第15話


お目当ての焼き鳥を食べながら酒を飲んで下らない冗談を言いながらバケツと話すのは楽しかった。

楽しくてついつい酒を飲み過ぎて店を出てからセクブラに行った時にはもう出来上がっていた。


「バケツおまえ私の酒飲んでからじゃねぇと帰さねぇからな?分かってんのか?」


「はぁ?!だから私はエルソのために帰んだって言ってんだろ!どんだけ楽しみに生きてきたと思ってんだよ!」


カウンターに座りながらいつまでもやる気を見せないバケツと飲みながら話していたら優馬がやってきた。


「ねぇ、ちょっと!そこのブス?うるさいよ?」


「あぁ?!てか、ちょっと聞いて優馬」


「え、なに?」


久しぶりに優馬に会って私は少し落ち着きを取り戻したがバケツのやる気のなさは許せない。

私は告げ口をした。


「こいつ今日終電で帰るとか抜かしてやる気ないんだけど。明日Kポッポとハイタッチするからとか言いやがってさ」


「Kポッポじゃねぇ!!エルソだよ!!」


大体声がでかいバケツは何時もより大きな声を出してきたが私はそんな事では動じない。


「うるせぇ!どっちも一緒だよボケ!てか、てめぇさっきから全然飲んでねぇな?何しに来たんだよ今日!冷やかしかバケツ?!」


「はぁ?!あんたみたいに肩張るくらいしか能がないラガーマンに言われたくねぇんだよ!ていうか、私の方が飲んでるから!」


「あぁ?」


「ねぇ、うるさいよ?声でかいから」


思わず立ち上がりそうになった私は優馬に言われてハッとする。そうだ、私達声がでかい……。飲むとついついでかくなってしまうのを忘れていて素直に謝った。


「あ、ごめん…。…気を付けます。ごめんねうるさくて」


「うん、そうして?ていうか久々じゃん二人。今日終電とか珍しいね?」


「明日は朝からエルソのために並ぶからね~。いいでしょ優馬~。優馬も行く?」


嬉しそうなバケツに私は鼻で笑った。


「は、どうでもいいわKポッポは」


「あ?なんだ朝海?やんのか?エルソだって言ってんだろ」


「は?二歩下がれバケツ。タックルしてやるよ」


「それは事件になるからやめろ。てか、もう歌おう?歌って飲もう?時間ないよ終電まで」


腕時計を確認するバケツは電目をいじりながら曲を入れている。私も携帯で時間を確認するともう十一時で時間が迫っていた。


「全然時間ねぇじゃんバケツ。早く言えよ」


「今言っただろうが。もう飲み歌入れたから朝海飲めないとか言ったら蹴っ飛ばすからな」


「はぁ?私は勿体無いから飲むに決まってんだろ!てめぇとは…」


「はいはい、ほらマイクあげるから。歌と飲むのに集中」


優馬にマイクを渡されてバケツがいれた曲が流れる。こいつ絶対潰してやろう。適当に歌える人を募ってマイクを流しながら飲んで歌うのは皆頑張っていた。

勿論私も頑張りながら歌って飲み続けていたらバケツはトイレに行きやがった。そしてあいつはトイレに引きこもりやがった。


「おいー!おまえいつまで入ってんだよ?」


トイレに入って中々出てこないバケツは全然帰ってこないから寝ている可能性があるのでドアを壊す勢いで叩いた。が、反応がない。

あいつトイレを占拠するなんてなんて罪深いやつなんだよ…。やる気ないしあり得ない。


「おい!バケツ!早く出てこい!」


ドンドン叩いても何の反応も帰ってこなくてイライラが募る。もうすぐ終電なのにここに泊まんのかよアイツは。立ってるだけでふらふらする私は壁に手をつきながらまたドンドン叩いた。


