第10話 撥雲見天 7/18(土)
本日2話目の投稿です。第9話をお読みでない場合そちらからお願いします。♥付けて来るのはお忘れなく!
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土曜日。
今週1週間は朝出会う駅の彼女は不機嫌な様子が続いていたけれど、家の中では双海の機嫌がこの1週間非常に良かった。
中学校でも同じ様に実施されていた期末テストの自己採点が良かったということもあるようだけれど、一番はこの前の日曜日を俺が双海のために丸一日使ってやったことが相当嬉しかったようだった。兄が妹のために1日使ったっていうことがそんなにも喜ばしいことなのか? よくわからんが、余計なことを問いただすのはやぶ蛇になりかねないので俺は何も言わない。
双海は料理が上手な女の子だ。今どき男子は料理も出来るらしいが、過去に俺が作ると食材が可愛そうだと双海に言われたので、そこから俺は一切包丁さえ握っていない。
その代わりに双海が美味しい料理を作ってくれる。両親の出社は早く、帰宅がまちまち、かつ遅い時間帯になることが多いので、テスト期間中にも関わらず双海が朝夕の食事を用意してくれていた。なんとも妹におんぶに抱っこな情けない兄である。
「そう思っているなら、料理上手な彼女を早く見つけなよ。私に彼氏できたらお兄ちゃんなんて知らないって言うかもよ」
あれ? 双海はブラコンってやつじゃないのか? 直克の言っていたことと違うぞ。兄の彼女を敵視して張り合うんじゃないのか? 自分の彼氏は兄なんじゃないのか? 直克の野郎また嘘を俺に吹き込んだんだな、チクショウ。
「でも、それまでは私がお兄ちゃんの彼女代わりにお世話してあげるからね。私は彼氏なんて作らないから安心してね」
あれ?? やっぱブラコンなのか? もうよくわかんないや……
俺は妹のことを女とは一度も見たことがないんでそこら辺に疎い。だって家族だし妹は妹以外の無いものでもないじゃん。
さて、土曜日ということで朝からバイトだ。俺は配置当番表の指示先の倉庫に入る。
「おはようございま~す」
なんと今日の重量物は水。
なんとかの山の美味しい水らしいが、俺にはただの重い荷物にしか見えない。
2L《リットル》6本入りのケースが8PL《パレット》で1PL50ケース乗っているそうだ。
米よりマシかも知れないけど、重いものは重いしそれなりに需要があるので各店舗ほぼ
荷降ろしはフォークリフトでやってしまい、その後俺たちは各店舗用のドリンク専用になっているカゴ台車にどんどん積んでいく。
水だけでなく他のペットボトルの飲料水もあるので、カゴ台車は専用の丈夫なやつじゃないと動かなかったりひしゃげたりするって聞いた。
ひしゃげる重さってなにさ。それを人の手で乗せたり動かしたりするのだからどれだけ大変か分かってもらえるだろう。
やっと昼休み。既に汗だくすぎて2度もTシャツを着替えている。タオルも3枚交換して、今は両方とも軽く洗って干してある。うちの会社は熱中症対策で、汚損ドリンク、中身は無傷、がたくさん用意されているので午前だけ俺は500ml×3本飲んでしまった。
殆どの従業員達は昼飯は外に食べに行ってしまうが、数人が弁当を持ってきていたり、近くにあるコンビニで弁当を買ってきたりして食堂を利用している。
俺も大体コンビニ弁当パターンが多い。でも今日は珍しく双海が弁当を作ってくれたので、手弁当だ。
食堂の隅っこで弁当を食べようとしていると、駅で感じるあの視線を感じた。
まさか! と、視線をあげると、駅の彼女ではなくスズカちゃんが俺の反対側の隅っこで昼食をとっていた。
今の射殺すような視線はスズカちゃんなの?
いやいや違うよな、あれはのほほんとしたメガネっ娘に出せる眼力ではないもんな。
俺もこの1週間の事を気にし過ぎてナーバスになっているのかもしれない。
(あ、双海のために誓鈴女子校のことをスズカちゃんに聞くのだった)
自分の弁当を再度包み直し、スズカちゃんの座っている方に向かう。
「あの、スズカちゃん……あ、ごめんスズカちゃんとしか名前知らなくて馴れ馴れしくてごめん」
「……いいです。カガミさんならそれで」
「うん。食事中ごめん。今は迷惑かな?」
スズカちゃんはさっき不機嫌そうな雰囲気だったのでやっぱり遠慮しようと思ったのだけど、正面の席に座ってと促される。
「俺も一緒に弁当を食ってもいいかな?」
「……どうぞ。お気になさらず」
「ありがとう」
パカ
スズカちゃんの前に座り、弁当箱の蓋を開ける。美味そうなおかずが彩り豊かにぎっしり詰まっている。
「いただきます。うん、美味い」
「……」
「あのさ、突然で申し訳ないのだけれど、誓鈴女子校のことを教えて欲しいんだ」
「え? な、なんでですか?」
そりゃいきなり女子校のこと教えてって言ったら不審だよな。
「いや、ごめん。言葉足らずだったな。妹が来年誓鈴を受験するって言っているから、どういう感じなのかなって。スズカちゃんが誓鈴だって言っていたのを思い出してさ」
「妹……」
「うん妹。この前の日曜にも誓鈴女子校を見に行ったんだ。まあ、俺も妹も外から覗いただけだけどね。その時スズカちゃんを思い出したので、今日聞いてみようとおもったんだ」
「え? あのときの……妹?」
「ん? あの時?」
「いえいえ。何でもないです。妹さんとは仲がいいのですか?」
「仲はいいと思うよ。友達に妹はブラコンだって言われるくらいには。まあ、それは別にしてスズカちゃんが通っているっていうからどう言う校風なのかなって、妹に教えてあげようと思ったんだ」
「やっぱり仲がいいのですね。私が誓鈴に通っているっていう話を覚えていてくれたのですね……うれしい」
「ん? そうだけど、まずかった?」
スズカちゃんはちょいちょい小声になって何か言っているけどうまく聞き取れない。
「いいえ大丈夫です。何でも聞いてください」
「そっか、ありがとう。じゃあ、先ず弁当食っちまうよ」
「あ、はい。お弁当……美味しそうですね。彼女さんの手作りだったりして?」
スズカちゃんは視線が下がって、なぜか悲しそうな雰囲気でそんな事を聞いてくる。
「彼女? そんなのいないよ。これ今言った妹が珍しく作ってくれたやつ」
「あ、そうなのですね!」
スズカちゃんは顔を上げると急に嬉しそうに微笑む。どうしたのかな?
「そうなんだよね。朝夕の食事を任せっきりだからせめて進学先の情報くらいは教えてあげたくて。申し訳ないけど、可愛い妹のためなんでよろしくおねがいします」
「で、では週一回のバイトで、休憩時間だけでは説明できないと思うので――あの……れ、れ、連絡先交換しませんか?」
そう云うやいなやスズカちゃんはスタッとスマホを差し出す。
「え? ホント? ありがとう。喜んでお願いします」
「えへへ。お願いします」
こちらからお願いしているのになんだかスズカちゃんがもの凄く嬉しそう。
にこにこ顔のスズカちゃんはほっこりするほど可愛らしかった。
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表題の
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