第34話 ハーレム 8/15(土)-②

 やっとスズカが再起動リブートした辺りでさっきの美咲ちゃんがアイスカフェラテを持ってきてくれた。


 さっきはカフェの制服を着ていたのに今はどう見ても私服だ。

 持ってきたアイスカフェラテも3つある。


「改めましてこんにちは。さっきも言ったけど、井上美咲と言います。スズカの1年のときからのクラスメートで一番仲良くさせてもらっています」


 先程より数段階テンションを落として再度の挨拶をしてきてくれた。


「各務無壱といいます。つい2週間ぐらい前からスズカと交際をはじめました。よろしく願いいたします?」

「え~ なんで最後疑問形?」


「だって、さっきの勢いで来られてから時間も経っていないし。ごめん、スズカ。紹介してくれないか?」

 混乱したままでは話も出来ないので、取り敢えずスズカに説明を求めた。


「うん。無壱くん。この子はさっき自己紹介していたとおり井上美咲ちゃん。クラスメートで一番のお友達」

「へへ、よろしくね」


「それで無壱くんを駅で見つめるときの格好のアドバイスを理由も聞かずに受けてくれたのが美咲なの」

「彼氏ができたってことはお役に立てたのかな?」


「ま、まあ……」

「あ、そうでもないのね。ま、そんなもんかもね。あはは」


 軽い、というかおおらかだな美咲ちゃんは。いい友達だ。


「それで、井上さんはバイトはもう上がりなのかな?」

「井上さんなんて他人行儀だね。美咲ちゃんて呼んでね。無壱くん」


 他人行儀って他人だし、なんなら初めて会ってからさして時間も経っていないんですけど?


「お、おう。み、美咲ちゃんそれで?」

「ん? 何だっけ? あ、そうそう。バイトは終わったよ。だから……これから根掘り葉掘り聞かせてね、スズカ!」


 それからアレヤコレヤと美咲ちゃんに本当に根掘り葉掘り聞かれた。

 だけれども抱き合って泣いたことはやっぱり内緒だ。絶対に表に出してはいけない。スパコンでも解読できない暗号化すべし。


 ピロンピロンピロン♪


 スマホの呼び出し音が鳴る。画面には双海の二文字。


 うん。美咲ちゃんの圧に負けたせいで双海のことはすっかり忘れていた。二人に声をかけた後、席を外して一旦カフェの店外にでる。


「もしもし、ごめん。まだ駅ビルの中なんだ」

『なんで⁉ 忘れていたの?』


「そういうわけじゃないけどさ。お前も買い物するんだろ? どうせならこっち来いよ。2階のエスカレーター横のカフェ」


『ん。分かった。ソッチ行く。ナニカ奢ってもらうからね!』

「へいへい」


 カフェの中に入ってしまうと探す手間もあるし、ちゃんとここまで来られるかも心配だったのでそのままエスカレーターの前で待っていた。


 いま中に戻って美咲ちゃんの追求を受けるよりはまだいいとは思う。スズカ一人に美咲ちゃんを任せるのは申し訳ない気がするけど、彼女はスズカの友だちだし仕方ないとスズカには諦めてもらおう。

 美咲ちゃんは本当にスズカの友だちなのかと疑うぐらい正反対な性格していると思う。悪い意味ではない。ないったら、ない。


 5分ほどで息せき切って双海がやってきた。もう少しゆっくり来ても構わないのに……


「やあ、悪かったな」

「ほんとだよ。暑いんだからね! パフェを所望いたす」


「あいよ。好きなもの頼みな」

「わ~い! お兄ちゃん大好き!」


 そう言いながら腕に抱きついてくる双海はほんと現金なやつだよ。


 席に戻ると美咲ちゃんがぎょっとした顔をする。

 ああ、外に出たかと思ったら女の子を腕に絡ませながら戻ってきたらそりゃ驚くよな。


「あ、お義姉ちゃんただいま」

「おかえり~ 双海ちゃん。えっと、美咲。この子は無壱くんの妹の双海ちゃん」

「各務双海です。こんにちは」


「ああ、びっくりした。こんにちは、スズカの友だちの井上美咲です」

「俺が戻ってきたときの美咲ちゃんの顔ったらびっくりしすぎてすごかったからな」


 お口ポカーンってしていたよ。


「無壱くんすごいね。スズカに可愛らしい妹さんに私まで加えてハーレムじゃん」

「いや、なんでナチュラルに美咲ちゃんまでもが加わっているんだよ?」


 ほら、スズカが隣でプーって頬膨らましているよ。早めに謝っておきなさいな。


 今の席順は双海が来たので、スズカが美咲ちゃんの隣に移動してくれて、俺の正面に美咲ちゃん双海の正面にスズカという配置になっている。


 なので隣にいるスズカの顔が美咲ちゃんには見えていない。

「お義姉ちゃん大丈夫だよ。お兄ちゃんはスズカお義姉ちゃんのこと大好きすぎているから他の女の子なんて見えていないよ」


 いちごパフェを頬張りながらとんでもないことをあたかも当たり前のように言い放つ双海。うん、間違ってはいないけどここでいうことではないな。やめろ?


 双海の食べているいちごのように真っ赤になるスズカといいもの見たとホクホク顔の美咲ちゃん。

 俺は天井を見上げ、シミの数を数えることにした。




 美咲ちゃんと別れた後は当初の予定通り、双海の買い物をしてから帰宅の途に着いた。


 母さんに連絡をしておいて、駅まで迎えに来てもらう。


 買ってから分かったけど、これは迎えを頼んでいてよかったと思う。両手にいっぱいの紙袋にビニール袋。

 買ったキャリーケースにまで買ったものが入っているからな。これを明日中に纏めないとならない。


 もう少し早く帰って来られたならよかったかな。


「しょうがないよ。美咲ちゃんが盛り上がっていたし、私達をお祝いしてくれるなんて嬉しいものね」


「まあ、そうだよな。なにか手伝うことがあったら何でも言ってくれ。俺の準備はとっくに終わっているからフリーだからな」


「なーっ! 私のは! 妹思いのお兄ちゃん? そこどうなの?」

「ちっ。しょうがないな。手伝ってやるよ」


「ちっ、って言った! お兄ちゃんがいま舌打ちしたよ! お義姉ちゃん! 兄が虐めます、助けて」


 スズカの家につくまでそんなやり取りがずっと続いた。


 ほとほと疲れたけど、双海もはしゃいでいるので余程楽しみなのだと思う。


 あっちでも一人受験勉強だろうけど少しは息抜きができればいいと思う。頑張っているのだから少しはご褒美が必要だよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る