第2話 道迷い 7/7(火)

 7月7日。

 今日のポケットの中は安全安心。3回確認したから間違いない。


 今日は七夕だ。但し七夕だからと言って我が家では特にイベントらしいことは起こらない。

 俺は高校2年生で妹は中学3年生。両親は共働きで帰りも早くはない。

 七夕に夢を持つ年齢でもないので、笹飾りもしなければ願い事も短冊に書かない。

 妹が受験生なので願い事はあると言えばあったな。

 昨日のパンツでも笹に飾ってやればよかったかな?


 何時ものように7時27分発の始発電車が入線してくるのをボーっと待つ。

 ふと昨日のことを思い出し、下り線ホームに視線を向けてみた。


 いた。


 先頭ではないが、人と人の間からじっとこちらに視線を寄越している彼女が昨日に続き今朝もホームの乗車待ちの列のなかに見つけられた。

 彼女の前にいる人が動く度に視線は途切れるが、人が退けば再び視線は俺と交じる。

 この様子からして絶対に俺のことを見ているのだろうけど、彼女が誰だか俺にはやっぱりわからない。もしかしたら、今までもあそこにいたのだろうか?

 いや、女性の顔を認識するのが不得意な俺でもあれくらいの美少女を一度見れば忘れないだろう。

 たぶん? 自信はない。


 始発電車が入線してきて、ホーム側のドアが開く。

 当然、同じ時刻発なので下りの電車も同じく入線しており、彼女も既に車両に乗り込んでいるはずだ。

 俺もいつもの車両に乗り込みドアの窓から下りの電車を覗くが、やっぱりほんの少しドア位置がずれているせいで、彼女がいるであろう位置が見えない。

 停車中なら、近距離で彼女の姿が見られるのになんとももどかしい。


 上下線ともに同時刻に定刻通り出発。

 彼女とはドア越しに視線が再び合い、電車の移動とともに瞬時に離れていく。


 一体彼女はだれなのか?

 何故俺を見ているのか?


 朝の混雑したホームで反対側まで聞こえるような大声出して『何か御用ですか?』と声掛けできるほどの勇気は俺にはない。それに女の子に声を掛けるなんて行動自体俺にとって大の不得手行為なのだ。

 とはいったものの、万が一にもこれが今後も続くようなら声をかけるぐらいには一考の価値はあるのかな。

 まあ、彼女にとっても一時的な行動で、明日には俺のことなどこれっぽっちも気にしないってことも無きにしもあらずだからな。

 それはそれでなんとはなしに寂しい気もするけど……



 そんな事を考えていると電車は学校の最寄りの高樹駅に着く。


 高樹駅前は七夕の飾りつけ作業で朝から人が多く動いており、今夜は駅そばの商店街では七夕まつりが開催されると掲示板にはポスターがデカデカと貼ってある。

 今日の今日まで全く気づかない俺も俺だな。何故このポスターが目に入らなかったのか?


 いつも通る商店街の道が七夕の飾りつけのための高所作業車がいるために迂回措置が取られているので仕方なく今まで一度も通ったことのない小道に入りこむ。

 この小道は迂回路には指定されていないけど、多分向こう側のいつも通る道に抜けるのではないかという俺の野性的勘の予測だけで突き進む。

 子供の頃から、冒険とか大好きで野山を駆けずり回ったことを思い出す。




 さっきの視線の合う彼女。どこかで見たような気もしないでもない。と言っても全く思い出せないしモテない俺が女性と知り合う機会など学校ぐらいしかないと思うんだけどなぁ。小中学校の同級生? 同窓生? うーん……


 さて、どれくらいの距離と時間を費やしたのだろうか? あの娘のことをずっと歩きながら考えていたせいか、道に迷ったんじゃないかと思う。平地で遭難したようだ、そうなんだ! ……なんでも無い気にしないでくれ。


 てくてくと歩は進むが一向に出口は見えてこない。

 絶賛完全なる迷子中だ。

 仕方なくスマホを取り出し、マップを起動させようとしたところで声をかけられた。


「あれ? むーちゃん! こーんなところで何してんのぉ? もしかしてウチのこと迎えにきでくれたーん?」

「ん? 水琴? 水琴こそ何でこんなところにいるんだ?」

 声をかけてきたのは水琴だった。


「え~ だってウチん家、ここだもん」

「へ? 水琴ん家?」

 そこには看板があって『料理とお酒 佐嶋』と書いてあった。水琴ん家は飲食店を地元で経営しているって聞いたことあるな。それで水琴も一応料理部に所属しているのだっけな。


「俺さ、商店街の七夕飾りつけのせいで迂回させられて、挙げ句に迷ってここにいるだけなんだ」

「なぁんだ~ 迎えに来てくれたんじゃないんだね~」


「そりゃそうだろ。水琴ん家、今はじめて知ったんだから」

「そっかぁ~ あはは、じゃあ迎えになんか来られないね~」


 なんでそんなにお迎えにこだわるのさ。よくわかんないな水琴は。


「水琴、誰と話しているの? 早く学校行かないと遅刻するわよ! あら、どなた? 水琴の彼氏さんかしら?」

 水琴のお母さん登場。


「いえ、違います。同級生で友達ではあります」

「むーちゃん真顔で否定されたらウチも悲しい~ 少しぐらいはアワアワして照れてよ~」


「なんでさ。ほら、マジで遅刻するから案内してくれよ」

「ではでは、いってきます、お母さん」


「すみません。お騒がせしました」

「いってらっしゃ~い」




なにはともあれ学校に到着できた。


「あれ? お前が水琴と同じ時間に登校してくるなんて珍しいじゃん。いつもは余裕な時間で来ているのに遅刻ギリギリとは」

 雅義がいつもと違う俺の行動に質問してくる。


「駅前で道に迷って、水琴ん家の前まで行っていたからな」

「? なんで道に迷うと水琴ん家に行くんだ?」


「気にするな。ほらHRが始まるから自分の席につけ」

 大した理由でもないし、駅で会う女の子のこと考えていたら道に迷ったなんて言いたくなかったので適当に誤魔化しておいた。


 水琴は『また迎えに来てね~』などと言っていたが、駅からは考え事をしていて、水琴ん家から学校までは水琴がベラベラしゃべっていて道なんか全く覚えていないので水琴ん家がどこなのか全くわからないので無理です。


「むーちゃんのケチんぼ」

「ケチとかケチじゃないじゃなくて、なんで俺が水琴を迎えに行く必要があるのさ」


「なんだよ、水琴はイッチーのこと好きなのか?」

 直克が揶揄ってくるが、水琴はきっぱりと否定する。


「ウチがむーちゃんのことが好き? 無い無い。むーちゃんはウチの話何も言わずにずっと聞いてくれるし、いい人だけどむーちゃん自身は決定的につまらないから会話が弾まないもん」


 お迎えって行為自体テンション上がるし、家から学校まで無言よりずっと話を聞いてくれる俺が非常に便利そうだと言う理由でお迎えを希望されていたようです。


 俺も水琴のことをどうこうは思わないけど、なんだかちょっと悲しいです。

 でも、友達としては大好きだと言ってくれたのでボクハダイジョウブ。



>>>>>


相変わらず話の流れはゆっくりです。もう少しテンポ良くなるように頑張るので★で応援お願いします。クレクレw

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る