第5話 身の程、とは? 7/10(金)

本日投稿2話目です。タイトルつけ忘れ。。。。

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 どうも彼女は俺と、この距離でしか会うつもりはないらしい。


 今朝も向こう側のホームで俺の視線に見つめ返してくる。少し微笑んでいるようにも見えるが距離があるためはっきりとはわからない。

 

 今週の月曜日に彼女の視線に気づいてから今日で5日目になる。

 明日明後日は土日なので学校は休みで通学することはない。つまりは今の様に駅のホームで見つめ合うなんて事はできない、ということ。


 だから今日あたりで彼女が誰なのか、程度のことは知っておきたかったけど無理だった。


 こっそりと学校の友達を向こう側の下り線ホームに仕込んで、無理やりっていうのを提案されたけどそこまではやりたくないし、捕まえるって何様って感じあるすぎる。それに彼女も強く接触を望まないからこの距離なのだろうと思う。

 

 希望的観測でしか無いけど、もしかしたら来週には彼女がどこの誰なのかを明かしてくれるかもしれない。反対に二度と目が合うことが無くなる可能性だって無いわけじゃない。

 今週だけ俺のことを揶揄かう気まぐれな遊びってことだって考えられる。

 告白罰ゲーム的な? なんとなく違いそうだとは思うけど。

 

 俺からしてもただ見られて、目が合うってだけなので迷惑は被っていないし、単純に気になる、というだけ。

 

 俺も彼女のような可愛らしい女の子とお付き合いしたいと言い出すほど烏滸がましい身の程知らずではない。

 自分の姿かたち見た目ぐらい毎日イヤって程見ているからな。わかっている。

 だけども、ちょっとだけもしかしたらって気も無くはないのは否めない。だってさ、学校の友達の俺に対する評価はこんな感じなのだもの。期待するなって言うのも無理じゃん。


 ――雅義は「お前の自己評価は知らねえけど、いうほど悪くない男だと思うけどな。陽向もそう思わん?」なんて言うし。


 陽向は「あたしはメガネ男子一筋だから無壱ちゃんはないけど、他の娘にしたら有りかもね? 知らないけど」と雅義推しのくせに悪くない評価してくる。


 直克は「イケメンでもないけどブサメンでもないから安心しろ。僕の次具合にはいい男だろうよ」なんて事言うので若干その評価には怪しさが残るものの悪くは無い。


 上げては落とす水琴は「え~ ウチ的にはむーちゃんは結構イケていると思うけどな。勉強の順位も上から数えた方が早いし、運動能力だってまずまずじゃない? コミュ障でもないから普通に会話できるし。ただ、その会話がことごとく面白くないから女の子的にはどうかな? 聞き役になれば結構ポイント高そうだよ」との評価。良いのか悪いのか一体どっちなんだ?


 それを聞いた新がまとめるところで「ま、要するに可もなく不可もなくってところだな、カガミは。うまく立ち振る舞えばその娘とワンチャンあるんじゃね?」という、ちょっと期待を含む言い方で結論づけるのだった――


 ここで調子に乗ったりしたら、失敗の素。友達の評価なのだから若干のプラス補正がかかっていてもおかしくないもんな。本気にして、駅の彼女だったり、はたまた他の女の子だったりに告白した途端、『身の程を知れ』と罵倒される可能性も無きにしもあらず。



 彼女と目を合わせたまま思考の海を彷徨っていると、電車が入線してくる。

 この数日繰り返されたように俺は車両に乗り込み、時刻が7時27分になるとその電車は出発する。一瞬の後、彼女のいるドアと俺のいるドアがすれ違い、視線を合わせながら別れる。


 正直、彼女のことがかなり気になってきている。『単純に気になる』状態を超えてしまいそうな感じもなくもない。


 どこかで会っているような気がしているからなのか、単純に毎日顔、というか目を合わせているせいでザイオンス効果により好感度が上がってしまっているのか自分自身のことなのにわからない。




「イッチー、おっはー!! 例の彼女はどうだった? 今朝は熱い抱擁はできたのか?」

「おはよ、直克。どうだったってなにもないよ。今朝もちゃんと目はあっていたけどね」


 朝イチからの直克は重い。こいつ部活もやってないのに元気いっぱいすぎて朝から牛丼特盛食わされているかのよう。もちろん紅生姜山盛りで生卵と味噌汁付きだ。


「なーんだ、つまんないな! ところで数学と英語のノート見せてくれよ。ついつい気を抜いてしまって板書写し取ってない所がアッチにもコッチにも……」

「なんだ。朝っぱらから珍しく話しかけてくるかと思ったらそういう魂胆かよ。見せてやるから昼までには返せよ」


「おおサンキュー。神様仏様無壱様」


 テスト直前とだけあって直克だけでなくそこかしこでノートの貸し借りが行われている。

 雅義は陽向に分からないところを教わっているようだ。陽向はああ見えて、学力は学年トップ10に入る実力の持ち主。

 雅義と新は並程度。平均的と言えば聞こえが良いかもしれない。


 水琴は料理上手。流石料理屋の娘だけある。うん、料理はサイコー! 勉強? 聞いてやるな。底辺まではひどくは無いのだからそれでいいじゃないか?




 来週の火曜日から木曜日にかけて期末テストがあるので、バイトは明日の土曜日丸一日までやって暫く休みにしてもらう。夏休み前なので少しでも稼いでおきたいところだけど、成績を落としてまで小遣いを増やしたいとは思っていないのでしっかりと勉強をすることにしている。



 平日は、週2~3日学校が終わってから地元の駅から自転車で直接バイト先まで行って、3~4時間働く。土曜日は特に何も用事がなければ毎週勤務にしている。デートする相手も遊ぶ相手も妹以外いないのでこれと言って不自由はない。無いったら無い。


 日曜日はバイト先の会社も休みなので、日がな一日ゴロゴロするか妹の付き合いでアチコチにでかけたりする。妹も友達がいないわけではないが日曜日は俺と一緒に何かをしたがるので、仕方なく甘やかしてやっている。けして俺が妹に相手をしてもらっているわけでは無いからな?

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