第2話


「奈々ー?そんな泣いてると警察呼ぶよー?」


「おい!おまえちゃんと慰めろよ!タックルすんぞ?!」


「えー?もう、朝海怒り過ぎこわーい。やーん、輩やだ~」


「は?おまえ舐めてんのか?立てなくなるまで飲ましてやろうか?昼まで付き合ってやってもいいんだぞ?!」


これは優馬がふざけているから怒っている訳ではない。私は声がでかいがいつも冗談八割くらいで会話をしている私達にはこれが普通のやり取りなのだ。優馬のグラスにとりあえず酒を注いでやろうとしたら奈々ちゃんは泣きながら顔を上げた。


「あさみちゃん……」


「ん?!なに?!どうしたの?!一杯飲みたいの?!」


「ううん……。そんなに怒らないで?」


え、泣いてるのに私の方が心配されてる。白目を向きそうな事態に私は直ぐ様声を抑えた。


「え、ごめんごめん怒ってないよ?私血圧高いからテンション高くて声大きいの。だから気にしないで?ほら、私がたいよくてでかいしデブじゃん?常に塩分過多でさ…」


「朝海ちゃんは太ってないよ?わたしの方が……体型とか……だめだよ……うぅう……」


「やだ、泣かせた朝海ー!はい、罰金一億ー!キャッシュ不可、現金のみでーす!」


「あぁ?!酒漬けにすんぞおめぇ!!てか、奈々ちゃんマジ泣かないで!」


すかさずにやにやしながら言われて潰してやりたいくらいだけど奈々ちゃんが泣き過ぎてるのでもう肩を抱きながら頭を撫でてあげた。奈々ちゃんは哀れ過ぎて泣かれると胸が痛かった本当に。


「奈々ちゃん大好きだから泣き止んで?奈々ちゃん可愛いし痩せててスタイルもいいし素敵よ?私本当に好きだから泣き止んで?」


「うっ、うぅ……」


「ほらほら、もう泣かない。奈々ちゃんは可愛いから大丈夫!あ、そうだ、お酒飲もうお酒。そんで歌でも歌って皆潰して帰ろうよ?ね?私頑張っちゃうから任せて!」


もうここまで来たら酒しか飲んでない私の出番である。ここは私が乙女のために一肌脱ごう。私は優馬に言った。


「優馬、ヴーヴ入れて?」


「え?!ヴーヴ?え、朝海太っ腹じゃん。気触れたの?」


ヴーヴは高いシャンパンだから驚いている優馬に私は真顔で答えた。


「は?いつも触れてますがなにか?こういう人生の辛い時にはいいお酒飲んで騒いだ方がいいんだよ。ほら早く入れろ」


「はいはい。ちょっと待ってね」


こんな泣いて人生落ち込んだ時の気持ちはよく分かるので景気付けとして私からシャンパンを入れた。

もうこういう時はいいもの飲むのに尽きる。

私は鼻をかむ奈々ちゃんに明るく話しかけた。


「奈々ちゃんシャンパン飲も?今日は私が奢ってあげるからぱーっといこう!」


「え?……でも、わるいよ…」


「いいからいいから!!金なんか気にすんな!シャンパン飲んで元気だして?」


それから奈々ちゃんをどうにか慰めてシャンパンを飲んでカラオケをして騒いでいた。

奈々ちゃんは泣き止んで楽しそうにしてくれたが、なぜか突然深刻な恋愛相談会に突入した。

それはカラオケを歌い終わって奈々ちゃんが言い出した。


「朝海ちゃん?」


「ん?なに?」


「あのね、私、いつも告白されてから嬉しくて付き合ってたんだけど、目がなかったから…。どういう人が間違いないかな?」


「え?んー…」


突然真面目に言われて驚いたけど乗らない私じゃない。どこまでもお供するよ奈々ちゃん。私はすぐに答えた。


「とりあえずまずは見極めじゃね?車の免許みたいに」


「見極め?」


「うん。だいたいさ、自己中なやつって一緒にいて疲れんじゃん?驚くくらい気が利かないから引くし無神経で失礼だし。そんで相手のために適当に笑ってコミュニケーション取ってあげてる自分がいたらそれは見極め落ちてるから試験に通しちゃダメ。恋愛も仕事と一緒だから自分が損するような賭けは絶対しない。これ守っとけば変なやつはまず引かないと思う」


「そっか。そうだね。じゃあ、疲れない人がいいって事か」


一緒にいて疲れていたら元も子もない。恋愛に見返りは求めないとか綺麗事言ってるやつは無視。いろいろやれば分かるけど人間は見返りの無い事はほとんどできない。自分のために利用されるだけされてなにも得られないとか普通に皆嫌だと思うし。


「そうそう。粗大ゴミと付き合ってたなら分かると思うけど疲れなかった?承認欲求と自己顕示欲の塊でさ、なんかこっちをすごい下に見てきたりとか、人の話聞かないし一方的ですぐキレたり」


「……うん。そうだったかも」


「だよね~。分かる。最初から対等な関係じゃないって言うのもダメだしね。てか、自分の立場気にしすぎで引かね?どんだけ自己愛ヤバイのって話だしそんなにマウント取ってなにしたいの?みたいな。仕事じゃねぇのにプライベートでそんなんやられると疲れるだけなの分かれよな」


ここまで言って私はハッとして謝った。


「あ、ごめん奈々ちゃん。私口悪いよね?輩みたいだよね?ごめん気を付けます」


「え?いいよ。そんなに気にしてないから」


「え?本当?気になったら言ってね?頑張って普通に話すから」


奈々ちゃんが気を悪くしてなくてほっとする。彼氏がいた時は夢を壊さないように普通に話してたけど、もうずっと彼氏もいないから私は輩になり果てている。こっちの方が自然だから楽なんだもん。


