第21話




考えて話して考えて……、私はもうダメだった。

ダメと言うか挽回できそうになかった。

奈々と会話がいつもみたいに弾まない。

笑っている奈々が段々気を使って笑っているように見えてしまって笑いながら泣きそうだった。



これは、かなりやらかしているだろう…。

抱き締めて手も繋げたのにぬか喜びしていた私は愚かなバカだった。好きって言ってくれたけど、照れてると思ったけど、あれも私の素敵な勘違いだよ…。合わせて適当に好きって言う時もあるし…。

大体スキンシップのやり方分かってないんだからこうなってもおかしくないんだけど自分のバカさに死にたい。空気を正確に読めなかった自分を殺したかった。

これじゃヤりたいだけの男と一緒じゃん私………。そういうやつと関わった時のウザさと心労って群を抜くの自分が一番分かってるはずなのに……勝手に勘違いしていて申し訳ないよ。


「あ~、美味しかったね?」


「うん…。美味しかったね」


そうして居酒屋から出ても奈々はまだ笑ってくれる。

それに傷つきながら私はもう解散しようとした。

奈々は私といるの嫌だろうし、私は笑顔で言った。



「奈々今日はもう解散しよっか?時間もちょっと遅いし」


「え、でも、ダーツは行かないの?」


「ダーツはまた今度でもいんじゃない?いつでも行けるし終電混むから」


「……うん。楽しみだったけどそうだね……」


私は無難に理由を言ったのに奈々は少し残念そうに笑った。え、…………これはなに?私は反応に困った。

今までの様子とは違って残念そうに笑われて奈々がよく分からなくなる。

行きたかったのかな?でも、奈々はなんか暗いし私の一人喋りだったんだけど…………。


………分からないぃぃ。分からないけどもう自分のせいで打ちのめされてる私は今更やっぱり行こうとは言えなかった。



「あっちゃん?」


「ん?」


駅に向かって歩いていたら奈々は話しかけてきた。


「今日のダーツさ、次回飲んだ後とかでいいからその時行かない……?」


「あぁ、うん。いいよ…。次行こ?」


「うん…」


やっぱり行きたそうな奈々の言葉に今からでもダーツに行こうか言うべきなのか悩む。奈々は暗笑いなんだけどなんなのこれ…。どうでたらいいの…?

悩みながら歩いて信号で足を止める。奈々は笑ってまた話しかけてきた。


「あっちゃん今日楽しかったね?ライブも久々だったし」


「うん。そうだね。ライブが本当最高だった」


全然話しかけてこなかったのに驚きながらも笑って答える。やっぱり気を使われてる?笑う奈々が読めなくて話してて楽しいなんて思えないが笑顔は崩さない。



「うん。ライブよかったよね?るるも今日は頑張っててすごい良かったし…」


「え、奈々?大丈夫?」



信号待ちで立っていただけなのに奈々は少しふらついたからすぐに支えてあげた。いきなりの事態に私はとても驚いた。今日はお酒もそんなに飲んでいないし、奈々はお酒が強いから相当飲まないとふらつかないのに。


「どうしたの?」


「あ、ごめん。大丈夫だよ。本当にごめんね?ちょっとお酒回ったのかも」


「え、でも…」


「大丈夫だよ。早く行こう?」


そんなに飲んでないじゃんと言おうとしたのに笑って歩き出してしまう。でも、先を歩く奈々を見て違和感に気付いた。ずっと隣を歩いていたから気付かなかったけど奈々は少しよたついている。会った時から違和感に気付いてたのになんで気付かなかったんだろうと思いながら私は急いで奈々の腰に腕を回して支えるように歩いた。


「奈々具合悪いの?今日ずっと体調悪かった?」


「え?別にそんなんじゃないよ。ただ、ちょっと…」


「もう、嘘つかないの。もう家まで送ってあげるから」


「………うん。ごめん……」


今日の違和感の真相はこれだった。奈々は申し訳なさそうにしゅんとしてしまったが私の深読みのせいだよ。早く気付かなかった自分が情けない。私は信号を渡りきると道路を見てタクシーを止めた。

そして奈々と一緒にタクシーに乗ると奈々の家に向かった。ちょっと途中でコンビニに寄っていろいろ買い込んでから奈々のマンションに着くと私は奈々を支えながら部屋まで連れて行った。


奈々はその間申し訳なさそうな顔をするだけで何も言わなかったが部屋に着いて奈々をベッドに座らせてやると奈々は小さく謝ってきた。


「ごめんね、あっちゃん……」


「別にいいよ?でも、なんで言わなかったの?今日具合悪かったら断って良かったのに」


「うん…………。ごめん…………」


謝るだけの奈々に罪悪感が湧く。気付かなかった私も私だし、奈々にはずっと気を使わせていて本当に申し訳なかった。付き合っているのに何にもそれらしい事ができていない。こんなに気を使われて恋人の意味はあるの?自分を情けなく思いながら私は奈々にはっきり言っといた。


