第46話
「……私は……」
奈々はなんだか迷っているようだった。
きっとまた自分の意見を飲み込もうとしている。私は咄嗟にキスをした。ここで強引にでも聞き出さないと奈々は隠す。何度かキスをして次第にキスに応えてくれた奈々にまた聞いた。
「奈々やだ?」
「やじゃない……。やじゃないし、嬉しくて…困る」
奈々は困った顔をして言ってくれたがまだ思い詰めたようにも見える。私はもう一度聞こうとしたら次は奈々からキスをされた。そして奈々は唇を離すと顔をしかめて目を逸らした。
「流されちゃうからやめて……?私あっちゃんの事本当に好きだから嬉しくなって…」
「本心でしょ?奈々はキスとかセックスとかしたいって思ってくれてたじゃん。流されたんじゃなくて本当なんでしょ?」
また隠そうとする奈々の気持ちは分かっている。以前言ってくれたし、態度からも伝わる。本当に好きだからそこまで奈々を理解できていないはずがない。奈々は少し黙ってから答えた。
「…………うん。そうだよ。本当だよ」
「じゃあ、なんでそんな事言うの?本当は距離取ったりするのも嫌なくせになんで言わないの?」
「………だって、別れたくないから………」
奈々はやっと隠すのをやめた。
中々言わないのは私のせいだった。
私から顔を逸らす奈々は私に顔を見せないように手で覆った。
「私、本当に好きだから別れるかもしれない要素は失くしておきたいの。私はあっちゃんとずっと付き合ってたいからめんどくさいとか鬱陶しいって思われたくない。嫌な態度も、素っ気なくもされたくない……前は、よくそうされてたから優しくされるのが怖くなって…私はよく出張もあるし、あっちゃんがいつ気が変わってもおかしくないから…。でも、信用してない訳じゃなくて……。ごめんね、本当に…………」
「奈々、大丈夫だよ」
私は横から奈々を抱き締めた。
これは恋愛をどうやってきたかによる解釈の違いなのかなぁ、となんとなく思った。
まず奈々は恋愛に向いてる性格だ。寂しがりで誰かといたい、好きだから自分はいいって思うし合わないと思っても自分が我慢して一緒にいちゃう感じだと思う。それで分かっていても言わないし、絶対これって言動はまずしない。だからクズ引いても頑張ってどうにか好きでいてもらえるように今みたいに先を読んで努力していた。
これが対極の私だったらまず空気と顔色が読めないやつばっかで疲れるから一緒には長くいれないし一人が寂しくないので様子見してあぁ、やっぱダメだなと感じる要素が現れたら即切ってた。時間が無駄になるしそういう人と一緒にいると疲れるだけ。そして、疲れるだけなら一人の方がよっぽどマシになるから一人が好きになる。だから恋愛が難しくなるんだと思う。
ある程度人間関係を学べばどういう人なのかすぐ分かるようになるし、よく見せようとしても人間一緒にいると隠せないもんなのだ。
だが、奈々は私みたいにはならなくて毎回切らなかったんだろう。考えて不安になってるのはそれだ。しかも今回は相手が恋愛不適合の私だし、まず一人が楽な方で性欲に囚われてもなければ何か求めるタイプじゃないし何より冷めててイチャイチャしたりするのが苦手。
奈々は最初から分かっていたにしても、今までの経験と今までと違う私じゃ読めないからこうなっているのだろう。しかも奈々は謙虚で自尊心が低い方だし、言わばおとなしいタイプだ。クズ引いてたからなんか最悪な事が起きまくってたんだろうが、関わる人と言うのはしっかり選ばないと自分の人となりにこうやって影響する。
この子は選べる方の人間なのにとにかく私を気にしすぎているから。
「私奈々が思うより奈々の事好きだよ。奈々にベタ惚れだから何でもやりたくなっちゃうし好きでいてほしいからいつも頑張っちゃうし」
「……」
「私は性欲あんまりないけど奈々は特別だからキスもしたいしセックスもしたいって思ってるよ?奈々いつも嬉しそうにしてくれるし可愛いんだもん。それに好きって言ってくれるし。単純だよね?好きって言われたいから喜んでやってる。奈々が好きだからいっぱい好きって言われたいし、奈々には好きでいてほしいんだよずっと。ちょっと子供っぽいけどね」
恋愛は単純な話だ。
恋愛も人間関係だからいろんな要素が絡まってくるだけで結局は好きかどうか。
それをどうやって表して協力して続けていくか。
これが本当に今まで難しかったが奈々は応えてくれるはずだ。本当に好きだから。
「子供っぽくないよ。私もそうだもん。あっちゃんが好きだからいつも優先しちゃう……。いつも自分より考えてる」
奈々は私の背中に腕を回すとようやく私を見てくれた。
嬉しそうで、それでいて困ったような顔をする。
私はそんな奈々に笑いかけて軽くキスをした。
「そこは一緒なのに奈々は私に好かれてる自覚ないの?私すごい好きだから伝えてるつもりなんだけど伝わんない?」
「伝わってるよ?好かれてる自覚はあるけど………、絶対私の方が好きだから……」
困ったように言われて私は奈々らしいな思いながら笑いかけた。この人は逃しちゃいけない人だからもっと表現しよう。私は自分だけが良い思いしたいんじゃないもの。
