第25話
「あの、あっちゃん?」
「ん?」
「抱きつきたいけど、お風呂狭いから私があっちゃんの上に乗ってもいい?……私重いけど…」
「…………」
私は0.1秒笑いながら黙った。そして私のでかさに気を使ってくれた恥ずかしそうな奈々に奇声を上げそうになるもすぐに頷いた。ただ抱き締めるよりも犯罪臭するけど私は逃げない。負けない。ここは行く時だよ。
「うん。いいよ。そんなの気にしないから」
「うん………。でも、重かったら本当に言ってね?すぐ退くから」
「うん。分かった」
そうして見てるのも悪く感じる奈々は近付いてきて私の膝の上に乗ってきた。驚くくらい軽い奈々は私の肩に手を乗せてきてドキドキとかより恐怖だった。近いし目のやり場に困るし目線がいつも私の方が高いのにまだ高いし何かの試験の合格発表のように緊張した。これはいろんな意味で大丈夫なの私………?私はまだなにもしてないけど。
「あっちゃん肌綺麗だよね?羨ましい……」
目前の奈々にどこが?と思いながら正論を言った。なんかもう違いが大き過ぎて言わせてる感じがするから。
「え?いや、奈々の方が綺麗じゃない?奈々肌白いしいつも可愛いし」
「そんな事ないよ………」
「…………」
奈々は照れた時の困り顔をしていて私はただ笑った。
こんなに近くで見れて可愛いんだけど、近すぎて怖いぃぃぃ……。犯罪にならないよね?いや、付き合ってるから犯罪じゃないけどキスもしてないんだよ?いくらチャンスだからってこんな可愛い子にこんな事させるとかダメだったんじゃない私?とてつもなく不安で怖い。
無言でいたら奈々は小さな声で言った。
「……あっちゃん抱き締めてくれないの?」
「え?いや、抱き締めるよ」
「じゃあ、早く抱き締めてほしい……」
「うん……」
思わぬ催促は私を恐怖させる。
可愛いし好きだけどこんな可愛くて私より小さい子を抱き締めるのも怖いし不安……。これ、やっぱりまずくない?でも、私一応付き合ってるしやらないとだよね?今までやれてないしキスもしないとなのに怖じ気づいでどうする!私は覚悟を決めた。
とりあえず奈々は細くて私より遥かに小さいから優しく。優しく優しく触れれば何も問題は起きないはず。
私は恐る恐る奈々を慎重に抱き締めた。触れた肌の感触が柔らかくて私は腕に納めた奈々を抱き締めてからも緊張した。
奈々、怖いくらい柔らかいしド細い。本当に小さくて抱き潰しそう…。しばらくすると奈々は私の首に抱きついてきた。奈々に抱きつかれるのは嬉しいけど緊張し過ぎて吐きそう……。裸で女に抱きつかれた事ない私は体格差があまりにも大きくて現実に目眩がしそうだった。
「……あったかいね……」
「うん……」
「嬉しいけどドキドキする…………」
「うん…………」
たぶん違うドキドキだけど言わない。言っちゃダメ。
でもね、私も嬉しいんだよ?嬉しいけど女の子とこんな事したことないから慣れないの。私でかいし、奈々は可愛いしすんげぇ小さいからそんな事できると思わないじゃん?奈々からしたらきっと巨人だよ私……。言わないけど。
「……あっちゃん大好きだよ」
「うん……。私も……」
笑いながらしっかり返事をする。こんなでかい私を目の当たりにして好きでいてくれる奈々の気持ちは純粋に嬉しいがやらかしが酷くて苦しい……。どうにか挽回していかないと好きでいてもらうのは難しいよ私。
ちゃんと努力しないと。好きと言われても当たり前にずっと好きでいてくれると勝手に勘違いしてはいけないの。体型を維持するのと同じで日々努力していかないと気持ちは離れるんだよ。だってなにもしない人とは実際長続きしないし、そもそも好きな人が何にもしない人だったら劇萎えじゃない?