「おい!!バケツ寝てんのか?!おい!!」


叩いて呼んでも全然出てきそうな気配がない。というか反応がない。もうダメだなと思った私は大きくため息をついていたら声をかけられた。




「あっちゃん、大丈夫?」


「ん?あっ奈々?今日来てたんだ?さっき来たの?」


私のそばに寄って来たのは奈々だった。いたのに気づかなかった私に奈々は頷いた。


「ううん。ちょっと前からいたよ。あっちゃんもうふらふらじゃん。大丈夫?」


「あぁ、うん、平気。私はまだ飲む予定だから。バケツが全然出てこねぇんだよ」


「じゃあ、優馬に頼んだら?あっちゃん座った方がいいよ。行こう?」


「うーん……。まぁ、そっちの方がいっか」


ここで何分か粘っていたがもう無駄だろう。私は素直に奈々に従って席に戻る事にした。席に戻ってすぐに優馬にバケツを頼むと優馬はダルそうな顔をしてトイレに向かった。これで優馬がどうにかしてくれるだろう。そうして席に座って一息ついていたら奈々は隣で心配したように言った。


「あっちゃん大丈夫?水飲む?」


「そんなんいいよ。いらねぇから大丈夫。まだ飲み足りねぇから」


「じゃあ、……私一緒に飲むよ」


「え、いいの?奈々いっつも優しいね?ありがとう」


奈々が一緒に飲んでくれるなら好都合だった。アイツはたぶんまだまだ帰ってこない。私は酒を飲み干してまた酒を作ってもらってから奈々と乾杯した。


「奈々、私ね、あー、……あれだわ、あの、るるさんについて調べたんだけどあの子はいいね本当に!」


にわかを卒業した私はいち早く奈々に伝えた。あんだけ調べたんだし言わないと意味がない。


「なんかすっごいストイックだよね?尊敬するあの努力の仕方は!ほぼ毎日休みなく筋トレとかダンスとかやってるし、ボルダリングとかもやってたし」


「うん。るるはストイックだから。頑張り方がすごいよね」


「うんうん。私も見習って泳ぐの頑張ってるよ。ていうかあの子って彼氏とかいないの?他のメンバーとかも」


奈々の相手候補のるるさんについては情報が欲しいところ。奈々は初期から追っているから何かを知っていそうだから確認したい。奈々は困ったように言った。


「え?……それは、どうなんだろう。分かんないや」


「あぁ、そっかぁ。まぁ、アイドルだしなぁ……。奈々は次はいつライブ行くの?」


「えっと、まだ決まってないんだ。次のライブがそもそもまだ決まってなくて…」


「あぁ、そうなんだ?残念だね。また行きたかったのにな~。早く決まるといいね?」


「うん…」


ライブよりも彼氏問題が分からなくて残念だ。まぁ、皆可愛いからいてもおかしくないんだけどるるさんは奈々とくっつくべきだよ。あれは恋だったもん。

でも、ライブがないんじゃ接触できないし話が進まない。残念に思っていたら奈々が話しかけてきた。


「…あのさ、あっちゃん」


「ん?」


「あっちゃんがよかったらね?あっちゃんの予定空いてる時にうちに来ない?ボニーピンクのライブDVDあるし、CDもあるから……」


「え、いいの?!いつでも行く!私泳ぐくらいしか取り柄なくて常に暇だから奈々が空いてる時でいいよ」


「本当?よかった。じゃあ…」


突然の誘いはチャンスでしかなかった。これで私はにわかを完全に脱出できる。奈々に追い付けるのだ。

しかしそこで私の肩に腕を回してきたやつがいた。


「おい!朝海!!もう会計して帰るぞ!」


ようやく出てきたバケツは呂律がちょっと怪しかった。こいつまじでいつまでトイレにいたんだよ。私は呆れていた。


「はぁ?!おめぇいつまでトイレ入ってんだよ!」


「さっきまでだよ!それより早く会計して私のためにタクシー捕まえろ。もう歩けねぇ!!」


「はぁ?まじウザいんだけど。投げるぞ?私まだ飲み足りねぇのにさぁ……。ごめん!ちょっと会計して!」