「つまり全然伝わってないみたいだから私これからもっと積極的に行くけどいい?あ、もちろん嫌な時は断っていいけど」
「私ちゃんと伝わってるってば」
「もっと伝わってたら奈々を悩ませたりしなかったよ」
「それは、私が……」
言わせないようにキスをする。そして逃げられないように抱き締めながら間近で見つめた。もうここからは本音だけ聞きたいからいつもとは違う方法で行く。ちょっと緊張するけど。
「奈々は積極的なのやだ?」
目と鼻の先にいる奈々は私から目を逸らさなかった。
「ううん。あっちゃんなら嬉しい」
「よかった。もっとキスしていい?いっぱいキスしたい」
「うん。……あっちゃんなら勝手にしていいよ?」
「ありがと」
照れている奈々にまたキスをする。何度かキスをしてキスを深くしていくと奈々は私の首に腕を回してきた。奈々も積極的にしてくれるようになってから私は改めて言った。
「好きだよ」
「私も」
「うん。もっとしていい?触りたい」
「うん…」
奈々は笑って受け入れてくれて私はまたキスをして奈々に触れた。そして今まで以上に気持ちを伝えながら触れた。だからなのか一番自然にできたし、なんだかお互いにいい意味で遠慮が失くなった気がする。
お互いに空気をやたら気にして遠慮しなくなったのはとてもいい変化だった。
「あっちゃん土曜の夜は優馬のとこ行く前になんか美味しいもの食べ行こう?あとダーツも」
「うん、いいじゃん。どこ行く?」
「ん~、どこがいいかなぁ……」
一緒に風呂に入りながら奈々は嬉しそうに言った。
私は一緒に風呂に入っているのに落ち着いていた。奈々は私の膝に座っているのに笑顔でいられている。
あまりに気を使って遠慮をするのは良くないと知ったからだろうか。奈々は私に体を向けて私を見てきた。
「またエスニックは?」
「あ、あり。いいじゃん。エスニックにしよっか?」
「うん。またワイン飲みたい」
「よし!じゃあ、前んとこ私が予約しとく。奈々また飲み過ぎて泣かないでよ?」
あの泣いていた奈々を思い出しながら笑っていると奈々はむきになって言った。
「あれは別れたばっかりだったしもう泣かないよ?今はあっちゃんいて幸せだし」
「じゃあ、よかった。私も幸せだし安心だね」
「……またへらへらしてたらぶん殴るからね?あっちゃん私以外にすぐへらへらする。あれ本当ムカつく。次は絶対殴る」
「え…そんな怒んないでよ。ごめんね?悪気はなかったの」
奈々は普通にむすっとしていた。
奈々が怒ると言いのめされてしまうので怖いけど気に入らないって感じがちょっと可愛い。大人な方なのになぁと思っていたら奈々はまだまだプンプンしていた。
「嬉しそうにデレデレして喜んでたくせに…」
「だって可愛いとか言われたら素直に嬉しいじゃん…?相手はありえない美人とかだよ……?これから気を付けるけどさ」
「じゃあ、前に私が可愛いとかかっこいいって言ったら困ってたのはなに?あっちゃん前困ってたよね?」
「…あぁ、あれは……その、嬉しかったけど何て言ったらいいか分からなかったって言うか……」
「あのジュナちゃんって人とるるには見るからに嬉しそうに喜んでたのにね」
「…うん………。ごめんね?」
奈々に痛い所を掘り返される。あれはダーツの帰りだったっけ?……あれもバレてたのかよ……え、ここまできたら奈々はシャーマンかイタコなのでは?私の生き霊から聞いたろ?霊能力者怖い……。
もう弁解とかできなくなっていた私は奈々に言われる前にとにかく誠意を見せた。
「でも、奈々が一番好きだよ?いつもちっちゃくて可愛いって思ってるし、優しいし、奈々がいないとやだし…」
「都合良い事ばっかり言う……」
「でも、本当だよ?」
「あっそう…………」
「……うん……」
奈々は投げやりに言うと私から顔を逸らした。
うわぁ……どうしよう…。もう祈るしかなくない?私は非常に困りながらも奈々の顔を覗き込んだ。祈るより何か行動起こさないとダメよこういう時は。
「奈々ごめんね?もうそういうのしないから許してよ?」
「…もう許してるよ」
「え?そうなの?」
思いもよらない返事をしながら奈々は不満そうに私を見た。
「あっちゃんいつも嬉しそうだからいっかって思ってるけど……彼女としてはムカつくって話。……あっちゃんは浮気とかしない人だし、信用できるけど………いい気分じゃない」
「……うん。ごめんね。奈々?」
呼び掛けてキスをする。やっぱり大人だけど奈々も単純なとこがある。そこが可愛いなと感じながら私は笑って何度かキスをした。
「好き。これからは気を引き締めるね?」
「………もうやだ」
「え?なにが?」
奈々は困り顔でふて腐れたように言った。
「こういう事されると気にしてたのがどうでもよくなる。私あっちゃんに弱いからすぐ嬉しくなるし……こうやって誤魔化しても」
「誤魔化してないよ?本当だよ?」
「でも……」
奈々はまだまだいろいろ言ってきそうだったから私は遮るようにキスをしてやった。
これはそんなんじゃない。
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