第39話


「ん?なに?」


「私、あの、抱かれる方しかした事ないけど、あっちゃんもそうだと思うから……あの、私……するよ?…たぶん下手だと思うけど頑張るから……」


「…………え」


私は瞬時に悟った。

奈々は恥ずかしくて困っていて最後には下を向いてしまったが私がまた気を使わせているようだ。

私のために言ってくれただろうが奈々にこれ以上気を使わせるなんてダメじゃない?!ここはいつもダメな私が頑張らないと!自信ないけど。私は奈々の手をしっかり握って言った。


「でも、私がしたい。奈々の気持ちは嬉しいけどダメ?」


「…ううん。あっちゃんが、そう言うなら……」


「じゃあ、それで、……その…よろしくお願いします」


「……うん」


これでやる手はずは全て整った。あとは空気と顔色を正確に読んでやるだけ。もうひよってなんていられないよ私。私は気合いを入れてとりあえず奈々とベッドに移動する。そして奈々と一緒にベッドに座ると私は緊張しながらも奈々に言った。


「じゃあ、あの、………服、脱がしていい?」


「うん…」


奈々は恥ずかしそうにしているが嫌そうな感じはない。よし、まずは服を取っ払わないとやる云々ではないので私はしっとりと手汗をかいた手で奈々のシャツのボタンを外した。これだけなのに私はもうど緊張していた。

ここで引かせるなんてあってはならない。私は奈々に嫌な思いは絶対させてはならぬのよ。命運がかかってるんだから!


私は緊張のあまり手が若干震えながら奈々を下着だけにすると恥ずかしそうな奈々を見ていられなくて顔を逸らした。情けない私は今になってなんだか悪い気がしてしまったのだ。


「奈々…あのさ、私も脱ぐからちょっと待ってて」


「うん…」


そうしてとりあえず体ごと横を向いて服を脱ぐ。

まぁ、服を脱ぐまでは順調だ。緊張でもはや真顔だけど大丈夫。就活と一緒。真面目にやれば大丈夫。私は下着になると奈々に向き直った。奈々と目が合うと緊張が増すが私は意を決して言った。


「ごめんね待たせて」


「ううん…」


「えっと、……じゃあ、あの、キスしていい?」


「うん…」


雰囲気もムードもないが私は緊張しながらも顔を寄せてキスをする。何度か啄んで私は奈々の腰に恐る恐る腕を回した。


「奈々倒すよ?」


「うん…」


ゆっくり慎重に腕にしっかり力をいれながら奈々を押し倒す。奈々は横になってからも恥ずかしそうだがここでびびって引いてはならぬ。私が内心ヤバイのも感じさせてはダメ。


「じゃあ、あの、………触るね?」


「うん…」


私が奈々を見ると奈々は小さく頷いた。

私はしっかりそれを見てから手汗をかいた手で奈々のお腹を優しく触りながら下着越しに胸を触ってみると奈々は少し体をびくつかせたので驚いてすぐに手を離した。その反応が怖すぎて私は不安しか感じなかった。


「ごめん。やだった?」


な、なんて怖いのこれ…。すぐ謝った私はパニックだった。自分的には優しく不快に思わないような触り方をしたけど奈々からしたら嫌なやつだったかもしれない。どうしようと初っぱなから焦っていたら奈々は小さく首を横に振った。


「ううん。平気だよ。動いてごめんね……」


「いや、それならいいけど…私もごめんね?」


「ううん……」


心底安心しても緊張はなくならない。

あぁ……マジ怖い。緊張感が半端ない。女性に触るのってこんな怖いの?反応に不安しかないよ。水飲みたい……。

心で弱音を吐きながら次はどこを触るべきか真顔で悩んでいたら奈々は私の迷いのある手を握ってきた。


「あっちゃん緊張してる?」


そうして私の緊張は早くも読まれてしまった。またやっちゃったなと思うも嘘もつけないから正直に答えよう。こんなところで嘘はつけない。


「うん…ごめん。キモいよね……」


「キモくないよ。なんか、そんなに緊張されると私も緊張しちゃうから……そんなに緊張しないで?私、本当にできるだけで嬉しいから……。だから、大丈夫だよ。私も上手くないし、上手くできなくてもまたやったらいいじゃんってあっちゃん言ってたじゃん。私はあっちゃんとなら何回でもしたいし……」


奈々の励ましにそうだったと思い出して自分が情けなくなる。奈々には本当にいつも心遣いをしてもらってばかりだ。


「うん。ごめん。そうだったね。自分で言ったくせに忘れてた。本当ダメだね私。情けないわ」


「情けなくないよ。あっちゃんは優しいよ?こんなに優しく触られるの初めてだもん。私に気を使ってくれてるからでしょ?」


「うん。奈々は好きだもん。絶対嫌な思いとかさせたくないし…」


触り方一つでそこまでばれている。動きだけでも気持ちはこうやって現れるから。

きっともっといろいろばれていると思うが奈々は嬉しそうに笑ってキスをしてきた。


「私あっちゃんのそういうとこ大好きだよ。ちょっともどかしい時もあるけどいつも嬉しい」


「うん。ありがと奈々」


奈々の優しさに救われて私はようやく笑えた。

なんだかんだ言って結局気持ちなんだ。

奈々のおかげで私の緊張は薄れたようだ。


「奈々のおかげで安心した」


「よかった。あっちゃんすごい真面目な顔して緊張してるから私も安心した」


「奈々って私の事何でも分かってるよね。もう、恥ずかしいわ」


「え、そんなに分からないよ?私はあっちゃんが好きだからよく見てるだけだし」


きっとそれは本心だろうが奈々からの視線はあまり感じない。私が気づいていないだけかもしれないが奈々にはこれから先隠し事なんかできないだろう。察する力は筋金入りのエスパーだもの。言わなくても私の気持ちなんか今みたいに筒抜けだろう。恥ずかしぃ……。


