第22話 有働凉風

「――スズカ、好きだよ。俺と付き合ってくれ!」

「――私も無壱くんが好きー! 大好きですっ」


 無壱くんに告白してもらえた。私も無壱くんに気持ちを伝えることが出来た。

 その後は感極まり二人で涙を流しながら抱きしめあった。

 いきなり抱きしめ合ったりしてしまったけれど、その時は余計なことは何も考えられなかった。


 とにかく無壱くんが大好きで、今この腕の中に無壱くんがいること、自分が無壱くんに抱きしめられていることで胸がいっぱいだった



 私は無壱くんに抱きしめられながらこの一月を思い返した。



 ★



 私には気なっている男の子ひとがいる。

 気になっていると言うか……ぶっちゃけ好きです。ものすごく好きでたまりません。

 自分の心の中での告白なのにすごく恥ずかしくて身体が熱いです。


 今は大学に通うために一人暮らししている兄から貰った大きなくまのぬいぐるみを抱きしめてベッドの上でゴロゴロ暴れています。

 先日、自室の床で同じ様に暴れたらお母さんにこっぴどく叱られたので、ベッドの上でゴロゴロするのに収めるよう努力しています。


 話が逸れました。


 私の好きな人は同じバイト先にいる男の子で各務無壱かがみむいちさんといいます。


 引っ込み思案の自分から声をかけて本人に名前を確認するのが恥ずかしくてできなかったので、タイムカードと本人の名札をこっそりと確認しました。


 彼は私が重い商品を担当して四苦八苦しているのをさり気なく手伝ってくれたり、私に気兼ねさせることなく交代してくれたりする優しい人です。


 そういったことに、小さな声でしかお礼を言えなかったことが大変情けなく心苦しく、また心残りです。


 彼は、たまにいる女性に優しくする俺かっけーみたいなことは一切なく、また私にだけ優しいのではなくおばさまたちにもちゃんと優しく配慮できる人です。


 私は気がつけば彼のことを目で追うようになっていました。でも人見知りで見た目のあまり良くない私ではつり合いが取れないにので遠くから見るだけにしています。


 でもやっぱり、どうしても彼との接点が欲しくてたまりません。そこで私はある作戦を思いつきました。

 自分から話しかけることもなく、話しかけられる可能性を高め、もしかしたら仲良くなれるかもしれない作戦です。


 非常に自分に都合がいい考えだとは思いましたが、これでさえも私には目一杯です。


 7月最初の週の日曜日に学校の最寄り駅にあるお店で、生まれてはじめてお化粧品を購入しました。

 ピアスの穴は中学生の時に、おふざけで開けていたのですが今はバイトのときだけ、小さい珠状のものやお気に入りの星型のピアスをしたりしています。


 私の最大限のオシャレですが、各務さんは気づいてくれるかしら?


 さて、私が何をするかと言うと朝、通学の時お化粧して髪型もちょっと今どき女子高生風にして各務さんにアピールして見ようとしています。

 各務さんは気づいていないようですが、上下線で違いますが同じ時刻出発の電車に私も通学で乗っていたのです。

 なので、こんな私もいるよ、って遠目からアピールしてみようかと目論んでいます。


 各務さんに声をかければ一回で済むことナノは分かっています。それができないから、キラキラ女子高生に変身してアピールなのです。


 バイト先のオジサンと一緒に週刊誌のグラビアページを食い入るように見ていたので、絶対にキラキラ系が各務さんの好みなんだと思う。

 本来の私とは違いすぎるけど、もしかしたら、気に入ってくれるかもしれないとの希望を持っています。


 学校に着く前にはお化粧も落とし、いつもの私に戻すのは忘れません。学校でそんなコトしたら目立ってしまいます。目立つのは苦手ですから。



 この作戦は半分成功半分失敗です。


 各務さんは駅で私に気づいてくれ視線も合わせてくれました。お友達まで使って私に接触してこようとされたのは驚きましたが……

 その週の土曜日、各務さんは私に声をかけてきてくれました。天にも昇る心地で嬉しかったですが、顔には出しません。我慢です。だって各務さんは駅での私を今目の前にいる私だと認識していなかったからです。わからないほどの変装はしていないつもりなのですが。

 それに何故、私は我慢してしまったのでしょう? 自分でも意味わかりません。でも仕事を手伝ってもらったお礼だけは今回ちゃんと言えました。




 翌日は日曜日でしたが、じゃんけんに負けて生徒会の書記をやらされている私は朝から登校しておりました。


 校門のところで中を覗いているイチャつきカップルがいるって騒ぎを聞いたので、ちょっと覗いてみたら各務さんでした。


 私は悔しさと悲しさと怒りにココロが引き裂かれそうでした。


 何かの間違えであってほしい、そんな思いで翌日からも先週同様お化粧して目を各務さんと合わせるようにしましたが、どうにも怒りや悲しみを全面に出しすぎたようです。

 真相を確かめてやろうとバイトの土曜日にも各務さんの行動に私は睨みを利かせます。


 お昼休み、彼は私のことを『スズカちゃん』と呼んで声をかけてくれます。

 思わずデレそうになりましたが、堪えました。


 なんと彼はお弁当を作ってもらって持ってきました。あの彼女でしょうか?

