第14話 暑いけど手を繋ぐのは既定です 7/26(日)

本日2話投稿の2話目です。

ご査収いただけた後、お忙しいところお手数ですが

お星さまをよろしく願いいたします。

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 日曜日。


 夏休み2日目。


 だからなんだと言われても特になにもない。まだ感覚的にただの週末の土日休みにしか感じていない。明日も結局宿題をやりに学校に行くのでなんだかおかしな感じだ。


 そして今は朝6時半で、俺はもっと寝ていたいけど双海に叩き起こされた。1時間も前に顔を出しているお天道様は朝からギラギラと今日もお元気そうで何よりです。




 俺は今日、双海が高校受験対策の夏期講習に申し込みに行くというので隣町にある予備校まで付き添わなければならない。親と一緒に申し込みに行くのが本筋だと思うのだけど、我が両親はなんと昨日から早めの夏休みをとって今月いっぱいかけての旅行中で不在と来たものだ。ふざけろよ?


 両親ともに同じ会社に勤務しているが、この会社は規定のお盆休みがない分、順番で5日間の夏季休暇を取得するようになっている。月曜日から金曜日まで夏季休暇を取ると前の土日と後の土日で都合9日間の連続休暇になる。とは言っても取得方法は人それぞれだと聞いた。5日間を全て金曜日に振り分けて3連休を5回繰り返す人もいるとか。


 わが両親は次の金曜日に帰宅して、土日とゆっくりしたら仕事に復帰するというスケジュール。俺たちのために何時も遅くまで働いてもらっているから文句は言わない、言えるわけがない。けれど、今日はもう少し寝ていたいんだ、俺は……

 昨夜結構遅くまでスズカとチャットしていたので眠いだけなのだけれど。最後はオヤスミの挨拶もなく俺が寝落ちしていたのでさっき謝罪だけしておいた。すぐ既読ついたのでスズカももう起きているのだな。


「お兄ちゃん? 何を黄昏れているの。早くご飯食べて用意してよ」

「ああ。でもまだ7時前だろ? 予備校の受付は10時からだったよな? 早すぎない?」


 さて夏期講習は8月の1ヶ月間で土曜日と祝日も含み、日曜日だけを除く毎日というとてもじゃないが俺には無理なボリュームだ。

 双海のやる気と根性には驚く。そこまでして誓鈴女子校に入りたいのだと思うと感心してしまう。俺と比べ目標意識がしっかりしていてなんとも自分が情けなく感じてしまう。

 スズカも受験前にはそれくらいやったのだろうか? 後で聞いてみよう。いや、下手に聞くと俺の落ち込み具合が深くなりそうなのでやめようかな……



 食事も片付けもその他の家事も全部終わらせて、身支度までしたら丁度いい時間になっていた。6時半起床は間違いではなかったのが見事に証明されてしまった。


 双海のドヤ顔がちょっとムカついたので、セットした双海の髪を撫でくりまわしてやった。

 怒りながらも嬉しそうにする双海がよくわからん。

 ということで想定通り9時に家を出て、通学のときとは逆の下り線ホームにむかう。


(夏休みの間は、あの彼女とも会わないんだよな)


 残念な気持ちも無いわけでもないが、会ったところで何をどうするかなどなにもない。


 時刻はまだ9時半前だというのに、今日もまたアスファルトが溶けるんじゃないかと心配しながら車のボンネットで目玉焼き焼けそうなレベルの日差しが、ジリジリと肌にダメージを与えてくる。目的地どころか中間地点の駅にさえ到着していない道程で既に帰りたくなってくる。


 俺の隣を歩く双海も何時もは俺の腕に自分の腕を絡めてベタベタと甘えてくるのだが、この暑さのせいで、汗で物理的にベタベタしそうで腕を絡めてくることはない。


 但し腕は組んでこないが、代わりに手はしっかり握って来ている。もっとも手のひらには小さいハンカチが込められて手汗を吸い取る役目をさせられている。

 そこまでして手は繋がなくてもいいような気がするが双海曰く兄妹はお出かけのときは腕を組むor手を繋ぐが、必須なのだとか。本当かよ?


「お兄ちゃん、ほら見てみなよ」


 双海の指差す先には麦わら帽子の小学2年生くらいの男の子とまだ幼稚園児ぐらいの同じく麦わら帽子に髪型がツインテールになっている女の子が手を繋いで歩いている。

 公園に蝉取りにでも行くのか、児童公園の中に虫取り網を持って入っていった。


「ほら、じゃないよ。アレどう見ても子供じゃないか? 俺たちは高校生と中学生だぞ? やっぱりおかしいんじゃないのか?」


 俺は繋いだ手を振りほどこうとしたが、双海はむんずと手にチカラをいれて離してはくれない。この手は無理やり力ずくで離すことは容易にできる。が、直後に双海の機嫌が悪くなることを承知できるなら、と言う条件が付随してくる。オプションではない。俺には無理。


 そんな双海だが、唯一手を離してくれる場面がある。


 双海の同級生や先輩後輩らしき知り合いと遭遇したときである。

 さっと繋いだ手を離し、彼彼女らと一言二言会話して別れる、このときだけは手を離してくれるがその彼彼女らが見えなくなるとやっぱり手を繋いでくる。

 知り合いには兄と手を繋いでいるところは見られたくはないようだ。それならば兄である俺と手をそもそも繋がなければいいのにと思わなくもないが、そんな事俺は言えない。

 いろいろと定義や行動等々分からないところがあるが、もしかしなくても双海はやはりブラコンってやつなのかもしれない。



 通常の時間よりやや時間がかかったがやっと駅についた。

 吹き抜けで屋根と壁があるだけなので、駅舎もぜんぜん涼しくない。ただ日差しがないだけ幾分楽なのは間違いないが。


 改札を抜けて下り線のホームに降り立つと、偶然にもスズカが、何故か制服を着て電車の到着を待っていた。


「あれ、スズカ。おはよう、制服を着て今日は学校なのか?」

「わっ、びっくりした。無壱くんだ。おはようございます。どちらかお出かけですか?」


 初めてスズカの制服姿見たけど、可愛いな。すごく似合っている。


 スズカの出身中学校は、俺の家とは駅を挟んで反対側の学校だ。だから中学生の時もスズカの制服姿を見ることは叶わなかったわけだが、見たかったなとつくづくこの時思った。


 いい機会だし、すぐ横にもいるのでスズカに双海を紹介した。

「これが妹の双海。今日は隣町の予備校まで夏期講習の申し込みなんだ。スズカは学校にでも行くのか?」

「私は、生徒会の集まりです。日曜日なのに嫌になってしまいますね」


 スズカと双海の二人はお互いに情報のお礼とお菓子のお礼を言い合い、すぐに打ち解けてくれた。


 駅でスズカと別れると空かさず双海が囁いてくる。

「お兄ちゃん。スズカさんむっちゃ可愛い。絶対にモノにするべきだよ! 私もお兄ちゃんがその気なら全力応援する。絶対大丈夫だし! ただお兄ちゃんにその気がないなら止めてね。私が誓鈴に入学した後気まずいから……」


「……ぉぅ」


妹にそんなことを言われる兄の気まずさも考えてほしいところんだけどな。

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