第49話





「私奈々じゃないと嬉しくないしやだから相手にしてください。お願いします」


「それじゃお願いじゃん」


「いいじゃん。どっちも同じもんでしょ?私には奈々しかいないんだから相手にしてよ奈々?ね?お願い」


奈々はちょっと呆れた感じに笑ってるけど厳しくないのは見て取れる。言い寄るにしては落第点だろうが奈々はすぐに応えてくれた。


「もういいよ。あっちゃんは特別だからね」


「やった。ナンパ成功。初ナンパで初めて成功したよ私」


「私も初めてお願いしてくるナンパにあったかも。意外に可愛かった」


「靡かせられて光栄です」


ナンパした事ない私が奈々を靡かせられたなんて名誉だろう。素直に嬉しく思っていたら奈々は首に腕を回して顔を寄せてきた。


「それであとはなに?言い寄ったのにもう終わり?」


「まさか。するって言ったじゃん。でも、もうちょっと飲んでからにしようよ?まだシャンパン開けたばっかだし」


「じゃあ、手繋いで?それで我慢する」


「うん」


奈々は何度かキスをしてから私から離れるとしっかりと手を繋いだ。そうして一緒に酒を飲んで話すけど度々キスをしてくっついて笑っていたら酒なんかすぐに失くなってしまっていてそれからは奈々に流されてばかりだった。と言うか言いなりだった。

奈々を断るって私には無理なんだと思う。

奈々は巧みに乗るしかないような流れを笑いながら作ってくるしエスパーなだけある。

読んだ上で可愛らしく笑いながら逃げ道を潰すなんてお手上げだ。しかも私に誘導尋問のように言わせてくるし、私の事は奈々の方がよく知っているだろう。





「奈々って尻に敷くタイプ?それともSなの?」


し終わってから奈々と横になりながら聞いた。どっちでも好きだけど私は奈々の前だと自分が弱過ぎる。奈々はいつもの笑顔だった。


「いきなりなに?どっちがいいの?」


「どっちでもいいけど私奈々の影響強いんだもん」


「いつも先にいろいろしてくれるくせに。私の方が影響されてるよ。あっちゃんずっと変わらず優しいんだもん。貢がせるのうまいでしょ?」


「はぁ?そんな訳ないじゃん。ずっと迷走してたよまともな人いないから。奈々は別だけど」


こんな何かしたくなるのも受け入れちゃうのも奈々だけで私はそういう事を思えずに恋愛をしていた絶望の過去を思い出す。数を打っても世の中まともな人は少ないと言うのが私の見解だけど私はようやく幸せを感じている。

付き合うなら絶対気を使える人じゃないと無理なんだなと奈々と会ってから心底思う。一緒にいるんだから譲り合ったり敬意を払わないと接待みたいになるだけだったし。


「ふふふ。どう別なの?女って意味?」


「んーん。中身が最高って意味。こんな嬉しくさせてくれる人いるんだったら早く声かけとけば良かったって後悔してるくらい。奈々の顔は知ってたし」


私達は何度か優馬のとこで会っている顔見知りだしお互いに認識はしていた。奈々は私の首に腕を回してキスをしてきた。


「そうだね。私はあっちゃん最初から気になってたけどあの頃はまさか付き合えるとは思ってもなかった」


「本当それ。ていうか奈々気にしててくれてたの?」


「うん。だってあっちゃんは覚えてないと思うけど前話しかけてくれたんだよ?そんなに大したこと話してないけど、その時も気さくで優しかった」


「え、マジ?………絶対飲みすぎてたよ私。最悪。怒鳴ってたよね?」


奈々は嬉しそうだが新事実は頭を抱えたくなるだけだった。最初からやらかしてんじゃん私…。こんな大柄な声でかい女に絡まれるとか気分はカツアゲだろ。奈々はおかしそうに笑った。


「いつもお酒飲むと声大きいじゃん」


「そうだけど最悪だよ。ごめんね奈々?奈々よく嫌いにならなかったね?」


「嫌いになんかならないよ。優しかったし嬉しかったもん」


「えー?本当?私なに言ってた?マジ引くような下ネタ言ってたら今殴っていいよ?ぼっこぼこでも大丈夫。我慢するから」


私が飲みすぎる時は人生がうまく言ってない時だからなにか最悪なワードを言っていてもおかしくない。

奈々はまたキスをしてきた。


「そんなの言ってないから平気だよ。心配しすぎ」


「じゃあなに言ってたの奈々?」


「んー、忘れちゃった」


「え?!ちょっと教えてよ?」


可愛らしくはぐらかされても私は納得なんてできない。失態したならせめて謝らせてほしい。発作が起きそう。

しかし奈々はまた笑いながら私を乗せてきた。


「秘密。でも、キスしてくれたら言うかも?」


「…本当に?」


「それはキスしたら分かるんじゃない?」


「………奈々そうやって私で遊んでるでしょ?」


「遊んでないよ?それよりしないの?しないなら私からするよ?言わないけど」


こんな可愛い脅しは中々ないだろう。私は抗う事なく自分からキスをした。そしてまた尋ねた。


「それで?」


「なにが?」


ここでこう言うのは実に奈々らしい。

笑顔の奈々はまだまだ私で遊ぶつもりだ。


「奈々?」


「好きじゃだめ?」


奈々は嬉しそうに話を逸らしてキスをしてきた。そして深いキスをしてくる奈々に応えながら長くキスをした。積極的な奈々は唇を離すとまた笑って言った。


「やっぱり好きだから私だけの秘密にしたい。だめ?」


私は奈々の笑顔に負けて情けない顔で聞いていた。もうだめだめのだめだった。


「………本当に変な事言ってない?」


「うん。実はそれで気になりだしただけ。積極的だったよ?」


「悪い意味じゃないよね?」


「うん。だっていつもよく見えるよ?今も可愛い顔してる」


奈々は私の頬を触りながら軽くキスをする。

これじゃなにも言えないよ…。私より可愛い顔して心を読んでくる奈々が相手じゃ私は奈々が敷いたレールの上を走らせられるだけ。私はもう奈々をぎゅっと抱き締めるしかなかった。


