第23話
それから奈々と時間が合えばご飯だけ食べたりしながら私は運命の日を迎えた。
この月末、私はここで女を見せないとゴミクズになり下がってしまう。だからどうにか名誉のためにも挽回したい。私は奈々のために頑張るぞ!
張り切って燃える私はまず泳いでから奈々のためにいい酒を用意した。奈々は何でも飲むが以前行ったエスニックの店でワインを水のようによく飲んでいたのでワインとワインに合いそうなご飯を作った。
ここまでは完璧。あとは手を握ったりとかしてキスまで行く。ひいちゃんは脅してきてたけど応援してくれてるみたいだしここで頑張らないでいつ頑張る!
だけど奈々を待っている間、私はまた迷走していた。
キスしたそうにされたり、キスしてくるから合わせていた私は一回もキスをしたいと思ってしてなかったからだ。あー、はいはいキスね。って思ってやっていた人が普通にキスできるの…………?
奈々はそういう雰囲気を一切出してこないし言わないんだよ?かなり私達の空気は友達に近いから正しい手順を踏んで行かないと無理じゃん?しかも私は雰囲気が作れないので言うしかなくなりそうだし………。一応雰囲気に関しては作りたいけど雰囲気って一方的にしか感じなかったからあんまりやりたくない。過去の自分を振り替えるとこの感じまたかぁ……、今日疲れてるし明日予定あるからヤりたくないけど付き合ってるから宿命だよね。てか、こいつ私の酒飲んでるとことか全く知らないのになにが好きなんだろう?おまえより友達の方が仲いいんだけどと思いながら合わせてもらって冷静にキスとかセックスされたらやだよね?聞いて断られた方がまだいいよ。
女ってある程度夢や空気を壊さないように言わなかったり誰も傷つかない嘘をついたりするけど私は奈々にそんな思いをさせたくなかった。
あれはめんどくさいし、ダルいから同じ思いはさせたくない。仕事じゃないのにこういう事すんの好きだったとしても疲れるし。
となるとやっぱり許可制だと私は思った。
もうこれが無難だよねぇ。ひいちゃんみたいな手強い女の場合は勝手にやると本当にキレてくるから絶対聞いた方がいいし、笑ってても違う事思ってるのって本当よくあるから空気が手に取るように読めるエスパータイプじゃなければ勝手にやってはならん。これ鉄則。
そうなれば今日は許可制で行こうと思った。
私はこれしかできん。空気を読みながら許可を取って手順を踏めばキスできるような気がするし……。
嫌がられたら引いて謝ればいいから積極的にいってみよう!
考えがまとまったところでようやく奈々がやってきた。私はそれから奈々を部屋にあげて早速ご飯とワインを用意して乾杯した。
「奈々ワインどう?前エスニック行った時結構飲んでたから買ってみたんだけど」
「美味しいよ。ありがとねあっちゃん」
「良かった~。二本買っといたからいっぱい飲んでいいからね?他にもあるし」
「うん」
早速感想を聞いて奈々が喜んでくれて安心した。よし、これからだよ私。奈々との間には以前のように距離があるけど気にしない。まだまだ時間あるからこれからだし余裕。
私は奈々と話しながら酒を飲んでまずは楽しんでいたら奈々の飲むペースがいつもより早くておや?おやおやおや…?と思っていたら奈々は早い段階で酔っぱらってきていた。
「あっちゃんはさ!理穂ちゃんとどのくらい仲良し?」
「え?バケツ?ん~、いつも一緒って感じ?」
「どのくらい?!」
「んー、一緒にいすぎて分かんねぇ」
「なんで?!」
「だって分かんないんだもん。それより奈々はそろそろハッスルタイムじゃないかしら?ヘイヘイ」
奈々はさっきから食い気味でいろいろ聞いてくる。もうワインは二本目突入だしほとんど奈々が飲んでいる。私はこの時点でまだスキンシップすら取れていなかった。
奈々飲むの早いんじゃない?と言う間もなく奈々の質問責めが急に始まって私はやっと今止めに入れたのだ。
こりゃまずいと思いながらスキンシップよりも水が入ったコップを勧めても奈々はむっとして断ってきた。
「いらない。ワインしか飲みたくない」
「なんで?水美味しいじゃん。飲みなよ~?」
「今はワインしか飲みたくないからいいの」
「えー。なんで?一口だけ飲んでよ?お願い!」
「…………じゃあ、飲む」
酒が回っていつもより感情的な奈々はやっと水を飲んでくれた。これはもうお開きして明日じゃない?明日も時間あるし。私は水を飲んでくれた奈々に今日を諦めていた。今はとにかくこの酔っぱらいに酒を飲ませるのを阻止しよう。
「あっちゃん」
「ん?次はなに~?」
水を飲んでくれた奈々にまた呼ばれる。私はそれとなくワインが入ったコップを遠ざけようとしたら奈々が怒ってきた。
「あっちゃん!まだ飲むから下げちゃダメ!」
「いや、ごめんけどこれは私が飲む。全部飲み干したい気分なの。奈々は水担当ね?頼んだ!」
「なんで?やだ!」
かなり飲んでいる奈々は質の悪い酔っぱらいだった。だが、むすっとしてる奈々は可愛いから私は止まらない。理由なんか酔っぱらいの前ではなくていいのよ。私は奈々にグラスを取られそうになるもワインを飲み干してやった。
「うまっ!もう終わり!ワイン終了」
「なんで私の飲むの?!」
「私が飲みたかったからですー。もう今日は終わりね?奈々はとりあえず水飲みなさい。水飲んでハッスルして?」
「やだ!まだワイン残ってるもん!まだ飲みたい!」
さっきそれとなくコルクを嵌めといたワインボトルを取ろうとする奈々。奈々はやる気のようだがもう飲ませねぇぞと思っていた私はワインに伸びている奈々の手を絶対離されないように指を絡めて握った。この手はいけない。
「奈々ダメ!ワインより私と手繋いでて!」
阻止はできたのに強く手を握られて痛い。こんな小さい手の一体どこにこんな力が…?奈々は揺るぎなかった。
「でも、ワイン…!!あっちゃんだけ飲むのズルい!」
「私もうこれで終わりだしズルくないですー」
「もう、まだ飲めるのに……!」
「私も飲めるけどこれからお風呂だからダメでーす。奈々は水の水割り早く飲みな?飲まなかったらラグビーボール抱えるみたいに抱えて一駅は走るからね?吐いても止まんないよ私。いいの?」
「…………やだ」
どうにか言いくるめた私はほっとした。奈々は不満そのものだったけどちびちび水を飲みだしてくれた。戦いに勝利したのは良かったが奈々お風呂入ってくれるかな?