本当に仕方ないので会計してもらっている僅かな時間に私は奈々に一応謝っておいた。


「奈々ごめんね。バケツタクシーにぶちこんで帰るね。もう終電だし、奈々も危ないから早く帰りなね?」


「うん……。あっちゃん明日なんか予定あるの?」


「え、私はないよ。バケツがなんかよく分かんねぇやつらとハイタッチするから帰るんだって。本当どうでもいいよね」


名前は忘れてしまったがハイタッチとかどうでもいいがな。帰ったらハイボールをがぶ飲みしてから寝よう。私はふらふらなバケツに軽蔑の目を向けていたら奈々に腕を捕まれた。


「じゃあさ、今日うちに泊まりに来ない?」


「え?でも、奈々予定あんじゃないの?」


「それは、大丈夫になったから……。だから、あっちゃんが良かったら来ない?嫌だったらいいけど…」


「え、いいんだったら行きたい。でも、本当にいいの?」


バケツのせいで話が途中だったが行けるのはとても嬉しかった。でも、奈々は元々予定があったから少し心配になる。奈々は控えめに笑った。


「全然大丈夫だよ。あっちゃんにCD渡したかったし」


「じゃあ、行く!奈々の家どこだったっけ?タクシーで行こう?私払うから」


「え、えっと✕✕の近くだよ」


「あぁ、そうだったね思い出した。ちょっとコンビニ寄ってから行こうぜ?奈々まだ飲める?」


「う、うん。でも、あっちゃん結構もう飲んでない?」


「え、私はまだまだだよ~。じゃあ、私外で待ってるね?」


飲み足りなかったし今日はラッキーだ。

私は会計を済ますとふらふらでウザいバケツをタクシーにぶちこんだ。こいつはもう次会ったら潰すから今日はこれでいい。それより奈々と飲めるとかまじハッピーだった。私はうきうきしながらタクシーを捕まえると外に出てきた奈々と奈々の家に向かった。


途中コンビニに寄ってから奈々のマンションに到着すると部屋にあがる。奈々の部屋はとても整理整頓されていて無駄な物がなかった。なんかすっごい綺麗なので恐縮しながらテーブルの近くに座ろうとしたら奈々に誘導された。


「あっちゃんここ座って?」


「ん、うん、分かった。」


テレビの正面に座らされて私は荷物を置く。アイドル趣味とは思えない部屋だなと思っていたら奈々はいつもみたいに隣に座ってきた。


「あっちゃんジュースも一緒に飲まないとダメだからね?どれ飲みたい?」


テーブルにさっき買ってきた物を出す奈々はジュースを並べるがジュースより今は酒だった。


「え、いらねぇ。奈々だけ飲みな?私はハイボール一筋でいく」


「え?でも、あっちゃん飲みすぎだからジュースか水飲んだ方がいいよ?さっきふらふらしてたじゃん」


「デブだから体重くてふらふらしてたの。そんな飲んでねぇから大丈夫だよ。私は絶対吐かねぇから」


私はさっさとハイボールを開けて一口飲んだ。バケツのせいで全然飲めてないし私は相当飲まないと吐かないので全く問題ない。ハイボールうまいなと思ってもう一口飲もうとしたら奈々にハイボールの缶を取られてしまった。


「あっちゃん心配だからなんかチェイサー飲まないとダメ」


「はぁ~?!何でだ…!……ごめん、大きい声出して…」


ついバケツを相手にするみたいに怒鳴りそうになってはっとする。バケツならまだしも相手は奈々なのになにしてんの私。奈々は心配してたのに私がでかい声を出したからちょっと驚いてたし完全に引かせちゃったよ……。


「ううん。平気だよ。あっちゃんどれ飲む?」


それなのに優しく聞いてくる奈々に私は死にそうになりながら紅茶を貰った。そして紅茶を飲んで酔いが少し覚めた私は内心焦っていた。


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