第27話 どこでもイチャコラ 8/6(木)

 昨日のデートのことを思い出してはニヤニヤが止まらない。夕日の田んぼ道で自転車の二人乗りしたとき、スズカに背中側から俺の腰に腕を回された。目が回りそうな気分だったけど、安全運転を心がけた。二人乗りの時点で安全ではないという指摘は聞かないことにする。スマヌ。


 昨夜、高級アイスクリームの土産に双海はご満悦の表情だったけど、どちらかと言うとスズカとのデートの内容に満足してホクホク顔の俺の方を見て喜んでくれていた。

 俺達のデートが大成功だったのはプロデューサー双海のお陰だけど、双海はそれを自慢するでもなく喜んでくれているのでなんとも可愛い妹だと思う。今後もたくさん甘やかしてやろうと思う。




 今日明日明後日の3日間のシフトをこなしたら、8月の残り三週間あまりはシフトがゼロになる。要するにバイトは全休になるってこと。

 理由は扶養控除内での勤務ってやつで、パートのおばちゃんたちも扶養範囲内だったり社会保険の壁未満希望だったりする人たちは休みになる。

 俺には難しすぎてよく分からないけど、出来る時に調整出来る幅を大きく持っておいて、年末にあたふたしないようにするという仕組みらしい。


 物流会社って年末はかなり忙しくなるのだよ。クリスマス商戦だの年末商戦だのって一つにまとめてくれればこっちは楽なのにな、と去年の年末は泣いたものだ。クリぼっちだったから泣いたわけじゃないぞ⁉ 双海と二人で楽しいクリスマスだったからな! 寂しくなんか無かったんだから!


 コホン。話を戻すぞ。


 要するに調整のための調整が夏季限定短期バイトの投入で、夏休みの最初だけはOJTに俺たちが駆り出されているってわけ。

 スズカは元々土曜日と学校の休みの日限定の出勤だったから調整によるシフトを外す必要は無いのだけど、俺がシフト外れるから一緒の休みにしてくれた。


「8月の末日までは毎日一日中一緒にいられるね。はっ、もしかして私ったら重い女⁉」


 スズカは小声でぶつぶつと一人百面相しているけど、全部聞こえているからね? スズカと一日中一緒にいられるなら俺だって嬉しいから問題など無い。


 逆に交際の最初からたまにしか会わないとかいう方が俺的に嫌だな。やっぱり最初は思いっきりイチャつきたいしね。

 そんなことを伝えるとスズカは真っ赤になって「きょ、今日も暑いよね……」なんて言ったりしている。


「顔が赤いのはそのせいなのかい?」

「むぅ~ 無壱くんは時々イジワルです」


 スズカの頭を撫でてご機嫌取りをする。


「お~いぃ! そこのイチャコラカップルさんよぉ~ そろそろミーティング始めていいかな?」


 イケね。ここは会社で、しかも今は事務所前でのミーティング待ちの集合中だった。

 俺もスズカも二人の世界に没入しすぎて周りが全く見えていなかった。


「「はい。スミマセン」」


 スズカと二人でまた真っ赤っかになって滝のような汗をかきながら謝罪をしたところでミーティングが始まった。




 気を取り直して仕事はきっちり。今日も相手は須藤くん。

 数日OJT受けただけだけどかなりしっかりと作業を覚えている。かなり優秀だ。

 このまま短期バイトで止めてしまうのか、続けてくれるのかで教え方も変わってくるけど、最初から目いっぱい教え込むのは禁物だと上司から言われている。


『まずは仕事よりも作業を覚えるようにしてくれ。作業が出来るようになると仕事も自らできるようになるから。慌てては絶対に駄目だ』


 俺がここのバイトを始めた時に指導役の先輩に言われた言葉だ。


 作業も仕事も同じじゃないかと思ったけど、今思えばぜんぜん違う。


 作業って言われたことや指示されたことを間違いなくこなすだけのことだけど、仕事と言ったら作業に関わる周りのことが見えていないと駄目だし、そもそも自分で的確に判断して考えて行動することが求められるようになる。

 俺も作業は結構早くにこなせるようになったけど、仕事が出来るようになってきたって言われたのはホントここ数ヶ月になってからくらいだ。

 そう考えると土曜日ぐらいしか出勤していないのに作業だけでなく仕事がある程度こなせているスズカってやっぱりすごく優秀なのだなと思う。ちょっと凹む。いいや、凹んでなんかいられない。しっかりしよう。



 お昼は当然スズカと一緒に、そしてスズカお手製のお弁当をいただく。

 少しずつ工夫しているようで最初の頃のように一面が茶色いお弁当は見る影もない。今はすっかり彩りのあるお弁当に変わってきている。


「すごく美味しそうだ。短期間での上達ぶりがすごいね」

「あ、愛情の為せる業でしょ?」


 スズカは手で顔を扇いでいる。食堂はエアコンが効いているし暑くないのだけどね。

 自分で言って自分で照れている姿も可愛いな。ずっと見ていられる。ごちそうさまです。


「無壱くんはバイトのない間は何か予定はあるの?」

「来週はお盆だろ? ウチの親の実家と伯父さんの家に顔だしてお仏壇に線香上げたら終わりかな? 再来週は高校の仲間と旅行の予定で、最後の週の予定はノープラン」


「再来週はいないんだ……じゃあ、空いている日には私と逢ってくれる?」

「当然! 当たり前じゃないか! 俺だってスズカと逢いたいんだぜ」


 即答する。学校が始まったりしたら、なかなか会えなくなるのだから今のうちにでも逢えるだけあって逢い溜めしておく所存でございますが?



 今日早速家に帰ったら、何処に行きたいとか何をしたいとかの案を考えて、夜にチャットで話し合おうってことにした。

 だって、食堂ここでそんな話をしていると其処彼処からの視線が痛いのだもの。

 視線だけじゃなくて、みんなの耳もダ○ボの耳並みに大きくなっている気がしなくもない。

 それなりに人もいる広い食堂なのに俺達以外の会話もあまり聞こえてきていないのも怪しすぎる。


 そうして会社ではなるべくイチャついた話はしないようにして、夜にチャットや二人ビデオ会議を開いたりして計画を立てた。先日、父さんのお下がりの型落ちノートパソコンを貰ってビデオ会議ソフトウェアをインストールしておいた。スズカもパソコンは持っているようなので同じソフトウェアをインストールしてもらった。スマホと違って大きい画面での二人ビデオ会議が楽しすぎる。





 次の日曜日から暫くはバイトが休みだ。


 スズカとの遊びだけじゃなくて、学校の友だち連中とも出かける。

 スズカが小さい声で『再来週はいないんだ』と寂しそうに呟いていたのも実は聞こえていた。

 ……スズカもオジサンの別荘(笑)に連れて行っちゃ駄目かな? ちょっと相談してみよう。

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