「じゃあ、私も奈々の事よく見とく。それで分かるようになるわ」


「あんまり見られると照れるよ。それにあっちゃん私の事分かってるじゃん……」


「え?私奈々が照れてるのくらいしか分かんないよ?」


「それだけ分かってればいいよ。あんまり思ってる事とかバレてたら恥ずかしいもん…」


なんか照れてしまった奈々は可愛いがそれだけじゃダメじゃないか?しかし、奈々が恥ずかしいのであれば私は頷くしかないのだ。


「うん。分かった」


「……うん。あんまりガン見とかしないでね?照れるから」


「うん。分かった」


私は頷きながらそんなにガン見とかしてたかなと振り返ってみたがどう考えてもガン見してないと思うんだけど……。だが奈々に言われてしまっては仕方ないのでこそこそチラチラ見よう。きっとこそこそ見てもバレてそうだけどバレないように。

心にそう誓っていたら奈々は握っていた私の手を自分の胸に乗せた。


「あっちゃんそれより早くしよう?……早くしたい……」


「あ、うん。しよっか」


重要な任務を忘れていた私はすぐに頭を切り替えた。もうさっきまでの死にそうな緊張感はない。奈々のおかげで気持ちをしっかり持てている。私は今一度キスをすると奈々の体に触れた。


「好きだよ奈々」


「私も好き」


奈々はさっきよりも嬉しそうに、それでいて少し恥ずかしそうに受け入れてくれた。










そうして初めてのセックスは気持ちを持ち直したが最初からてんやわんやだった。奈々は本当に可愛かったけど内心波浪警報だった私は最初から奈々にずっとリードされていた。本当にチキンで申し訳なかったけど最初からずっと気を使わせていたから気持ちよさとかは二の次だったかもしれない。

それでも純粋に触れ合えるのは嬉しかったし奈々も喜んでくれたから良しとする。

私達らしい初めてだったけどとても満たされる時間になったのだ。


終わってからベッドで休んでいたら奈々は笑いながら話しかけてきた。


「あっちゃん優しすぎじゃない?」


「え、ごめん。やだった?」


私は奈々には優しくしかできないので本当に優しく丁寧を心がけてしていたから言われてしまったようだ。

奈々は嬉しそうだった。


「やじゃないけどずっと優しいから。私別に強引にしても平気だよ?」


「えー、やだよ。強引とか私はやなの。自分がされてやだったし、奈々は大事にしたいもん。それよりごめんね?なんか、………本当にいろいろごめん」


「もう謝んないで。あっちゃんしてる時からずっと謝ってるよ?」


「うん………。ごめん……」


私は良かったには良かったけど本当に反省していた。奈々の反応に一々驚いたりしていたので情けない限りを尽くしてしまったからだ。

きっと少しは萎えただろうに……。できたのは嬉しかったけど私には反省が多い。奈々はそっとキスをしてくれた。


「私嬉しかったよ。それに気持ち良かった。あっちゃんはやだった?」


「やな訳ないじゃん。私も嬉しかったよ?今まで嬉しいとか思った事なかったけどすごく嬉しかったよ。好きでいてくれるんだなって伝わってきて……なんか、満たされた気分になった。まぁ、奈々に頼りきりだったけどね私…」


奈々はしている時、テンパって挙動不審な私に嬉しそうに笑ってくれて気持ちをいっぱい伝えてくれた。それが申し訳なかったけど私にはとても嬉しかったのだ。

多少気を使ってくれたかもしれないが確かな愛情を感じたから。そういうところも全部受け入れてくれて好きでいてくれているんだなって思った私は嫌な感情を抱かなかった。


「じゃあ、私と一緒だねあっちゃん」


奈々は嬉しそうに言った。


「私もすごく嬉しかった。こんなに嬉しいと思わなかったってくらい嬉しい。謝んなくていいのにあっちゃんは謝ってばっかりで……でも、それも嬉しかった。大切に思ってくれてるんだなって思ったし好きでいてくれてるんだなって伝わってきた……。ずっと手付きが優しいし、ずっと気にかけてくれるし、あっちゃんの目線も顔も優しいから全部嬉しかった。でも、ちょっと心配しすぎ。あんまり心配されると恥ずかしいよ」


「うん…。ごめん。ありがとう奈々」


私と同じように思ってくれてたのが嬉しくて私は自然に言っていた。根本は本当に同じで奈々は私をよく分かっているのも嬉しく感じた。


「もう、あっちゃんあんまり謝ると怒るよ?今日何回謝ってるの?」


「うん、ごめん。じゃなかった、えっと……うん。気を付けるよ」


「また言ってるじゃん。まぁ、すごく嬉しくさせてくれたから許すけど次謝ったら殴るからね?」


「え、うん。分かった」


物騒な事を言って笑う奈々はそれはそれは嬉しそうだった。


「じゃあ、キスして?」


「うん」


私はそれから嬉しそうな奈々に笑ってキスをした。


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