第17話 気づき 8/1(土)-1/2

今日の1/2話目です。どんどん流してしまいます。

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 土曜日、早朝。


 夏の日の日の出は早い。


 その日の出直後の時間にも関わらず我が家はドタバタとうるさい。


 階下の、たぶん台所あたりで双海と母さんがアレコレと騒ぎながらなにかしているようだ。

 両親も昨夜遅くに1週間の旅行から帰ってきたばかりだというのに元気だ。あ、聞こえてくる声からして母さんだけか?


「お弁当二つ作るっていうのに何でご飯全部食べちゃったんだよぉ! しかも食べっぱなしだし!」

「え~ 知らないもん」


「お母さん‼ 知らないもんじゃないよ、お兄ちゃんと私の分のお弁当が今日からいるんだからねってもうだいぶ前にお母さんに伝えてあったからね!」


「あれ? そうだったかしら」

「もう、惚けないでさっさと米を研いでご飯を炊く! わたしは今からおかず作るから!」

「……はいはい」


 昨夜旅行から帰宅した両親が、夜食でお弁当用のご飯とおかずを全て食べてしまったので、双海がお冠ということらしい。

 俺は別にコンビニ弁当でも構わないんだけどなぁ~



 なんだかんだ俺も今日のバイトが楽しみ過ぎて早起きしてしまったから、久しぶりに母さんと一緒に朝飯でも食うかな?


 父さんは……寝ているのだろな。今日明日で早めの夏休みは終わりだからゆっくりするって旅行に行く前に言っていたから昼まで起きてこなさそう。

 暗にお前らをどこかにつれていくということはない! と言っているようなものだけど、もうどこか連れてってとダダをこねないお年頃だからぜんぜん構わない。

 逆に一緒に行動するのが嫌なくらいだから無問題。




“ところで今の俺の思考の中に一部自分で思ってびっくりしたことがあります。

 さて何でしょう?


 はい、そこの無壱くん――

 ――はい、「母さんと朝飯でも食うか」です。


 はい無壱くん、ハズレ。現実から目を背けたい気持ちはこの無壱もよくわかりますが間違いです――

 では、そちらの無壱くん、答えをどうぞ――“




 ――くだらない。目を背けるのはよそう。


 俺はさっき、した、と自分で思ったのだ。


 では、なぜバイトが楽しみなのか?


 いつもバイトは楽しみか?

 嫌いではないし楽しいとは思うが楽しみとは違う。


 昨日一昨日と違い、食品倉庫の担当だから?

 ある意味そうだ。エアコンが効いていて涼しいし…すずし……スズ…カ……


 もう白状しよう、自分で自分に白状するだけだ。気にすることはない。


 今日のバイトはスズカと一緒なのが楽しみなんだ。


 夏休みに入ってもスズカと顔を合わす間隔は以前とさして変わらずの週一回土曜日だけ。

 今週に至っては、偶然だけど日曜日に駅であっているが、基本的に週一回だけだ。

 そう。今週は普段よりもスズカに会っている回数が一回多いくらいなのに……


 ……なのに、だ。すごくスズカに会いたいという気持ちと昨日一昨日と直ぐ近くに居たのに会えなかった悔しさというか悲しさというかよくわからない感情がある。


 俺に会えないと悲しんでくれているスズカにちょっと『嬉しかった』という自分自身の言葉は、素直な言葉というよりそのまんま俺の本意だったのだ。


 スズカも俺と会えなくて悲しく寂しく思ってくれている、と思う。俺自身がそうであってほしいという願望に過ぎないのかもしれないが。

 だから、なんて淡い期待もあるにはあるけれど、まさか俺に限ってそんなに都合のいいことはあるまい。

 そのような悲観的な考えも思考の海に見え隠れしている。俺の思考の海はなんで何時も時化しけばっかりなんだろう?




 どうも思考がネガティブに傾きかけたので、ベッドから這い出て台所に向かう。


「おはよう、お兄ちゃん」

「あら、早いわね」

 1週間ぶりだというのに軽い。まあ1週間じゃそんなもんか。


「アレだけうるさくされちゃ誰だって起きるよ」

「えー お父さんは寝ているわよ」


「父さんは別もんだよ。どこでも寝るし、起きないし」

「そーねー」


「お母さん‼ 話なんてしていないでこっち手伝ってよ。お兄ちゃん、そこのが朝ごはんだからどうぞ」

「あーい。いただきます」





 出勤の時刻になるので自転車を漕ぎ出す。少し早い気がするが気持ちを落ち着かせるためにも少しゆっくり行こう。


 俺の『スズカと一緒なのが楽しみ』という気持ちは、何なのだろうか?

 仲の良い同僚だから?

 毎日チャットする友人だから?

 双海が狙う高校の先輩だから?

 どれも当たっているようで間違っているような気がする。


 いや、何でいつまでも自分自身に嘘ついているんだろう。今朝起きた時点で薄々気づいていたのに。

 起きがけから自問自答して答えを自分自身で誤魔化して見ても、自分のことなので本当の答えなどわかっている。


 認めたくないだけ。

 認めるのが怖いだけ。


 中学生の頃、片思いしていた女の子に告白できず、苦しんで、グズグズ悩んで、やっとのことでダメ元と思い決意したら、既にその女の子は他の男子と交際を始めてしまった。 

 人知れず失恋をして誰にも何も言えず悲しみ苦しんだあのときの気持ちが蘇ってきて不安と恐怖が現れる。思考の海が時化てばかりなのはこの経験からなのは間違いない。


 誰かの歌ではないがもう恋なんてしないなんていうつもりは無かったけれど、こうも突然に不意を突いてやってくるものなんだな、恋ってやつは。


 スズカは、彼氏はいないって、いた事もないってこの前話していたから今もフリーなはずだし、もしこの短い間に彼氏ができて居たら俺と毎日チャットもしないはずだよな。


 そこは大丈夫、だと思うけど。

 スズカは俺のことどう思っているのか?

 そもそもスズカは交際とかする気が元々なくて彼氏が今まで居なかったとしたら?


 ……はあ、俺。スズカのこと好きなんだな。


 どうしよう、後数分で会社に到着するし、顔合わすんだよな……どんな顔で合えばいいんだろう?

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