綺麗なバラにはクセがある

风-フェン-

第1話



「うっ……うっ、わたじ……いっつも、ハズレばっかりで……今回は、浮気されても好きだって言ってくれるから頑張ったけど……やっぱり、……やっぱりだめだった……。うっ……わたし……幸せになんか、なれないのかな……?」


「そんな事ないよ~。そんな泣かないで?奈々頑張ってたじゃん」


「…うっ…うぅ……」


「…………え」


え、めっちゃ泣いてる。てか、泣き過ぎて回りが引いてる。それは私がトイレに行って軽く寝て帰ってきた時の事だった。あだ名がバケツの友達はバケツを抱えて吐きながら死んでいるし、さっきまで誰も泣いてなかったのに女の子がぼろっぼろ涙溢して泣いている。

え、私はなんか違うとこに来ちゃったのかな?


今日は行き付けのセックスブラザーズと言う通称セクブラに来ていた。セクブラはゲイバーだけど誰でも入れるお店で私はもう何年も前からの常連である。

背中合わせになるカウンターが二列しかないセクブラは今日は新規の客が多くて友達のバケツはバケツを抱えて死んでいるのでつまらない。ここに通ってると常連と顔見知りになってどんどん仲良くなって居合わせて一緒に楽しく飲むスタイルが多いんだけど珍しくこの泣いている子しか見覚えがなかった。



店子のゲイの金髪で身長の高いイケメンな優馬に慰められているのは確か奈々ちゃんだったかな。茶色がかったショートボブでとても顔が小さくて可愛いこの子は何度か見かけて可愛いから話しかけよって思っていたけどいつも飲み過ぎてそれどころじゃなくて話せていない。



バケツは勝手に死んだしあの子は泣いてるし、今乙女の危機だから慰めに行こう!バケツはいつも本当に具合悪そうにバケツを抱えて死んでるから大丈夫だろう。今は吐くのに集中してるだろうから話しかけちゃ悪いし。

私は泣いていると言うか号泣している奈々ちゃんの隣に座って背中を撫でた。


「ねぇ、どうしたの?なに泣いてんの?奈々ちゃんだよね?大丈夫?」


「うっうぅ……あさみちゃん……」


私を泣きながら見る奈々ちゃんは私の名前を知っていた。これには驚いたけど私はここで暴れたり泣いたり気違いみたいに飲んでいるので覚えられていても不思議じゃないが純粋に嬉しかった。


「え?私の名前知ってたの?え、めっちゃ嬉しい。え、もしかして私に気ある?え、やだどうしよう…これは濡れる」


「ちょっと素敵な勘違いやめてくれる?朝海みたいなブスに気がある訳ないでしょ?鏡持ってこようか?」


すかさず優馬に普通に突っ込まれてハッとして笑った。


「あ、ごめん。最近なんか頭が童貞脳ですぐ勘違いしちゃう。ごめんね奈々ちゃん童貞臭くて」


「うっ……ううん。おもじろいよ……ううっ」


「あー!ねぇ、奈々の事泣かせないで?今傷心なんだからね?」


優馬に言われて今が乙女のピンチなのを思い出す。酒入ってるとすぐに話が脱線してしまう。私は改めて話を戻した。


「やー、ごめん奈々ちゃん。え、本当にどうしたの?なんか粗大ゴミみたいな人引いちゃったの?さっきちょっと聞こえたんだけど」


私が聞くと泣いている奈々ちゃんの代わりに優馬が説明してくれた。


「二年も付き合ってた彼女に二回も浮気されて別れたんだって。奈々は頑張ってたんだけど付き合ってても鬱陶しくてめんどくさいし女としての魅力を感じないとか言われたんだって」


「はぁー?!浮気してたくせに?!…まず女を代表して私が謝るけど同じ女として恥ずかしいわ…。え、普通にあり得ないんだけど。粗大ゴミ以下だな?それは腐った粗大ゴミだわ。なんでそんな臭い粗大ゴミみたいなやつと付き合ってたの?!」


なんて哀れな話しなの。奈々ちゃんは本当に可哀想だった。てか、こんな可愛いのになぜそんなゴミに時間をかけた?奈々ちゃんは相変わらず泣きながら答えた。


「最初は……告白されて、好きだって言ってくれて……私との事……うっ……真剣に考えてるって……言ってくれたから……。それに、浮気しても…最初は謝ってくれたし…私しか考えられないって……言ってくれたから…」


「いや、その期待しちゃう気持ちは分かるよ?世の中クズしかいないからクズでも賭けてみっかって気持ちは分かるけど浮気の時点でアウトよ?」


「そうだよね……。うっうっ……私も分かってたけど……好きだって言ってくれたから……」


「いや、都合良すぎだからそいつが。都合よくヤりたいだけだろ。浮気は病気と一緒だからそういう人はダメだよ?そもそもそういうやつは自分の事しか考えてないし一緒にいても楽しくないでしょ?何もしないくせに求めるばっかじゃなかった?」


こういう奈々ちゃんみたいな人生上手く行かなくて泣いちゃう人の気持ちはよく分かる。私も実際そうだったしまずまともなやつがいねぇから本当に幸せになりたいって思う人が損する事が多発するのだ。

しかも今回のケースとか自己愛の塊ですね。なぜ他人と何かをしようと思った?よくいるけどこういう粗大ゴミは風俗行けよって話よ。


「うん……そうだった……」


そして奈々ちゃんは素直に言っていて本当に可哀想だった。

その気持ち体験した私はすっごくよく分かるよ。

奈々ちゃんは時間を無駄にしたようだが悪い事ばかりではない。


「可哀想に…。まぁ、でもこれも勉強だよ?そんなに泣かないで?時間とお金賭けて分かったでしょ?そういう人は人じゃなくてゴミなの。粗大ゴミに時間をかけちゃダメって高い勉強代払って分かったじゃん」


