二代目なのか?

第23話 義海 8/3(月)-1/2

 俺とスズカとの交際が始まったからと言って世間は平常通りで、あたかも何もなかったように当たり前の日常が繰り返される。


 さて今日も普通にバイトのある平日。しかも自ら望んだとはいえ今週は月曜日から土曜日まで水曜日を除いて毎日バイト8時半から17時半の8時間ぎっちりなのだ。

 以前もっと働いても構わないだろうと思い聞いたのだけど、17歳だし高校生だしで法的なあれこれがあるので働いてほしくてもそうはいかないのだよ、と現場の課長さんに説明された。

 法的な時間縛りがあるというけれど、夏休みに限らず平時でもたまに早く作業が終わってしまうと15時ぐらいで切り上げられることもある。やる仕事がなければ バイトだから帰らされるのも仕方ないとは思うし、そこいらへんは反発することもなく割り切っている。

 ちなみにこのバイトの勤務状況はスズカもほぼ似たような条件のようだった。


 ただスズカと恋人同士になってからはバイトが早上りになって時間ができることも、水曜日が休みなのも本当に良かったと思っている。兎に角今は非常に嬉しい。

 云々かんぬんと言っているが、要するにスズカともっと一緒に居たいし、ちょっとだけでもイチャついたりもしてみたいなどという欲望が湧き出てきているだけなのだ。俺だって高校2年生の健康的な男子なのだ。初めての彼女に浮かれても仕方ないだろう?


 スズカと俺はバイト先ではいつも一緒に働けるわけでは無いからなるべくお昼休みは一緒に過ごす様に段取りをするようにした。


 そして今日からお弁当は双海からスズカに作ってもらえるように変わった。


 双海も受験生だから少しでも負担が減れば違うのではないかな? と思ったけどどちらかと言うと双海は不満そうだった。

 だからなのか『夕飯は私が作ったものを食べてよね!』とゼッタイを強調された。受験生に夕飯を作らせ続けるのもどうかと思うので、ちょっとしたものぐらいは俺も作れたほうがいいのかと思うのだけど、それってどんなものなのだろうか?


 そんな話をスズカにしてみると「私が作りに行こうか?」なんて言ってくれる。


 俺としては嬉しい限りなので思わず『お願いします』と言いそうになるが、しょっちゅうだとスズカに負担が掛り過ぎで逆にコチラが恐縮してしまいそうなので、週末とか本当に時間がある時には、とお願いをしておいた。


 スズカは「私なら大丈夫なのに……」と少し剥れたけど、了承してくれた。幸せすぎて、俺、どうにかなりそう……






 午後になると新人短期バイトの須藤くんと一緒。

 彼は土曜日に教えたことの半分以上を既に身につけていたので驚かされる。


「各務さんの教え方が上手だからですよ」と謙遜するが、動作がテキパキしているので教え方云々でなく本人の努力と才能だと思う。ピッキングの才能っていうのも微妙なのでそれは須藤くんには伝えなかった。


 現場でスズカとすれ違う際にはアイコンタクトで挨拶していたが、早速須藤くんにバレた。


「各務さんの彼女さんですか?」

「お、おう」


「可愛らしい方ですね。羨ましい」

「そ、そうか? ありがとう」


 スズカは今日から室内での作業時にはメガネを外している。

 ピッキングのとき化粧がついたら駄目だからって、化粧はしていないけど、駅のホームで視線が合ったときのような雰囲気にちょっと俺はドキドキする。


 今日は須藤くんの活躍もあって、遅滞なく商品の分配は終わった。

 他の遅れているところを手伝ったり、空きダンボール箱を片付けたりして定時より1時間も早く作業は完了したので俺とスズカは早上がりして帰ることにした。





 空はまだ明るいけど、スズカを家の近くまで送っていく。


「うち、ほんとに田んぼの中だよ。びっくりするから」

「へー 俺んちの方でも田んぼだらけだと思っているけど、スズカんちはそれ以上なんだ」

 線路を挟んでスズカの家のある側は田んぼと畑が沢山あって人家が少ない地域なのだ。


「そうだよ。無壱くんちは一面だけ田んぼに向いているけど私んちなんて全面田んぼと山だもん」

「山?」


「今TVでもよくやっているでしょ、里山ってやつ」

「ああ、はいはい。え? 自分ちに里山が付属しているの?」


「付属って、あはは。面白い言い方するね。自宅の裏が低い山なんだよね」

「子供の頃はお兄ちゃんとよーく掛け擦りまわったりしたよ。今でもちゃんと手入れしているんだから。たまに私も手伝わされるし」


「へー そうなんだ。面白そう」

「今度手伝ってよ」


「俺が行っていいのかな?」

「いいに決まっているよ。わ、私の彼氏なのだから……」

 不意の言葉に言った本人も含めて二人して真っ赤になる。まだ慣れない……



 プップー

 軽トラが俺達の直ぐ後ろにいる。

 振り返ると運転手はスズカのお母さんだった。


「あれ、昨日の男の子だね。うちの子を嫁に貰ってくれるって?」

「や、やだ。お母さん止めてよっ」


「昨日の夜なんかこの子燥はしゃいじゃって大変だったんだから」

「やーめーてー」


「折角だし彼氏くん、ちょっとウチに寄っていきな」

「イヤ。スズカを送ったら帰るつもり……」


「いいから、いいから。早くおいで!」

 スズカのお母さんに強引に誘われてしまう。この誘いを断るだけのスキルは俺にはない。


「強引でごめんね。いつもあんななの。昨日もいいって言うのに公園まで送ってくれたし」

「ううん、明るくていいお母さんじゃない」





「散らかっていて恥ずかしいけど、どうぞ上がって」

「お邪魔します」


「はいはい。どうぞ、えーっと」

「あ、俺各務無壱といいます。昨日からスズカさんとお付き合い始めました。よろしくおねがいします」


「あっら~ やっぱり彼氏くんなのね。スーちゃんおとなしいくせにやるわね」

「もう、ほんとヤメテ」


「あははは、恥ずかしがるコトないでしょ~ こんないい男捕まえてくるなんて……ん? 各務くん?」


「はい、各務です」


「狐塚のおうち?」


「え? 狐塚神社の方はもう無くなりましたが祖父の家が有りました。親戚は住んでいますけど、ご存知なのですか?」


「お父さんは各務義海?」


「はい、そうです。義海が父です」


 スズカのお母さんはなにかもの凄く合点がいったという顔をして笑い出す。


「あー はい、はい。なんだぁ、スーちゃんの彼氏はよっちゃんの息子かぁ」


「?」

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