第6話 愛の家
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僕の両親は、僕の本当の親ではない。生まれて間もなく、僕は血の繋がった本当の親に捨てられ、私営の児童養護施設〈愛の家〉へと入れられた。
〈愛の家〉には、僕と同じように親から見放された子、親の虐待によって心身に消えない傷を負った子、また親と生き別れた子など、様々な境遇の子供たちがおり、同じ屋根の下で生活をしていた。
施設での生活は悪いものではなかった。園長も保母さんも皆優しく、十二歳で朝霧家に養子としてもらわれるまで、豊かではなかったけれど不自由のない暮らしをさせてもらった。
血の繋がらない兄弟たちとは、血よりも強い絆で結ばれていると自負している。時にはささいなことで喧嘩をし、時には力を合わせて盛大な悪戯を成功させて仲良く怒られた。
今でも、僕の心の中には〈愛の家〉があり、〈愛の家〉こそが僕の本当の我が家なのである。
朝霧家は不幸な事故で第一子を亡くし、第二子も病で亡くした。
運命の悪戯なのか、どちらも十二歳でこの世を旅立ったそうだ。だから、朝霧夫妻は〈愛の家〉を訪れた際、当時十二歳だった僕に我が子の面影を重ね合わせていたのだろうと想像する。
養親を見つけ、施設から去っていく義兄弟たちはたくさんいた。当然だが彼らとの別れは悲しかった。
今までずっと同じ時間を共有していた兄弟がいなくなるのだから。ただ、去って行く彼らは一様にすがすがしい顔をしていた。
義兄弟たちとの別れを経験するたびに、いずれ僕もここを出て行くんだろうな、と考えた。が、朝霧家との養子縁組の話が現実的になると、〈愛の家〉を離れたくない、という想いが心の奥から沸き上がった。
施設を離れることに抵抗がなかったといえば嘘になる。親と生き別れて施設にやってきた子たちとは異なり、物心つく前から施設で生活していた僕にとって、親という存在はさほど重要ではなかったのだ。
それでも、朝霧家の養子として生きていくことを選んだのは、心のどこかで親を求めていたからなのだろうか。
〈愛の家〉を出る時、僕はどんな顔をしていたのだろう……
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