第44話 A-SA Chun 8/25

 ずっと二人でイチャイチャ出来るわけではなくそれなりに忙しい。


 一応、留守番の体なのでやらなければならないことはしっかりとある。凉太郎さんに頼まれているのでそこはしっかりやらないと俺の評価が落ちてしまうかもしれない。

 それは困る。


 畑に残っているきゅうりやナス、トマトの実を収穫するのと枯れてしまったそれらを土から引っこ抜いて片付ける事。

 鶏のケージを掃除して新しい餌を与えること、水を与えること。

 今育苗中の苗に水を与えること、雑草に気づいたらそれらを除去することエトセトラエトセトラ……


 昼食中の甘い雰囲気がしょっぱくなるほど汗をカキカキ作業をこなしていく。


 体力的には自信がある方だけど、これを毎日暑くても寒くてもやり続けるのは大変だ。


 スズカの兄上はこの何倍の畑と鶏じゃなく牛とか他の家畜をこれから面倒見るんだよな。

 さっきは軽くスズカと一緒にやるのもいいな、なんて考えたけれどやるのであればこれは本気ださないとイケないやつだ。


 スズカと一緒の未来を考えるのであれば避けてはならない道であるし、避けるつもりは元より俺にはない。

 たかが交際1ヶ月と侮るなよ。俺は本気だ。





 ――と思っていた時期が俺にもありました。


 いきなり全力全開は駄目です。はい。


「無壱くん大丈夫? 炎天下であんなに無茶しちゃ駄目だよ。熱中症になるからね?」

「へ~い。よくわかりました」


 熱中症の一歩手前まで行きそうになって、慌てて休憩したけど俺はだいぶ体力を消耗していたようだ。


 スズカの膝枕で、居間に横になってぐたってなっています。


 スズカの扇いでくれるうちわの風が心地良い。勿論エアコンも入っていますけど、スズカのうちわというのがとても良い。


「じゃあ、私は洗濯物を畳んだら、夕飯の支度を始めるね」

「え? もうそんな時間なの?」


「ちょっと気合い入れて双海ちゃんに負けないご飯を作ろうかなって!」

「そっか。楽しみにしているよ」


 それまでにはこのぐったりした身体を元に戻さないとな。ほんと熱中症対策はしっかりしないと、と身を以て知ったよ。


 そのまま薄暗くなるまでゴロゴロし、体調も良くなってきたところでスズカが料理している台所に行ってみる。


「おっ、いい匂いだね」

「無壱くん、もう大丈夫なの?」


「ああ、済まなかった。もう平気。明日からは無理しないよ」

「そうしてね」


 スズカの作っているものは牡蠣と魚介のパエリアに山芋の何か。フライかな? よく分からないが夕飯も気合が入っている。


 もう、完全にあっち方面に期待感があふれる料理のラインナップだ。


「無壱くん、お風呂先に入って来てよ。ご飯はもう少しかかるから」

「良いのか? 先に?」


「え? 一緒がいいの?」

 そう言うとパエリアの中のパプリカのように真っ赤になるスズカ。その真っ赤になっている姿をみてパエリアの中のエビのように真っ赤になる俺。


「風呂。入ってくるな」

「うん……」


 そんなに恥ずかしいなら言わなければいいのに……でも、一緒にお風呂……入りたくないかと問われれば、入りたいと即答するよな。



「これも美味いな。元気出そう」

「……うん。元気が出るかなって思って作ってみたの」

 俺が食っているのは山芋の磯辺揚げ。サクフワな食感に海苔の香りが食欲をそそる。

「父さんとかならこれでビールとか行っちゃうんだろうな」

「ねえ、飲んで見る? ビール」

 そう言うと冷蔵庫から瓶ビールを出してきた。


「どうぞ……って泡だらけになっちゃた! ごめーん」

「いやいや、大丈夫。父さんたちコップに注ぐの上手いな。はい、スズカも」


「「カンパーイ」」

 コップをこつりと当てて乾杯の真似事をしてみる。


「うへ~ 苦い」

「何が美味いんだ、これ?」


 夕飯を食べながら、開けたものは片付けようと全部飲み干した。

 口直しって言って、スズカはお母さんの甘いお酒も出してきた。こっちは口当たりもよくぐいっと飲んでしまった。



「ありゃいものはあひたでいいよね~ あたしお風呂入ってくりゅから、むいちくんはテレビれもみてれ~」

「うい~ 待ってるからはりゃく出てきてよね~」


「も~ むいちくんのえっち~」

「ん~ えっちじゃないぞぉ~ あははは」










 チュンチュン。

 チュンチュン。


「ううん、朝?」

 俺の腕中には確かにスズカがいて、昨夜は一緒に寝ていた。

 但し、居間の座布団の上で……


「ええっと、確か――スズカが直ぐに風呂から上がってきて、ダボダボTシャツ姿なスズカに抱きつかれて……チューをいっぱいして……俺も抱き返して、寝転んで……えっと……記憶がない、だと⁉」


 前日二人していろいろな期待に胸もあそこも膨らませすぎて寝不足気味。しかも初日に張り切りすぎ、ついでに飲んではいけないお酒まで飲んでしまったが故、座敷でごろ寝という最悪の朝チュンを迎えていた。


「ま、スズカの可愛い寝顔が見られたのだからまだいいか?」

 未だ初日だし時間は未だあるから、そう思って二度寝した。若干頭も痛いし……


「あああああああああ!」


 次に目が覚めたのはスズカの悲壮な叫び声が目覚まし代わりになって。

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