しかった」


「うん…。私もね、あっちゃんがしてくれる事全部嬉しかったよ。よく聞いてくるから恥ずかしいけど大切にしてくれてるんだなって嬉しかった」


「よかった。じゃあ、一緒に頑張れそう?お互いに不安はあるだろうけど私は奈々と一緒にいたいから頑張りたいんだけど」


「うん…。私も頑張るから一緒にいたい」


「そっか。よかった」


はっきり言ってくれた奈々に安堵する。そしてお互いに笑いあって私達は自然にキスをした。

それにとても満たされて嬉しくてまた笑う。こんなのは初めてかもしれない。奈々はおもむろに抱きついてきた。


「あっちゃんありがとう。大好きだよ」


「うん。私も好き」


そう言ってまたキスをした。それはいつものような緊張がまるでなかった。ちゃんと話した事によって心の距離が近づいたからだろうか。

とても嬉しい気持ちを感じながら何度かキスをして唇が触れそうな距離で見つめあう。私は奈々を軽く抱き締めながら今だと思って言ってみた。


「奈々今からする?」


「……ううん。今日はいいよ…。あっちゃんがしたかったら全然していいけど」


「そっか。私は奈々に合わせるからいいよ。今日は気分じゃなかった?」


流れ的に間違いないと思ったが意外にも奈々は断ってきた。奈々は小さく否定した。


「ううん。今日は昨日みたいにくっついてたいから。それにもっとあっちゃんと話したいの。私ね、先の予定もっと立てたいの。もうすぐ出張入っちゃうし、会えなくなっちゃうから……」


「え?そうだったの?どこに行くの?」


奈々の突然の話しに驚いた私は聞いていたが返答に更に驚いた。


「えっと、今回はカナダに一ヶ月くらい」


「え?!カナダ?!」


「うん。私の会社海外のお客さんを相手に仕事してるからいつも出張は海外なんだ」


「あ、そうなんだ………」


つまり奈々は外資系?私は驚きながら推理していた。

奈々とは全く仕事の話をしていないしお互いに普通の会社員という情報だけを交換している。今更詳しく聞いてもと言うか仕事の話は嫌いだから基本したくないし聞いても分からない事が多かったからしようとは思わないが奈々は凄いとこに勤めているのかこの感じ……。


「それでね、早く話そうと思ったんだけど出張来週の始めに行くからその間できるだけ会えないかな?」


「うん。それは全然いいけど………金曜以外なら大丈夫だよ。あとは全く予定ない」


今週はひいちゃんと花火大会以外何もない。ていうか、一ヶ月も恋人と離れていた事がなかった私は新鮮味を感じていた。え、これどうなる?どんな気持ちになるの?ていうか、奈々は海外でもモテそうだし私頑張らないと危機じゃないこれ?


「じゃあ、また土日でお泊まりしてもいい?平日は予定合えばご飯食べ行ったりちょっと飲んだりしたいんだけど……」


「うんうん。いいよ。そうしよ。じゃあ、私もちょいちょい連絡するね?」


「うん。ありがとあっちゃん」


とりあえず予定を決めたが奈々とは来週以降一ヶ月も会えなくなる。つまり今週は頑張らないと危機が増すという事。新たな試練の予感に私は内心悩んだ。

今週絶対ヤらないとまだ付き合いの浅い奈々の気持ちを離れさせる可能性も否めない訳だよな………?今週はひよってられないぞ私。でも、クソ雑魚ナメクジの私がそこまで行ける…………?


