第19話 お料理教室 8/2(日)-1/3
昨夜はバイト終わりがズレてしまい昼休み以降は話すことが出来ずに帰宅になったので夜遅くまでスズカとチャットで会話していた。
スズカも今日来ることで相当緊張しているようで、何を着ていけばいい? 手土産は? 時間は何時から何時までいいていいの? 等々質問ばかりでテンパっていた。
俺はテンパる人を見ると逆に冷静になるタイプなので、結構落ち着いてアドバイスをしていた。
……嘘です。俺もかなり緊張しています。
現在、俺は窓から東の空が白み始めているのをベッドの上に寝転びながら見ている。なぜかって? 昨夜はお休みの挨拶の後も殆ど寝られていないからだ。
流石にこのままでは不味そうなので、ここで気合をいれて寝ることにする――
――起きた。気合い入れすぎたようで、起きたのはスズカを迎えに出なくてはならない時刻のなんと20分前。誰か起こしてくれてもいいもんじゃないのか?
大慌てで身支度をして、ほぼ時間きっかりに迎えに出られたのは僥倖。日頃の行いが良いおかげかも知れない。でももしそうなら、そもそも寝坊などしないんだよな。
待ち合わせ場所に指定した近所の児童公園前に俺が着いたときには既にスズカは待っていた。
「ごめん‼ この暑い中なのに待たせちゃったね」
「ううん‼ ちょっとだけ早く着いただけだから平気だよ。それにお母さんにここまで送って来てもらったから暑くなかったんだ」
そう言いながら、スズカは児童公園の駐車場の一角に停まっている軽トラックを指差した。
運転席には日焼けした顔でニカッと笑う女性、お母さん?
俺が会釈をしたら、エンジンをスタートさせ、颯爽と走り去ってしまった。
「お母さん?」
「うん。うち兼業農家なんだ。これウチで今朝採れた野菜です。
本当はお菓子とか手土産にしようと思っていたのにお母さんがこっちのほうがいいって、強引に朝イチで収穫してきて、これを渡されたの……」
きゅうりにトマト、ナスもあるしゴーヤも入っている。他にもいくつか入っているけどあまり野菜などに詳しくない俺は名前がわからない。
「スズカ、暑いし行こうか。それは俺が持つよ。貸して」
「手土産なのですから無壱くんのお宅まで私が持ちます」
スズカが土産の野菜の入った袋を渡さないので、袋の取っ手を片方ずつ持つことにした。
これはこれで結構恥ずかしいけれど、なんだかココロにぐっとくるものがある。
「おはようございます」
「いらっしゃい! スズカちゃん」
「おい、双海までスズカちゃん呼びとは失礼だぞ」
「いいえ、構いませんよ。私はスズカちゃん呼びで」
「じゃあ。ほら、お兄ちゃんはアッチ行っていて」
双海に邪魔邪魔と手を振ってシッシッと追い払われた。
「スズカちゃん台所はこっちだよ」
「スズカちゃん、いらっしゃい。何の変哲もない面白みもない家だけどどうぞ上がって」
「は、はじめまして。無壱くんのバイトの同僚で、お友達で、あの、その。有働凉風ともうしまちゅ」
噛んだ。
母さんは真っ赤になっているスズカを微笑ましく見たあとは、お土産の朝採れ野菜に感激して喜んでいる。
野菜がお土産で正解だったみたい。さすがスズカのお母さんだ。
「ありがとう。そうそう、自己紹介してなかったわね。
双海とスズカの二人が台所で料理している。双海は余計だけどスズカがウチの台所に立っているのを後ろから見るのはいいな。
「無壱はなにをニヤニヤしているの?」
母さんにからかわれる。
「うるさいなぁ! 俺はニヤニヤなどしてないわっ」
「あらら、そうねぇ。ニヤニヤしてないわよね、無壱は。ふふふ」
すげーむかつくが軽くあしらわれるのは年の功か、単に母親だからか?
これ以上リビングにいるとからかわれ度合いが上がりそうなので、一旦俺は自室に引きこもることにした。スズカを一人にするのもかわいそうかと思ったけど、双海と上手く行っているようなので俺の出番はなさそうだと判断した。
部屋に戻ってもスズカが階下にいると思うとソワソワして落ち着かないので、いっそのこと集中して勉強でもしてしまえば良いのではないかと、残っていた夏休みの宿題に取り掛かる。
思考のリソースを勉強の方に向けたせいで、ドキドキもソワソワもなくなり一教科分宿題も完了させることができた。
トントン
ドアノックがノックされた。
「はい」
「無壱くん、今大丈夫? お昼ごはんできましたよ」
思いの外長い時間部屋にこもりっぱなしになっていたようだ。
すぐさまドアを開けてスズカに謝る。
「ごめん‼ スズカのことずっと放って置いてしまった。知らない家なのに放っておくなんて申し訳なかった!」
「ううん。ぜんぜん平気だよ。双海ちゃんがずっと一緒だったし奏笑さんも親切にしてくれていたから、本当に平気だよ。気にしないで!」
「それでもさ……」
「いっそ無壱くんが居なかったから、リラックスできたし、お料理がサプライズになってよかったかもしれないよ」
「はぁ、俺が居ないほうがリラックスできるんだ……」
「あ、あ、あ、そういう意味じゃないよ。無壱くんに見られていると恥ずかしくって緊張しちゃうから……」
スズカはお土産のトマト宜しく頬を染めて俯いてしまう。
「ああ、そういうことか……良かった」
俺に見られるのが恥ずかしいなんて、ほんと可愛くてどうしよう。
ヨシ、それでは行こうか。楽しみだな!
「じゃーん‼ スズカちゃんがお野菜を沢山持って来てくれたからこうなりました」
★パエリア
★野菜コロッケ
★コブサラダ野菜マシマシバージョン
★野菜ゴロゴロスープ
『どうだ!』とばかりに得意げな双海に『がんばりました』と控えめなスズカ。
匂いに釣られたのかのそのそと寝癖付けたまんまの父さんも起きてきて、目の前に美少女がいることにびっくり。その後ちゃんと身支度を整えて再度ちゃんと挨拶を交わしていた。
父さんがスズカを見て少し怪訝な顔をしていたのは気になるけど、どうせ寝ぼけて目が覚めていないだけだろうから無視してOKだな。
「「「いただきま~す」」」
「「スズカちゃん、双海。いただきます」」
ダイニングテーブルが小さいので、両親はリビングの方で食べてもらうことにした。
俺、野菜より肉派でしたが、野菜がうますぎてビックリ。
スズカん家の野菜の旨さはもちろんだけど、双海の料理の腕が何気に上がっていることに驚いた。
「今日は双海先生に殆ど作ってもらいましたけど、次は私一人ででも作ってみせるので食べてくださいね」
スズカにそう言われて、俺は思いっきり何度も何度もうなずいた。
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