 でも彼は私に極普通に話をしてきてくれます。



 ……先ず私は勘違いをしていました。学校で見かけたのは彼女ではなく妹さん。

 来年度、私の通う高校を目指しているとのことで見学しに来たということ。

 それと恋人が作ったと思い込んでいたお弁当も妹さんが作ってくれたものでした。

 高校の話を既に通っている私に聞いて妹さんに教えてあげたいとのことで、私に話しかけてきてくれていたのです。学校のことかと残念な気持ちと彼に話しかけられたことに対する嬉しい気持ちがごちゃまぜです。


 それならばと、私の一世一代の大勝負、連絡先の交換を申し出ました。


 やりました! 各務さんの連絡先ゲットです。



 ★



 なんとなく習慣になってきたので、朝の通学のときはキラキラ女子高生で無壱くんに会うことにします。文字だけだけど各務さんから無壱くん呼びに変わったのでテンション爆上げしてしまい、昨夜またお母さんに怒鳴られました。


 私の方もスズカちゃんから、呼び捨てでスズカって読んでもらった。むちゃ特別感があってコチラもテンション上がります。



 さて、この1週間のメッセージのやり取りで分かった衝撃の事実があるのです。


 もしやとは思っていたけど朝、駅で私と毎日目が合っているというのに、スズカだと気づかれていない。あまつさえ、あの娘誰だか知っているかと聞かれるほど。私は思わず知らないって誤魔化してしまいました。そのせいでメッセンジャーの返信機能ももちょっと偽装したりしました。


 私のやっていたことって………無駄もいいところだったけれど、面白かったのは確かなので良いことだったと納得させる。そのせいで彼に対する申し訳無さにはつい目を瞑ってしまった。

 それに無壱くんの物凄い下手くそな似顔絵も見られたのでたいへん満足だったのは否めない。


 その週のバイトは朝から無壱くんとずっとペアを組んでの仕事。もう最高、時間の経つのが早すぎる。

 なのに翌日日曜日にも無壱くんと出会ってしまう。日差しのある日中にダサ眼鏡制服姿は見せたくなかったけど、無壱くん的に悪い方に捉えなかったみたいで可愛いと言ってもらえた。えへ♥


 初めて会話した妹ちゃんもすごく可愛かった





 でも悪いこと、隠し事ってバレるんだなと思った。水曜日、夏休み中の最後の生徒会活動が少し押してしまい、夕方までかかってしまった。UVカットメガネは夕方だから不要だし暑いし邪魔と、外してしまっていた。


 そんな時にかぎって、無壱くんと合ってしまう。彼が、「ねえ! 君」と声をかけてきたことで、ではなくに声をかけてきたことは明白。

 思わず顔を背け逃げ出してしまった。

 あのとき、後ろからぶつかってしまった方、誰だかわかりませんがこの場をお借りしてごめんなさいです。


 だけど、結果的にこれらのいろんな行動が最終的に実を結ぶことに繋がるなんて全く考えていませんでした。



 無壱くんのお宅にお呼ばれされたこと、料理を双海ちゃんに教えてもらうのがメインだったけど、無壱くんお部屋に入れたこと。私の失くしていたピアスが無壱くんの手元に行っていたこと……


 いろいろな偶然が重なり――もう必然と言っていいよね――二人は恋人同士になれたんだ。



 ★



 暫くして落ち着くとなんとも言えない恥ずかしさが台風の日の高波のように襲いかかってきました。

 TVでしか高波など見たことはないけど、たぶんこんな感じのはずだ。


「二人して『好き好き』言い合いながら泣いて抱き合っていたなんて誰にも知られたくないし、二人だけの秘密すべきことだ」

 無壱くんに提案されたけど、例え提案がなくても絶対に他人に、いや親だろうと誰だろうと言えるはずがない。


 否もなく了承したのは当然。


 恋人となったら対等でいたいからと、敬語みたいに丁寧語で無壱くんと話さないように言われた。

 でも、無壱くんに対して尊敬の念があるから丁寧になっちゃうのはしょうがないよね?



 無壱くんが彼氏。

 私の彼氏。

 恋人同士なんだなぁ




「みんなが帰ってきたら絶対にからかわれるから、そろそろ送っていくよ」

 もうそんな時間なんだ。

 帰りたくないけど、そうは行かないもんね。


 帰り道、初めて手を繋いだ。

 今朝迎えに来てもらった児童公園まで送ってもらう。


 丁度お母さんの軽トラが駐車場に入ってきたので、そこで無壱くんと別れた。

 手を離すのが名残惜しかったけど、お母さんに見られると恥ずかしいのでしかたなく離す。





 私は彼が見えなくなるまで手を振った。彼も振り返してくれていた。


 軽トラの中でお母さんは特に何も言わなかったけど、ずっとニヤニヤしながら運転していたから絶対にバレている。















 夕食後、全部白状させられた。

 帰宅後すぐシャワーを浴びたのだけど、汗だくになってしまったのでシャワーを再度浴びるはめになった。洗濯物が増えたのはお母さんのせいだからね。



 そして二人だけの秘密は秘密のまま。



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なんだかすごく長くなった……

良かったね。凉風!

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