「もう奈々やだけど好き」


「やだけど好きってなに?」


くすくす笑われて私は腕を緩めると奈々を見つめた。私はもう不貞腐れた。


「大好きって意味です。バーカ」


「ふふふ。ごめんね?あっちゃん可愛いんだもん」


「奈々より可愛くないし。バーカ」


「もうどうしたの?いつも怒らないくせに」


「怒れないからです。今も怒ってないし」


もうさっきからずっとだめじゃんと思いながらもつっけんどんでいく。あんな態度と言い方じゃ流されても悪くないし私。ていうか、流されて当然だし。

誰かファックスでどうしたら流されないか回答送ってほしいし。どうせ全て理解している奈々は本当に嬉しそうにしか笑わなくて嬉しいけど嬉しくなかった。


「あっちゃんプレゼントあげるから許して?」


「物じゃ釣られません」


「じゃあ、なにで釣られる?」


「言いたくないし。バーカ」


知ってるくせに奈々は言葉にする。奈々は会話を支配してくるほど理解力があるくせに答えは言わなかった。


「あっちゃん不貞腐れないでよ?」


「…………」


「今度はだんまり?」


「黙ってませぬ」


「ふふふ。じゃあ、キスしていい?可愛いからキスしたい」


されるのは癪なので私は自分からキスをした。ちょっとムカつくから何度もキスをして奈々が逃げられないように覆い被さる。奈々にはこういう風にしか勝てない気がする。奈々はやっぱり嬉しそうだった。


「不貞腐れてるくせになんでこんなに優しいの?」


「もう不貞腐れてないし。奈々プレゼントくれるんでしょ?だから機嫌直った」


もう負けてる私は悔しく思いながら最後の対抗をした。

奈々の前じゃ全て見抜かれてるから正直に行く。ただ喜ばせて笑わせるだけだもん。嬉しいけど気に食わない。


「よかった。じゃあ、楽しみにしてて?」


「うん。すごいやつじゃないとまた機嫌悪くなるからね?」


「ふふふ。やっぱり貢がせ上手。でも、私が一番貢いであげる」


「もう奈々?」


「だって好きなんだもん」


もうつっけんどんでいられなくなった私は笑ってキスをした。結局大好きな自分はバカだろう。弱いんじゃなくて好きでバカになって頭が沸いたんだきっと。私は情けないけどそう思いたかった。


「ねぇ、あっちゃん?」


そうしてまたしても奈々は笑いながら私を見つめる。私はいつも通り全く伺えなかった。奈々は私を読むくせに読ませてくれない。


「ん?」


「裸でこんなにキスして何したいの?具体的に教えて?」


楽しそうな奈々は今日の事を言っているようだがもうはっきり言ってやる。ここで言わないなんて女が廃る。私は笑顔で言ってやった。


「セックスしたいから体触りたいんだけど。キスとハグはおまけだし。奈々は?」


「一緒じゃないと思う?だから着いてきたのに」


言わせたくせにまた上を言ってくる奈々は悪魔のようだった。こういうところは私には手に終えない。


「もう、今日は寝かせないからね?奈々生意気」


「私は好きなだけだもん。それにちゃんとしてくれないと気が変わって帰っちゃうかもよ?」


「変わらないでしょ?好きなだけなんだから」


「うん。絶対帰らないよ。私の方が好きだから気なんか絶対変わらないよ」


笑顔の奈々は私を好きなだけなのがよく伝わる。

これのせいで私はこの様だが嬉しくて困ったものだ。

奈々はキスをすると小さな声で言った。


「好き。おまけもいっぱいしよ?」


「はいはい」


私は応えるように笑いかけた。


そうして朝方まで頑張ってしてしまって奈々と昼過ぎまで寝てしまった。だけど奈々はまた私より先に起きて私の写真を撮っていて血の気が引いた。見せてくれた写真はアホずらなのに奈々は嬉しそうで消すように嘆いたけど笑顔で断られた。やっぱり奈々は悪魔なのでは?と真剣に考えた私は次からはアラームをかけて起きようと決意するも奈々は本当の本当に悪魔のような事を言い出した。


「ねぇ、あっちゃん一緒の写真撮ろ?」


「え?さっき撮ったじゃん」


「さっきはあっちゃんだけだし二人の欲しいから」


「………私でかいから見切れるよ?」


「あっちゃんが撮れば大丈夫でしょ?」


「うん……」


ついに来てしまったこれは受け入れてたけど気乗りはしない。自分を使って格差社会をこれから見るのは悲鳴案件だけど奈々が絡んできたら私は身を差し出さなければならないのだ。



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