第13話 双海のお義姉ちゃん 7/25(土)

今日も2話投稿です。コチラ1話目です。

ご査収ください。

>>>>>



 さて、本日夏休み初日である。


 ただし学生は今日から夏休みだけど世間一般の社会人は普通の土曜日でしかない。

 ということで、俺はバイト。


 それにしても朝から暑い。ついこの間まで毎日曇りがちで肌寒い雨が降っていたなど思えないほどの晴天で、まだ朝の8時前だというのにアスファルトの道路が溶け出すのではないかと思えるほどだ。



 自転車で会社に着く頃には既に汗だくで、更衣室で一度目の着替えをする羽目になった。

 汗だくのTシャツは水道水で洗ってハンガーに掛けておく。日向にかけておくとあっという間に乾くのでまた後で着替えるのだ。一日に何度も着替えるのに一々新しものなどに着替えていられない。そんな事したら洗濯物の山になる。

 その洗濯は誰がやるのかって問えば俺だし、それらを干す双海は迷惑を被るだけだ。だからこの方法で全く構わないのだ。


 着替えた後は事務所に行き、今日の予定表を確認する。

 今日は朝から最後まで食品倉庫でのピッキングになっている。


 竹島さんが急遽休みのため、ピッキングのほうが人手不足になっているようだった。俺の他にも何人か学生アルバイトが新規で入ってくるらしいが、それは来週かららしいので、本日の人手不足が深刻のようだ。


 二人一組でコンビを組み、読み上げとチェック、箱入れと補充の担当に別れる。今日やる仕事はそういうやつ。


 パートのおばさんはおばさん同士で既に組んで始業のチャイムが鳴るまで楽しそうに駄弁っている。おばちゃんは何時も楽しそうだ。


 結果として若い学生さんは今、俺とスズカしかいないので、あぶれた同士スズカと組むのが自然というもの。

 俺が二人組でやるときは竹島さんと組む場合がほとんどなので、そこそこ長くこのバイトをしているがスズカと組むのは今回が初めてだ。知らない仲でもないけどなんだか緊張したりする。



「あ、あの。かが、む、無壱くんは何でこのバイトをするようになったのですか?」


 この1週間でお互いに名前で呼ぶようになった。スマホの文字上だけど……

 そしてとうとう、今初めてスズカの声で、名前を呼ばれた。

 無茶苦茶照れくさい。多分俺の顔は真っ赤だと思う。

 陽向や水琴には名前で呼ばれてもなんとも思わないのに不思議なものだ。


 因みに彼女のフルネームが有働凉風うどうすずかであることもちゃんと確認済みだ。勿論本人に聞いたんだぞ。タイムカードの盗み見をしたわけではない。


「高校生のバイト募集は飲食店の店員が多くて、そういうの俺は苦手なんだよね」

 それなので力仕事なら大丈夫って見つけたのが倉庫業務のアルバイト。つまりここのバイトだ。

「へ~ そうなのですね」


「そういうスズカは? 女の子が好んでするようなアルバイトじゃない気がするけど」

「私も同じようなものです。私は引っ込み思案だからやはり店員さんとかは無理で。ちょっと憧れるのですが……」


 そんな時見つけたのかここの会社のピッキングのアルバイトだった。


「最初はですね、ピッキングってなんだろうって。玄関のドア開け泥棒? って」

 ピッキング泥棒って今どき流行らないよね。小学生くらいの頃かな、最後にニュースで見たのは。


「この仕事は黙々とやれるのがいいですよね。口下手の私でも全く問題なくできますもの」

 スズカは引っ込み思案で口下手。最近そんな風には思えないんだけどなぁ。


「俺とは話せるのにね」

「えっと……」

 スズカはもじもじとし、目が泳ぎまくってしまっている。


「ああ、ごめん。余計なこと言った」

「……はい。無壱くんは覚えてないかもしれませんが、最初の頃は本当に何も話せなくて、ある日とある商品が持ち上がらなかったとき誰にも助けを求められなくて、どうしようってなっていたのです。そんなときに、無壱くんが手伝うよって、ひょいひょいって重いもの持ってくれたのです。あのときはお礼もちゃんと言えませんでした。ごめんなさい」


「マジでおぼえてないや、ごめん」

 そんなことがあったような無かったような……ぜんぜん思い出せないな。


「先日、休憩の時話しかけてくれたときも、本当に嬉しかったです。自分から話そうとしていたけど、きっかけがなくてズルズルと時間ばかりすぎてしまいました。私は何時も遠くから見ているだけで、なんとも情けないと思います」


「そんなコト無いよ。あ、245番7個ね」


 俺たちは無駄話もしているけど手も足もしっかり動いていて、なんならパートのおばさんたちより効率的に仕事しています。


「じゃああの時勇気出して話しかけてよかったんだね」

「え? 無壱くんは私に声かけるのに勇気が必要だったのですか?」


「そりゃ可愛らしい女の子に声かけるのは、いくらスズカが同僚でも勇気いりますって」

「か、可愛らしい? わわわ、私が!」


「他に誰が居るの? 他はみんなオバちゃんじゃん」

「アワアワ……無壱くんはたらしですね」


「えー、酷い。素直に思ったこと言っただけなのに?」

「うー、そういうところがですよ」


 作業は恙無つつがなく進み、お昼休み前には終わってしまいそうだったので、ちょっとペースを落として時間調整までした。



 お昼休みのチャイムが構内に鳴り響く。

 一斉に休憩には入れないので、順次手切れのいい状態の人から休憩に順次入っていく。

 それでも大体、昼休みに限っては、同じくらいには休憩になるけどな。




 俺とスズカは連れ立って会社の食堂に来ていた。


「これ、メッセージで言ったやつ。妹からお礼のお菓子」

 双海にスズカが色々教えてくれているって話したら、お礼をしなきゃだってお菓子を手作りしていたのだ。それを今日は持ってきた。いや、持たされたと言ったほうが正しいか?


『お兄ちゃんに学校以外で女の子と話すことがあるなんて驚きだよ』

『しかも毎日チャットしているなんて信じられない!初めてのことでしょ!』


 直克に双海はブラコンだから女の影はやばいぞ、なんて言われていたけど全く平気そうどころか喜んでさえいるみたいだった。


『お義姉ちゃん……ぐふふ』

 やっぱり双海がちょっと怖い。





「いただきます! わっ、美味しい。妹さん、双海ちゃんにお礼言っておいてください」

 スズカは喜んでくれたようなので双海も喜ぶだろう。


「あ、あの、無壱くんは彼女とかいないのですか?」

「……いないよ。過去にも」

 藪から棒な質問でびっくりした。彼女いない歴イコール年齢ですが、何か?


「す、スズカこそ彼氏いないの?」

「私もいないですよ、過去にも……」


『未来は分からないですけど』

 ぼそっとスズカが呟いた言葉に何故か俺は聞こえないふりをしてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る