「そのままでいいよ朝海ちゃん。それより、なんかほっとしちゃったかも」


「え?なんで?」


「え、だって、私も朝海ちゃんみたいに思う時があったから。それでも、私が我慢すれば良いと思ってたんだけど我慢するのは間違ってたから上手く行かなかったんだなって」


「……奈々ちゃん。そうだよ我慢はよくない」


奈々ちゃんは粗大ゴミからの洗脳が解けたようで嬉しいけど切なかった。だって偉くない?捨てた方がいいのに臭い粗大ゴミに気を使って頑張って生活してたんだよ?可哀想で健気だよ。


「我慢っていつもするもんじゃないもん。てか、あれよ、我慢も時には大事だけど何だかんださ、そんなとこも好きって思えないと恋愛の人間関係は特に続かないよ」


「でも、そんなに完璧な人っている?」


「いや、いない」


即答したけど付け足した。もう相手に求める理想も夢もないし、求めるとしたら最小限の事になってしまったが妥協と我慢は違う。


「いないからそういう場面に出くわした時にさ、相手の良さがどの程度かって分かるじゃん。すごく光る部分があればダメなとこも許せるけど、カバーできるくらい人間性が良くなければその時気づくからやめれば良いのよ」


「私、流されやすいのに気づけるかな?」


「え、気づけるよ。自分の感性って絶対当たってるからその時は好きとか甘い言葉に惑わされずに感性に頼れば大丈夫。おや?って思ったりえ?って思ったらそれはダメってだけだし。深入りせずに引けばいいだけ」


ここの感性は必ず当たる。話してて、え?って思うようなことは過去を振り返ると必ず辻褄が合うし変えてと言ったところで人ってそんなすぐに変わる生き物じゃないから引いた方がいい。この違和感は永遠に付きまとうし受け入れられないからだ。相当好きなら話しは別だがクズしかいないからってここに目をつぶるとあぁ、やっぱりかとなるのがオチだ。簡単に言うと無駄な金を払ってしまうのだ。貴重な時間を使って。


「じゃあ、これからはそうやっていい人見つけてみる。今までのままじゃダメだもんね。もう粗大ゴミみたいな人は嫌だもん」


奈々ちゃんは前向きに捉え出してくれた。

あぁ、良かった。さっきまで泣いてたから安心する。

てか、奈々ちゃん綺麗で可愛い。さっき鼻垂れてたとは思えないよ。


「うん!頑張って奈々ちゃん!付き合う前に言ってくれれば私も優馬も査定してあげるし!奈々ちゃんに幸せが訪れるように酒飲んで祈っとくね私」


「ありがとう朝海ちゃん。朝海ちゃんは彼氏とかいないの?」


「え、いないよ~。私はもう男といても幸せになれないから一生一人だよ」


いろいろやってみてたどり着いた結論に奈々ちゃんは驚いていた。


「え?どういう事?何かあったの?」


「何にもないけど一緒にいていつも疲れてたし楽しいって全然思った事ないなってある日気づいたんだよね~。優馬とかさ、ゲイといたりここで飲んでた方が全然楽しいし疲れないから無理してたんだなって思って。なんか男といたら幸せみたいな固定概念に囚われてたみたいなんだよね私。すんげぇ時間と金を無駄にしたわそれで」


男を漁って漁った結果、私はこの答えを導き出した。

実際普通の男は口下手なやつが多いしゲイより面白いやつはいなくて酒が強い男もそんなにいなくて本当つまんねぇやつに時間を使っていた。その中にはクズもいたしいい人もいたけど、そもそも話してて気を使うし面白くないし疲れていた。幸せのためと割り切っていたが彼氏は友達以下の気を使う人だったのだ。


「あぁ、それは分からなくないかも。付き合ってたら幸せって思っちゃうマジックみたいなのはあるよね?」


奈々ちゃんの同意に私は何度も頷いて答えた。


「そうそう。そうなんだよ~。イケメンな彼氏作って結婚して子供産んだら幸せってマジックかかってて解くのに何年もかかってたよ。合コンもクラブも行って漁ったけど外見良くても中身が良くなかったら何も意味ないし、私は恋人には精神的な繋がりみたいなものだけ求めてるから全然価値観合わなかったね。ねぇ、それよりさ、奈々ちゃんは恋人になに求めるタイプなの?」


私の踏んだり蹴ったり話しは置いといて奈々ちゃんに質問した。奈々ちゃんとはこの機会に是非仲良くなりたい。奈々ちゃんは考えながら答えた。


「んー、私は……とにかく好きでいてほしいかな?今まで付き合った人って浮気したり私より違うものが好きな人が多かったから、ちゃんと好きでいてほしいな。できたら一番…」


「……ねぇ、奈々ちゃん?求めるものが当たり前すぎない?他にないの?」


奈々ちゃんが健気過ぎて聞いていて胸が痛かった。こんなに美人なのに奈々ちゃんをたぶらかしたやつを味噌糞にしてやりたいわ…。奈々ちゃんはまた考えていた。


「え?あとは……記念日とか誕生日覚えててほしいかな?私よく誕生日忘れられたりしてたし……あと、レズだけど将来を考えられたら嬉しいかな?」


「ほ~。そっかぁ~…」


やはり奈々ちゃんの求めるものは健気だけどそれはとても気になるワードだった。


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