第3話 砂糖まみれのクエスチョン? 7/8(水)
昨日はバイトしている最中ずっと駅の彼女のことを考えていた。たった2日間それもあんなに短い間視線が交錯しただけだと言うのに何で彼女が俺の心をそんなにも乱すのか?
彼女とは2日連続で目が合ったのだから、これはなんかしらのシグナルじゃないかと推測してみた。
適当かつ自分に非常に都合の良い推測でしか無いのだけれど俺の頭じゃそれが精一杯なところ。
別に、今のところ、あの彼女とお近づきになりたいとかお付き合いしたいとかそういうのは無い。
一応、まだ、な。若干怖いってところもなくもない。
駅のホームが離れているから視線以外で意思疎通ができないのが良くないのだと言う考えに至った俺は朝7時27分の下り始発電車がホームに到着する10分ほど前には下り線ホームで彼女を探すことにした。
いつもの自分がいる上り線ホームの場所のちょうど反対側の下り線側、電車の到着を並んで待っている人が見渡せる後ろの方で彼女のことを探すがどうも見当たらない。
普通に並んで立っていてさえくれれば見つけられる程度の人しかホームにいないのだけどな。まさか隠れているわけでもあるまいし。
7:20のいつも俺が乗らずにスルーする上り電車が出発していった。
次の便を待つこの時点で並んでいないと列の先頭や先頭近くを確保することは割り込みしない限り不可能なのだけど、彼女がこの場所に並んでいる様子がない。
程なく下り電車も1本入線し、遅滞なく出発していった。
(今日は既に前の電車で行っちゃったのかもしれないな。または休みか、だな)
次の当駅初の7時27分発の電車が入線してきた。
既に数人の乗客が車両のドアが開くのを待っているが、
そのまま、いつも彼女がいる場所の後方で粘って待ってみたが、彼女は現れることはなく、時刻は7時27分になり、電車は定刻通り出発していってしまう。
電車やホームの全てを見たわけではないが他の車両にも彼女はいなかったと思う。
次の上りの便は7時40分発で学校最寄りの高樹駅には8時10分到着。高樹駅から学校までは徒歩でもバスでも概ね15分かかるので8時30分に始まるHRにはぎりぎりとなるこの電車が、遅刻回避のための最終便になる。
よって次の上り便を見逃すと遅刻は100%確定してしまうので、俺は彼女探しを諦めて上りホームへ移動することにした。
乗らなくてはならない電車が来るまでは10分程度余裕があるので辺りを確認しながらゆっくりと俺は上り線ホームに向かった。上りのホームに到着した頃、丁度下り線ホームに7時38分発下り電車が入ってきた。
その車両を何気なく見てみると、なんと、ドアのところに彼女がいてこちら側のホームを見ては、キョロキョロと何かを探すような素振りを見せているではないか!
停車中の僅かな時間に視線を巡らせた彼女は俺を見つけ、何時ものようにじっと視線を合わせてくる。
さっきまで彼女はいなかった、ハズ。隠れていたのか?
それとも単純に遅刻したとか? いや、遅刻したのだったら通常ならいないはずのおれのことを探すような行動をするわけないな。
それなら何故? 俺との直接の接触はしたくない? でもじゃあなんで目を合わすのに必死とも取れる行動をするんだ?
うーん。ぜんぜんわかんないや。やっぱり彼女と話さない限り答えは出そうにないな……
そもそもさっきの調子では直接の接触をしてくれるかは分かんないけど。
俺は彼女と視線を合わせたまま上りのホームから彼女を乗せた電車を見送った。
3日連続、しかも3日目は滅茶苦茶おかしな状況での遭遇となっている。もう自分ひとりで考えられないくらい気になっていたので、学校で友だちに相談してみることにした。
「――ってなことが、ここ3日間で起きたんだけど、何だと思う? それとどうしたら良いと思う? なんか知恵貸してくれないか?」
「そりゃ、決まってるんじゃね? カガミに気があるんだよ、その娘」
「新よぉ~ そんなこと言ったって、下りホームに行くと隠れちゃうんだぜ。気があるなら会ってくれるんじゃないのかよ」
「そっか。さすが君島センセイ。伊達に年齢イコール彼女いない歴じゃないね~」
「うっさい新! 貴様も似たようなもんだろ?」
直克と新では話にならないということはよーく分かった。勝手に人の話を持っていって違う話にすり替えて盛り上がられたのでは時間の無駄だ。聞くんじゃなかった。
「水琴はどう思う?」
「ウチに他の女のことを聞くの? 酷い、むーちゃんひどすぎワロタ」
何だそれ。酷いって何が酷いんだよ。
「なんだよ、ワロタって。昨日の水琴の言い草のほうが酷いだろうが」
「だって~ むーちゃんが女の子の話ふってくるんだもん。そんなの面白いに決まっているでしょ~ ワロタワロタ」
水琴も一応女だから、駅の彼女の行動心理とか何を考えていそうかいうことを聞こうと思っていたけど、これは駄目だ。直克と新のことまで煽ってゲラゲラ笑っていて話にならない。
「――ということで恋愛マスター雅義様と陽向様にご教授願いたいのだけどよろしいでしょうか?」
「なんだそれ? 恋愛マスター?」
「マー君は恋愛マスターなんだ。あたし以外の女のこともよく知っているのかな? かな?」
「ふざけろよ無壱、お前。俺が分かるのは陽向だけだからな。他の女のことなど知るか! 俺には陽向しかみえないからな……」
なんで目の前でいちゃつかれなきゃいけないんだよ、まったく。
「五月蝿えよ、お前ら。さり気なく砂糖まぶしてんじゃねえよ。こっちはマジで聞いてんだからちゃんと答えろよ。頼みの綱はお前らしかいないんだからな?」
「あはは、冗談だってば。無壱ちゃんマジだって言ってるんだからマー君手伝ってあげてよ。お手伝いちゃんとできたらあたしがご褒美上げるから、ね?」
「ちっ、仕方ないな。無壱よ、陽向が手伝ってやれって言うから手伝ってやるよ」
「無壱ちゃんとその彼女がうまくいったらダブルデートだねっ」
雅義は陽向のご褒美に釣られただけだろ? なんだよご褒美って。
「ダブルデートってそもそも相手がどこの誰かも知らないのに気が早すぎるって」
なにはともあれ雅義は手伝ってくれるらしいので一歩前進、なのかな?
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