「次からは本当に言ってよ?本当に心配するから」


「うん……迷惑かけてごめんね……」


「別に迷惑とか思ってないからとりあえず横になってな?」


「うん………」


自分のダメさを痛感しながら私はさっき買ってきた物を整理する。食べ物は冷蔵庫に入れて風邪薬は出して飲み物も出しておく。それから奈々の体調も聞いておかないと。


「あっちゃん…」


「ん?」


「ごめんね本当に………」


話しかけてきた奈々は涙目でまた罪悪感が膨らむ。

私はベッドに腰かけて軽く手を握った。今はもっと奈々を気にかけてあげないと。


「別にいいよ。怒ってないし。私には言いにくかった?」


「ううん。……今日会えるのすごい楽しみにしてたから、断りたくなくて言わなかった………」


奈々の言わなかった理由は単純で私は苦笑いしてしまった。付き合ってから何も言わないのは本当に私のせいだ。


「なんでよ?また予定立てたら良かったじゃん」


「でも、今日逃したらまた会えるまで長いし、次の予定決まってないから………これでずっと会えなかったらやだから」


「会えないはずないじゃん。奈々会いたかったら会いたいって言っていいんだよ?」


「………うん…」


これも変なやつ引いて変に癖みたいになったからだよね。私は自ずとそう察しながら奈々を安心させるように笑いかけた。奈々の言えないところは私がカバーして言えるようにしていけばいい。私は奈々の気持ちを聞きたいしそこまで気を使わせたくない。


「私もさ、奈々との時間いっぱい欲しいし、奈々が会いたいって思ってくれるならもっと会いたいから言って?奈々いつも何も言わないから私結構嫌な思いさせてるでしょ?」


きっと会いたいなんてずっと思ってたはずだ。じゃなかったら具合悪いのに会いになんて来ない。もうそこまで分かるのに奈々は泣きそうになりながら否定した。


「ううん。私嫌じゃないよ。私はあっちゃんと付き合えないと思ってたから付き合ってるだけでいいもん。いつもあっちゃんが誘ってくれるから会う時間あるのにもっと会いたいって思うのは私の我が儘だし」


「でも、私はその我が儘も聞きたいんだけど?奈々が好きだから奈々に我慢なんかさせたくないもん。奈々は私が奈々に対してなんか我慢してたらやじゃないの?」


「やだ……」


「じゃあ、言っていいんだよ?私達付き合ってるんだからそこら辺も話していこうよ?」


「……うん」


関係を築いていくにはこうして話していく必要がある。奈々は好きと言う感情だけで私と一緒にいてくれるのにこの関係を終わらせたくない。奈々は握っていた手を強く握りながら小さな声で言った。


「……私、あっちゃんがやじゃなかったら今よりもっと会いたい。寂しいからあっちゃんともっといたい」


「うん。いいよ。じゃあ、もっと一緒にいよう?」


私は初めて気を使わずに言ってくれたのが嬉しくて手を握り返しながら笑った。私より空気を読むのが長けてる奈々が言ってくれるのがとても嬉しかった。


「うん。あと、あと……もっと手繋いだり、くっついたりしたい。一緒にいれて嬉しいけど、今のままだと距離があるみたいでやだ」


「うん。じゃあ、それももっとしよっか?奈々と私は付き合ってるんだし」


「………うん。あっちゃんありがとう……」


「それはこっちの台詞だよ。奈々の我が儘聞けて嬉しい。言ってくれてありがとね奈々」


これだけ聞くのに一ヶ月以上かかってしまった。こんなに時間をかけてしまったのが申し訳なく思うが、これからはもっと頑張らないと。奈々が我慢して頑張ってたんだから次は私の番だ。



「あっちゃん」


「ん?」


奈々は私を呼び掛けながら目に溜まっていた涙を拭って少し笑った。


「大好き……」


唐突な言葉に喜びを感じてはっとする。この前もそうだったけど奈々はこれだけはちゃんと言ってくれる。付き合う前も好意はちゃんと口にしてくれていた。もう気を使わせて大事な事ばかり言わせているなんてあり得ない。こんないい人大切にしないと絶対後悔する。私は恋愛で感じた事ない気持ちを感じた。


「私も大好き」


「うん。嬉しい……」


「私も奈々に好かれてて嬉しいよ」


「うん……」


嬉しそうな顔をする奈々に喜びを感じる。

好きって言い合うのも冷めていたのに奈々と言うのはなんだか違う。


「あ、奈々それより熱計ろう?あと今身体とか痛い?」


私は新たな気持ちを感じながらも奈々の身体を気にかけた。今はいい感じだけど奈々の体調の方が大事だ。私は奈々に聞きながらちょっと汗を拭いたりして気遣った。熱があって節々が痛い奈々はたぶん風邪だろうが何だか心配で私はその日泊まる事にした。薬を飲んで安静にしてれば大丈夫だからと奈々は遠慮したが辛そうだから押しきったのに奈々は寝る時まで遠慮していた。


「あっちゃん」


「ん?」


「私、ベッドの下で寝るからあっちゃんは」


「いや、ダメです。このままでいいよ。私体力は有り余るくらいあるから風邪とか引かないし奈々心配だから隣で寝かせて?」


「……うん。…分かった」


奈々は何も言わないから尚更心配なので一緒に横になったまま動く気はない。

今も辛そうなのに私を気遣ってくるし、奈々にはもう少し自分を気遣ってほしいものだ。


「奈々なんかあったらすぐ言ってね?」


「うん。ごめんねあっちゃん」


「全然」


謙虚な奈々に笑いながら私は奈々の方に身体を向けたまま奈々の首に触れた。

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