飲み過ぎると普段より喜怒哀楽が現れている奈々は珍しくこんなに酔っているからちゃんと寝るまで不安だよ。泣いてないだけで手強いよこれは。
「じゃあ、ちょっくら片付けてから風呂入ろっか奈々」
「もう眠いからやだ……」
「ダメでーす。奈々は抱えて入れるからね」
やっぱ来たよと思って即答したら奈々は水を飲みながら嫌そうに言った。
「そしたら怒る」
「じゃあ、私も怒る。一緒に怒ろう?大乱闘しようぜ?私面積広いからサンドバッグに…」
「やだ」
「もうやだやだ言わないの。私片付けとくから水飲んどいてよ?」
「やだ」
「だめー。やだは聞きませーん」
やだやだマンになってしまった奈々を適当に相手をしながらグラスを下げようとしたら奈々がさっきから握っていた手を離してくれない。動けないよ奈々と視線を向けるも奈々はふて腐れていた。本当に今日は珍しい。
「もう離さない……」
「なんで?片付けるから離して?」
「…………」
「奈々?離さないと担いで投げるよ?」
黙った奈々を脅すと奈々は憎らしそうに私を見てから手を離すと私から顔を背けた。
「もう、あっちゃんやだ……」
「私は奈々大好きだからいいもーん。よいしょ」
もうあとは水の水割りが作用してくれるのを頼りに私は食器を持ってキッチンに行くと皿を洗って片付けをした。そして一応風呂も沸かしておく。
これであとは風呂に入って寝るだけだ。
最近熱いから汗かいたろうし風呂入りたいだろう。
めんどくさいのは分かるがあれ風呂に入れられるかな……?
私は片付けを終わらせてから奈々の隣に座った。
「奈々?もうお風呂タイムだよ?風呂入ったら寝ていいから頑張ろ?」
「…………」
今度は黙秘マンになった奈々に私は笑いながら話しかけた。水の水割りは与えるのが遅すぎたようだ。
「奈々風呂入ろーよー?今なら私が薪で沸かした湯船サービスあるよ?頑張っちゃった」
「…………」
「奈々ー?風呂入ろー?あっついお湯で覚醒しよー?」
「…………」
「奈々ちゃーん?奈々ちゃーん?」
「奈々ちゃんって呼ばないで」
やっと返事をしたかと思えば不貞腐れた顔で言われた。お酒を回収してしまったのが気に食わなかったようだがこんなむっとされても奈々は可愛い。
「だって奈々返事してくれないじゃん。ぷんぷんしちゃってさ~。可愛いけど」
「………バカ」
「バカじゃないもーん。バカって言った方がバカなんだよバーカ」
「…………もうやだ」
「なんで?理由は?根拠は?動機は?」
「…………」
ちょっとからかってみたら奈々はまた黙ってしまった。眉間にシワが寄ってもこの人は酔っぱらいなので真面目に相手をしてはいけない。可愛いからからかいたくなっちゃうがこのままでは風呂に入れられないので私は奈々の腰を引き寄せた。もうこのまま抱えて風呂まで連れて行こうと思ったのだ。
「奈々もう風呂入るよ~?それ以上…」
「あっちゃんドキドキするから触らないで!!」
「え?あ、ごめん」
突然怒鳴られて私は咄嗟に謝って手を離した。なに?今何て言った?理解し損ねていた私から奈々は恥ずかしそうに離れていった。
「…………もう…!」
「…………」
小さくそう言った奈々は私に背を向ける。
え、なに?…………可愛いけどどうしたらいいの?
これは、慰めるべき?でも慰めたら余計恥ずかしくない?今恥ずかしがってるんだよね?
私は手を伸ばして引っ込めた。
「…………」
「…………」
そして突然やってきた沈黙タイムに私は動揺するしかなかった。
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