第30話 デザート 8/9(日)-3/3

 やや短め


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「申し訳ございませんでした。重ね重ねの不手際、この双海なんら申し開きも出来ません」


 いやいや、悪い事をしたわけではないので申し開いて言い訳して貰っても全く構わないのだが、申し開きがどうこうとはお前は何処のサラリーマンなのかっての。そもそもどうしてそんな言葉遣いをしているのだ?


「やめて、やめて。さあ、立って。ね?」

 双海に走り寄って土下座を止めさせて立たせようと手を取るスズカにウルウルした瞳を向ける双海。何だろう、やたらと小芝居感があるのだけど如何なものでしょう?


「双海、もういいからさ。飯にしようぜ。折角作ってもらったんだから冷めないうちに食べたいしな」

「うう、ありがと。お兄ちゃん……お義姉ちゃんも椅子に座って待っていて。今用意をするね」



 双海がお昼ごはんとして作ってくれたのは、昼飯にしてはちょっと豪華だった。


 ハンバーグドリアにナポリタンスパゲティが添えてあるものがメイン。

 あとはスズカが持ってきてくれた朝採れ野菜のオクラを使ったコンソメスープに角切り野菜のサラダ。マセドアンサラダって言っていたかな? 俺にはこの名前覚えていられないな。さっき麦茶を取りに来た時に双海が一心不乱に切っていたのはこのための野菜なんだな。細かいし、きれいに揃っている。


「すげーな。だいぶ気合い入れたんじゃないか?」

「だって、謝罪だけでなくってお祝いの気持ちも込めてのおもてなしのつもりだったから、ちょっと頑張ってみただけだよ」

「すごいです、双海先生! こういうのも受験が終わったら教えてね」


「勿論だよ、お義姉ちゃん。それに謝罪することが更にさっき積み重なっちゃったからね……」

 そう言うと遠い目をする双海。


「「…………」」


 俺とスズカも同時に俯いて何も言えなくなる。さっきのシーンがフラッシュバックしてきて身体が熱い。


「双海……お前、一言二言余計なことが多いんだよ」

「あ、ごめん」

 双海は舌をペロッと出して頭をかいている。


「まあ、いいや。食べようぜ」

「「「いただきます」」」


 美味い。

 ハンバーグドリアは以前にも作ってもらったから美味いのは分かっていたけど、このスープはなんとも美味いな。


「何でこのスープはとろとろなんだ?」

「それね。お義姉ちゃんが持ってきてくれたオクラを刻んでコンソメスープに入れたんだよ。オクラのネバネバでスープがとろとろなんだ」


「そういうのって、本とかでお勉強するものなの?」

 スズカも興味があるらしい。


「ネットのレシピとかはよく見るけど、このスープは思いつきだよ。何時もいろいろ作っていると合うものと合わないものもなんとなくわかるんだ」

「双海ちゃんはすごいわね。やっぱり先生だね」


「お義姉ちゃんだって直ぐにできるようになるよ」

 ワイワイガヤガヤと食卓がにぎやかだ。


 ずっと気になっていたことを双海に聞いてみることにした。


「なあ、双海」

「ん?」


「お前、スズカのことお義姉ちゃん呼びなのは何でだ? 最初はスズカちゃんって呼んでいなかったか?」


「え? お兄ちゃん彼女になったのだからお義姉ちゃんで間違いないでしょ? え? 違うの?」

 キョトンとした顔で首を傾げる双海。


「あ、ああ、うん。違いないな。そうだなお義姉ちゃんで構わない、よな? スズカ」

 双海は勉強もできるし料理だってこの腕前。俺の世話を焼く姿をみると大人びているようだけど、やっぱり子供っぽいところを残している。


 なんともこっ恥ずかしく背中がムズムズするので、曖昧に答えてスズカに話を振ってしまった。

「あ、はい。お義姉ちゃんでよろしくですます」

 なんだか頬を染め嬉しそうに答えているけど言葉の語尾がおかしいぞ。


「で、でも双海ちゃん。双海ちゃんは無壱くん、お兄ちゃんのコト大好きでしょ? 私に取られちゃって嫌だ、とか無いの?」


「ないよ」

 一言。


「だって、お兄ちゃんはお兄ちゃんで私のことを守ってくれる優しい人だけど、あくまでもお兄ちゃんであって異性としてみるものじゃないもの。

 お兄ちゃんはお兄ちゃんだから、昨日みたいなことしても、恥ずかしいけど、気にならないかな? まさかお義姉ちゃんに見られているとは思わなかったけれど、ね」


 またもや遠い目をする双海……


 そういうことでお兄ちゃんを取られるとか取られないとかいう感情は全く無いし、その兄の彼女なのだからお義姉ちゃんで間違いはないということらしい。姉も欲しかったので可愛くて優しいお義姉ちゃんが出来て嬉しくて仕方ないって双海は言う。


 それを聞いたスズカは、双海に対してもデレデレになってしまった。二人で今度遊びに行こうなんて約束までしている。

 やっぱり兄妹だけあって考え方は俺と一緒だった。双海がブラコンでなくてホッとしたような残念なような。



 後片付けを三人でやって、リビングでテレビを見ながら食休み。


「スズカ。そう言えばさっきの話の続きなのだけど……」

「さ、さっき? 世界中で私しか見えないって――あれのこと?」


 そこまで言った覚えはないのだけどな。微妙に改竄が行われている疑いあります。双海もキラキラした目でこっちを見ないの!


「あ、いや、それはそうなんだけど一度それは置いておいて。俺の高校の友だち達と旅行に行くって件。さっき話が途中で違う方に……」


 スズカも先程の自分を思い出したようで真っ赤な顔でもじもじし始めた。やめて。おれまではずかしい……


「うん……行く」

「じゃ、そう連絡しておくな」


「お兄ちゃんもお義姉ちゃんもなにかある度に顔を赤くして可愛いね。微笑ましいったらありゃしない。今まさにエスプレッソをマグカップで飲み干したい気分だよ」

 そんなことを言われ、俺とスズカは再び見つめ合って顔を赤くする。


「チッ……イチャツキヤガッテ」

 双海さんや、女の子は舌打ちしては駄目だよ? あと聞こえてます。


 飯食った後はデザートとして甘くイチャつくのはだめなん?

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