なんにもしねぇなてめぇ。てめぇこっちが好きだと思って調子のんなよ?もう好きの気持ちが薄れてきてるわってなるよ?好きって言ってくれる人だったら誰でもいいんじゃんってなるし、大切に思ってくれない人に時間をかけるのは無駄だもん。産んでくれた親にも失礼だよ。
「奈々?」
「なに?」
少し腕を緩めると奈々も緩めてくれて顔を見合わせた。このままでは今からフラれる予感がするから行動をする。怖いし絶望もあるけど私は奈々が好きだ。奈々みたいないい人を逃したくないし意味のあるこの関係を続けていきたい。
「私、本当に好きだからね」
「え、……うん」
照れる奈々を可愛い素敵と真顔で思いながら私は真面目に言った。
「ねぇ、奈々?」
「…なに?あっちゃん……」
「キスしてもいい?」
「え?……キス?」
「うん。好きだからしたい。でも、やだったらやめる」
キスなんか出会ってその日にやってた時もあるしわざわざ言ってやってなんかいなかった。しかもやりたいとすら思っていなかった。でも、今の相手は違う。女だし、ウザいとか思った事ないようなすごくいい子だ。そしてとても好き。
だからキスしてどうすんだよこの関係の先も考えてねぇくせに、なんて私は思わせたくない。しかも、またヤりてぇのかなーコイツ、とも思わせたくない。
ただ好きな気持ちを伝えて何もなかった二ヶ月近くを取り戻したい。
まるで高校生みたいな催促通るのかと内心ハラハラしていたら奈々は恥ずかしそうに口を開いた。
「……いいよ」
「じゃあ、するね?」
「うん……」
きたぞ許可!私は真面目に気合いを入れ直した。
ここは真面目にやらないとここで引かせるなんて事はあってはならないの。男だと変にかっこつけたりとかするやついてここで劇萎えもあるから真面目に行く。
ていうか私はかっこつけたりとか恥ずかしくて無理だからしない。男性のようにどっから沸いてくるのか分からない自惚れ勇気私にはないの。あれってある意味羨ましいよね。相手が手練れの場合十割バレるしお金の使い方とかでかっこつけないと足元見られるだけだし。
私はもう既に近い距離にいる奈々に顔を寄せた。
恥ずかしそうな奈々が可愛くて怖い。こんな可愛い子にキスって…………殴られそうで怖い…………。
冷や汗かきそうなくらいの緊張をしながらもうほんの僅かでキスできそうな距離まできて目をつぶりかけた時、奈々に急に顔を逸らされた。私はもうそれで血の気が引いた。
「あ、あのあっちゃん私……」
「奈々ごめん!やだったよね?もう本当にごめんね?もう絶対やんないから本当にごめん!」
私はとにかく真面目に謝りながら奈々の肩を押して距離を取った。まずい、まずいよこれは…………。女が顔を背けるって相当やな時だよ?話が通じない勘違いとかヤル気ない時に無理にやられそうになってやるマジで嫌な合図よ?自分でもやってたから分かるけどまた気を使わせて合わせてもらってんじゃん私。死にたい……。
「あの、あっちゃんそうじゃなくて私……」
「いや!本当にごめん!やなの全然気づいてあげられなくてごめんね?もう絶対やんないって約束するから。ていうか私もう上がるね?奈々ゆっくり入ってて?」
私はこれ以上気を使わせて嫌な思いをさせまいと急いで風呂から出た。そしてもう撃沈だった。
どどどどうしよう…………。
一番やってはならん事をやっちまったよ……。
やっぱ私とはやだったよね?ていうかなんか引かせちゃったのかな?可能性否めねぇ……!!…あぁ、もう最悪。誰か教えてくれてもいいじゃん………。ていうか私を殺して誰かぁぁぁ…………!
叫びそうなのを耐えて私は髪を乾かして寝る準備をした。ダメだダメだダメだ。奈々が来たら気まずいけど全部私のせいだし奈々に気を使われないように先に行動しよう。もうこれ以上嫌な思いとかさせたら奈々にも悪いし罪悪感で具合悪くなりそうだし。
私は反省は後でやる事にして風呂から出てきた奈々が気まずくないように笑って話し掛けた。
「奈々、化粧水とかこれ使ってね?」
「う、うん。ありがとう」
「あ、あとヘアオイルも使ってね?ボディクリームとかもあるし」
「うん…」
軽く笑いながら会話はできてるけれど、奈々は気まずそうだった。まぁ、そうだよね。顔合わせてるのも申し訳無くて吐きそうだけど今日はもう終電もないし危ないから泊めて明日帰らせてあげた方がいいか。
明日私から切り出して早く帰そう。そして、私は反省の日々を送ろう。やらかした私の当然の報いよ。
私はそれから沈黙にならないようにテレビをつけて一生懸命笑っているふりをして奈々が髪を乾かし終わってからまた声をかけた。
「奈々もう寝よっか?私床で寝るから奈々はベッドで寝ていいからね?」
「え?でも…」
「あ、いいからいいから!私はいいから奈々はベッドで寝て?ね?じゃ、もう寝よ」
前は一緒に寝ていたけどさっきの今では絶対ダメ。私は何か言われる前に言い切ってさっきクローゼットから取り出した毛布を床に広げた。私はこれを被って床で寝るのが当然の結果なのだ。だけど奈々は言いにくそうに言った。
「あの、あっちゃん?さっきのなんだけど…」
「あ、いいよ奈々。私は大丈夫だから」
謝らないといけないのは私だから少し強目に遮った。奈々にまだ気を使わせる気はない。
「さっきのは私が悪かったから本当にごめんね?奈々言いにくいかもしれないけど嫌だったらはっきり嫌って言っていいからね?奈々に嫌な思いさせたくないし私あんまり気付いてあげられないから」
「…あの、あっちゃんがそうやって考えてくれるのは嬉しいんだけどそうじゃなくてね、私……」
「奈々もう寝よ?さっきの話しはもう終わり。今日はもう寝よ?私もう寝るから電気消してね?おやすみ」
これ以上話してると失態に血を吐きそうだし奈々に悪い。奈々は話したそうだったけど私はもう強制的に会話を終わらせるべく床に横になって奈々に背を向けた。
顔を合わせるのも申し訳無いからこれでいいのよ。もう今日はこれで終わり。これ以上何か思わせてはダメ。
そうしてすぐに奈々はおやすみと言って電気を消した。
私はそれから全く寝れなかった。ていうか、あれでもう眠気なんかやってこなくて私はただただ反省していた。
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