何事も経験とはこの事である。特に人と人は経験してみないと分からないけどある程度いろんなやつに会うと肌で感じるように分かるからこういうのもある意味大事。物凄い痛手は負うけど賢くなるし危険を察知できる。


「うん。……ありがとう、あさみちゃん。……あさみちゃん、あとね……正直に答えてほしいんだけど、私、……女としての魅力ないかな?」


「え………?」


泣きながら笑ったのに奈々ちゃんはまたしてもぼろぼろ涙を溢して泣き出した。え、可哀想過ぎて心が痛むんだけど……。粗大ゴミに言われたのなんか気にしなくていいのに奈々ちゃんは鼻を啜りながら言った。


「二回浮気された時にね……別れるって言ったら……私に魅力がないから浮気したって言われて……私のごど…いつもめんどくさいって思ってたって、一緒にいすぎて……性の対象として見れなくなったって……言っててね……うっ……うぅ……わたし、……わたじ、ダメなのかな……?」


「え、もうやめて奈々ちゃん?そいつは責任転嫁をしただけだよ。粗大ゴミはね、人のせいにするのが特技みたいなもんなの。よく芋みたいなブスとか、モテない男が何も努力しないくせに回りにばっかりいろいろ求めてるじゃん?それと一緒。言い訳言い訳。奈々ちゃんは何も悪くないよ?私奈々ちゃんの事ずっと前から可愛いと思ってたし、粗大ゴミに会っても人生一生懸命生きてて偉いよ」


「……うっ、うぅう……ほんとう?……」


奈々ちゃんは鼻を垂らしながら私を見てきてとても可愛かった。私が鼻垂らしてたらブス大惨事なのに美人はやっぱり違う。私は笑いながら奈々ちゃんの鼻を近くにあるティッシュで拭いてあげた。


「本当だよ。奈々ちゃん鼻垂れてるから鼻かんで泣き止みな?上手く行かない事ばっかだから泣く気持ちもすごいよく分かるけど粗大ゴミなんかに言われたからって泣いちゃダメ。私は奈々ちゃんみたいに泣いても一生懸命な女大好きだから自信持って?」


「……うぅう、うん……ありがどう……」


「奈々次はさ、告白されて付き合うんじゃなくて自分が好きな人と付き合った方がいいよ。それで、こういうところが好きって詳しく言えるような人」


鼻をかむ奈々ちゃんに優馬はいい事を言った。

それは正論なので私もすぐに便乗した。


「そうそう、そうだよ。好きって言ってくれる人じゃなくて自分が好きな人じゃないと上手くいかないっていうか長続きしないからその方がいいよ。言われたからだと妥協とかめんどくささが生まれるし。ていうかさ、そんな流されてヤバイやつと付き合ってたの?」


優馬は奈々ちゃんと仲良しみたいだから気になって聞いてみたらすぐに頷かれる。


「え、うん。奈々流されやすいから精神病のヤバイ人とかフリーターとかヒモみたいな人とも付き合ってたかな?」


「えぇぇ?!ねぇ、奈々ちゃん?可愛いんだからちゃんと選ばないとダメだよ?女は選べる立場なんだからなにしてんの?!」


奈々ちゃんの状況は非常に悪いみたいで驚いた。こんな可愛いのにどうして?誰かに仕組まれたの?なんか変な薬でも盛られた?尽きない疑問が頭を占拠し出した時、奈々ちゃんはようやく泣き止んで答えた。


「私はレズなんだけど、レズは民度が低いからちゃんと仕事してなかったりメンヘラが多いの」


「え?そうなの?レズ界どうしたよ……。まぁ、ノンケ界隈もろくな男いねぇけどさ。でも、そんなやつとは付き合っちゃダメ!私悲しいからマジやめて。てか、それ以上自分を傷つけないで奈々ちゃん。辛いよ私」


「…うん。……なんか、……ありがとう朝海ちゃん……」


普通にそこら辺歩いている男も民度が低いけどレズ界も本当あり得ねぇなと思いながら奈々ちゃんの身を案じたら奈々ちゃんはまた涙をぼろぼろ溢して泣き出した。

私はそれに驚いて即座に慰めた。今の一瞬で何が起きた?今何か傷つけちゃったのかな私?


「やだ奈々ちゃん好きだから泣き止んで?!どうした?!え、片乳揉む?私ので良かったら飲んでもいいけど」


「…うっ、うう …飲まないからいいよ……」


「え、ナチュラルに断られた…。優馬にも断られてるのに私どんだけ嫌われてんの?いや、でもそんな奈々ちゃんも好き!素敵!だから泣き止んで?」


冗談を泣きながら断ってきて少し笑いながら慰めていたら優馬はゲラゲラ笑っていた。それはそれはツボに入ったかのようだった。


「いや、朝海のとかこっちからお断りだから。すっごい酒臭そうだし。私たぶん飲んだらゲロ吐いちゃいそうだわ」


「あぁ?!おい、てめぇ!私の乳は普段ならそれなりに金積まねぇと飲めねぇんだから言葉に気を付けろ!てか、優馬も奈々ちゃん慰めてよ?可哀想でしょ!」


私は普段から口が悪いけど酒が入ると声がでかくなってしまう。冗談言い合うのも楽しいけど今は奈々ちゃんである。

優馬ははいはいと言いながら何時もみたいに悪い意味で適当に奈々ちゃんを慰めた。

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