「あっちゃん、金曜日は友達と遊びに行くの?」


「え、うん。会社の先輩と花火大会行くんだ。××川の。最近それ行こうって話しになってさ、凄い楽しみなんだ今から」


「そうなんだ。花火あんまり見てないから楽しそうだね」


「うん。奈々も友達と行ってくれば?××川の花火いっぱい上がるし屋台沢山あるから楽しいよ」


金曜の花火大会はひいちゃんの奢りだし沢山の花火が上がる。今週の楽しみはそれだけだった私は本当に楽しみだった。奈々は小さく笑った。


「うん。行けたら行こうかな。あっちゃん楽しんできてね」


「うん。でも、それより奈々と一ヶ月も会えないの寂しいなぁ~」


奈々と会えなくなるのは正直寂しくて言っていた。楽しみはあるが奈々と最近ずっといたのに会えなくなるのかと思うと残念だ。奈々は笑ってキスをしてきた。


「会えないけど電話とかもできるから大丈夫だよ」


「そうだけど直接会うのとは違うじゃん。まぁ、連絡できるだけましか」


「私のせいでごめんねあっちゃん」


「いや、奈々のせいじゃないよ。奈々は仕事頑張ってね?私は奈々が帰って来たら喜ぶようなお酒探しとくから」


「うん。ありがとうあっちゃん…」


奈々が帰ってきたら喜ばせてあげたいから私はいい酒でも用意する事にした。奈々に会えない分まめに連絡して奈々の事を考えながらお酒を買うのも楽しそうだもん。


「あっちゃん手握りたい…」


「ん?いいよ」


まだ先の事に思いを馳せていたら奈々がねだってきたので私は奈々を密着するように抱き寄せながら手を握った。すると嬉しそうに手を握り返してきた奈々は私に身体を凭れさせる。


「嬉しい」


「私も」


「うん。……それも嬉しい」


「私も。奈々?」


「ん?」


私は自然に奈々に顔を寄せる。すると奈々も顔を寄せてくれてキスをした。少し長めにキスをして舌を絡める。緊張や不安が薄れた今はただ嬉しかった。


「あっちゃんキスうまい………」


「え?」


そうして唇を離してすぐに奈々は照れたように動揺発言をした。


「あっちゃんとするともっとしたいって思っちゃう。………あっちゃんやっぱりモテてた?」


「え、全くだよ?私がモテてたら世の中がおかしくなるよ」


「でも、私は好きだもん……」


「私も奈々大好きだよ?私より奈々の方が取られそうで怖いよ。奈々可愛くていい子だからさ~。私の事好きでいてくれてありがとね奈々」


キスとか超久しぶりなくらい恋愛から遠退いていたただデカイだけの私をこんなに好きでいてくれるのは奈々くらいだろう。本当にありがたく思っていたら奈々は私にキスをすると首筋に顔を埋めた。


「あっちゃんの方が可愛いよ。いつもいい匂いだし、優しいし………本当に好き」


「うん…。ありがと」


「…………あっちゃん、付いて行ったりしちゃダメだからね?」


「ん?なにが?」


可愛いのは奈々だぜ、と真面目に思っていたら奈々はよく分からない事を言ってきた。だが私は次の言葉を聞いて笑った。


「ナンパとかされても行っちゃダメだからね?本当にあっちゃんの事好きなの私だから……私だけだからね?」


顔を上げて言ってきた奈々は本当に心配しているようだったがそんな心配は無用だった。


「行く訳ないじゃん。私そんな軽そうに見える?」


「そうじゃないけど、可愛いいし、優しいから絶体ナンパされるだろうなって……」


「それは奈々じゃんよ。奈々こそほいほい付いてっちゃダメだからね?奈々は本当に気を付けないとダメ絶対。危な過ぎる本当に。世の中の男性と言うのは…」


「私はあっちゃんにしか付いていかないから平気だもん。あっちゃんとしか何かしたいなんて思わないし」


遮って即答する奈々はまぁ真面目に答えてくるから私は嬉しくて笑った。素直にとっても嬉しいが何かってなによおいおい。私はもう自然にからかっていた。


「え~?何かってなによ?奈々エロい事ばっかり考えてんでしょ?おいおい~」


「え、違うよ?そうじゃなくて私は…」


「じゃあ、何にもなくていいの?」


「それはやだけど、そういうんじゃないよ私」


私のからかいに奈々は意外にも向きになっていた。


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