第6話 スズカちゃん 7/11(土)
土曜日。
現在7:20とデジタル時計は表示している。
今日は朝8時30分からバイトなのにしっかり雨が降っている。梅雨もそろそろ明ける時期なのかしっかりした雨が降ったのは1週間ぶりくらい。先週の土曜もたしか雨。
仕事場は屋内なので雨だろうと関係は無いが自転車通勤時の雨合羽が面倒くさい。
昨日まで1週間顔を合わせていた駅の彼女のことは気になるが、どうせ駅に行ったところで彼女の学校も休みだろうから会うことは叶わないし意味も意義もない。
俺のやっているバイトの仕事内容は物流倉庫の荷降ろしやピッキング作業。
ピッキングの方は、オバちゃんや女性のパートさんや学生アルバイトがメインでやっている。
ピッキングは軽くて数量も少ないものをメインで集めているから力はいらないがたくさん歩くことになる。まあ、偶に激重な商品があったりするけどな。
俺はピッキングで集められた商品が入っている折りたたみコンテナ、略して折りコンをカゴ台車に積んでいったりパレットに積んだり下ろしたりの力仕事がメインの担当にされている。高校生は普通ピッキングの方に回されるのに俺はガタイがいいせいで、頻繁に力仕事が回ってくる羽目にある。嫌いではないので俺的には一向に構わないけど。
土曜日は「おおもの」の入荷日とここの倉庫は決まっている
「おおもの」とはいっても、多物だったり単純に重たい大物だったりとその時によって違う。
今日のメインは米だった。
2Kgと5Kg入りが各300袋ずつ。10Kgと15Kg入りが各100袋ずつに20Kg入りが40袋で30Kg入りがなぜか120袋入荷していた。
米も品種が多くて重さよりもブランド分けのほうが面倒くさいかもしれない。
パレットに乗った米袋がラップでぐるぐる巻きになっているのを解いて、手押し台車に乗せて指定の箇所に仕分けて運んでいくだけなので難しさはほぼ無い。
この仕分けの時、米袋のビニールは普通のビニール袋と違って丈夫とはいっても尖ったところに当てると破れてしまうので注意が必要だ。
俺は以前破いてしまったことが有り、パートのおばちゃんが汚損品の社内販売で買って帰っていた。
偶にあるのだけど、フォークリフトのオペレーターがパレットごとひっくり返して、乗っていた商品がベコベコになってしまい一般販売不可能な汚損品扱いになることって。
そういったものは大体中身については問題がないけど、見た目が悪くなるので社内で格安で購入できたりする。
もちろん会社にとっては損害だけど、少しでも回収したいっていうことなのだろうか?
昼までかかって2/3ほど米は捌けたので、午後からは俺はピッキングの方に回された。
土曜日はパートのおばちゃんの出勤率が少し悪いので、だいたい午後からはピッキングに回ることが多い。
今日一緒なのは井上さんと木島さんというオバちゃんと竹島さんという土曜日だけバイトに来る中年のおじさん。
あと少し作業を手伝ったことが何度か合ったオバちゃんたちからスズカちゃんと呼ばれている女の子と俺の5人だ。他にももちろん作業者はたくさんいるけど今回の仕分けのグループとしては5人ということだ。
女の子は高校生ぐらいで身長155センチ程度、髪の毛を後ろで1本縛りしている黒縁メガネのおとなしい地味な娘。化粧はほぼしていない状態で耳に小さな星型のピアスをしているのが最大のオシャレって感じなのかな。
服装は作業着なので普段はどうなのかも知らないし、体型も分からないけど多分細いのだと思う。何度か、ちょっと重たい、今日入った5キロ入り米ぐらいのものを重そうに運んでいるのを手伝ったことがあるが、その時の会話ぐらいしか話したことはない。
小さい声ではあったが、ありがとうとちゃんとお礼が言えていたので、恥ずかしがりとかそういった類のタイプなのだろうと勝手に解釈している。
今日のオバちゃん二人は違うけど、オバちゃんなんか、やってもらえるのが当たり前みたいな人も中にはいるからな。
5人で約100店舗、220品種を仕分けていくがタブレット端末が誘導してくれるからそれほど大変じゃない。
自動的に担当者が振り分けられて、主にタブレット端末に表示された商品を商品棚に取りに行き、指定の店舗の籠や箱の中に収めていけばいいだけ。
大手IT系のネットショッピングのお店とかだと機械がピッキングしてくれるそうだけど、未だ人力が我社では主流。
作業しながらふと目をやるとスズカちゃんが重たいもの、あれは水のペットボトル、が振り分けられていた。か細い女の子にペットボトルの水はきついだろうから代わってあげることにした。
こんなの大したことでもないのに感謝され、逆に恐縮してしまう。
「これくらいは米に比べたら持ちやすくて楽なので大丈夫だよ。午前中なんて30Kgの米運びの大当たり作業だったんだぜ」
みんな多かれ少なかれ米など重量物はリストに入っているものなので、助け合いで片付けていくものだと俺は思っているので全く平気だ。
休憩時間はあるのだけれど各自タイミングが合わないので一斉に休憩にはならない。
それなので3時頃、タイミングを見はからって各々が各所で勝手に休憩するのがルールになっている。
商品の受け渡しの最中に偶然スズカちゃんと一緒になったので一世一代の勇気を出して声をかけてみた。流石に一世一代は大げさか……
「ち、丁度切りが良いから休憩にしないか?」
「……はい」
お互いに長いことこのバイトをしているが初めて二人きりでの休憩時間となったので特に話をする共通の話題がない。オバちゃんは勝手にべらべら話すので聞いているだけでいいので楽なのだけどな。
(くっそ、これが水琴の言う俺の話はつまんないってことに繋がるんだな!)
ここは気合をいれて話しかけよう。話している内になんとかなるだろう……
「あのさ、高校生なのかな?」
「はい、高校2年です」
よし! 偶然とは言え同い年なら話しやすい、かも?
「へー、俺と一緒だな」
「そうなのですね。一緒……」
「どこの高校行っているの? ああ、何だったら言わなくても良いからね」
「
「えっマジ? 頭いいところじゃん。俺なんて高樹高だもん」
「高樹高もそんなに悪くないですよね」
「そっかな? 中途半端って言われるよ」
「そんな事はないと思いますけどね」
――
思いの外、話がはずんだ、ような気がするけど大丈夫だったかな?
「お、時間か」
「あっ、各務さんいつもありがとうございます」
ん?
「先程の重いものなどいつも代わって下さったり、手伝って下さったりいただけて」
「いえいえ。どういたしまして」
「「では……」」
俺たちは残りの作業に互いに別れていった。
意外と俺も話せるもんだなと驚いたね。
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