第42話

「──という訳です」


 俺は身振り手振りを用いながら、あの時の状況について出来るだけ詳しく詳細に説明した。

 漆黒の外套を身に纏う謎の集団にローズを攫われてしまった事。もう少しでローズを取り返せるその瞬間に謎のオーブが、天から大量のスケルトンを召喚した事。俺が驚愕を浮かべているうちに、ローズの行方は眩んでいた事。その為、こうしてウィリアム公爵のもとへ来たという事などを。


 正直……初めの方はウィリアム公爵の顔色をうかがってたが、途中からは悔しさと不甲斐なさでつい話すのに集中してしまい、そんな余裕は無かった。


 俺はウィリアム公爵の、こちらを見やる瞳に視線を向けながら『演算』で脳内の情報を纏める。情報と情報に矛盾や齟齬が存在しないかを確かめる為だ。

 ウィリアム公爵は俺がそんな事をしているとは知らずに……ついに話し始めた。


「なるほど。謎の黒い集団に……スケルトンを召喚する黒いオーブか。これはより信憑性が増してきたな」


「……え?」


 ウィリアム公爵のその物言いは……まるで前々から分かっていたという意味を含ませているじゃないか。

 ウィリアム公爵は頭を悩ましながら、未だに何かを考えている。ウィリアム公爵にも彼なりの考えがあるのかもしれないが……しかし、俺にも情報を共有して欲しい。

 奴らが何者で目的は何なのかを、教えてほしい。


「分かってるさレノ殿。こうなった以上は、貴殿にも私の持っている情報を教えようと思う」


 俺のソワソワした態度を見たウィリアム公爵は苦笑して話す。……そんなに態度に出てたか?

 とまぁ、そんな事はどうでも良いか。とにかくウィリアム公爵はゆっくりと口を開いた。


「まず結論から言うと……一応未確定情報たが、恐らくそいつらは魔神教団の一員だろう」


「……魔神、教団」


「各地によって情報の伝達の仕方は違う。……レノ殿は旅人と言っていたが、知っているか?」


「えと……はい。詳しくは知りませんが、一応名前ぐらいなら聞いた事は……」


 魔神教団という組織があるのは、SSSランク犯罪者東雲麗乃として冒険者と戦った時に何度か口にするのを聞いた事がある。

 ……一応、逃亡生活も一時期は暇だったし、それについて調べて見た事も。ただ、俺が知っているのは、はるか昔に打ち倒された魔神という存在を信仰しているという事だけだ。


 ……ていうか、この世界って普通に魔王とかいんのかなぁ。勇者が居るらしいから、もしかしたら居るのかもしれんけど。……いやまぁ俺には関係ないか。


「そして、魔神教団……宗教だけに信仰する神は自由だ。だがしかし、魔神教団は信仰以前に1つの犯罪者ギルド。つまりはテロリストとして冒険者ギルドに指名手配されているんだよ」


「そ、そうなんですか?冒険者ギルドに……」


「あぁ……魔神の意思だとかなんだとかで、誘拐、殺人、強盗、暗殺、拷問など何度も繰り返している危険な組織だ。故に冒険者ギルドでもSSSランク犯罪者ギルドとして指名手配されているんだ」


「っ!……SSSランク……ですか」


 俺はドキン!と心臓が跳ねる。悪い冷や汗を書くのを実感した。ウィリアム公爵のSSSランクという言葉に反応して、だ。俺自身……SSSランク犯罪者なだけにまるで自分の事を言われているような感じだった。

 SSSランク……そこら辺について、俺はあまり社会情勢に興味が無く、特に情報などは収集していない。


「そもそも、貴殿は……SSSランク犯罪者というものを知っているかな?」


 って、タイミング悪スギィ!!なんで今それ聞くの!?聞いちゃうの!?

 今まさに、貴方の目の前にいる人物がそれなんですけど!?まさか狙ってやったりしてないよねっ!?


「……ははは。ちょっと……いや全く知らないですね。……すいません」


 俺内心冷や汗をダラダラと流しながら、苦笑してそう答えるしかない。ボロ出さない様にしないと。


「……?なぜ謝るのか分からないが、まぁいい。今現在、この世界にはSSSランク犯罪者という化け物が3人存在している。……これを考えると頭が痛い。冒険者ギルドが誇る最高戦力と同等以上の力を持つ者が敵に3人はいるという事だからな」


 ……ははは。すいません。その中の1人俺ですね。

 というかSSSランク犯罪者って3人いるのか。俺だけだと思ってたよ。なんか親近感が……いや、全く湧かないな。

 以前の『星王』との戦いでSSSランク冒険者については把握してたけど、そこら辺はさっぱりだった。

 

 そして1つ訂正させて貰うと俺は貴方たちの敵ではない。むしろ味方だ。まぁ、こんなこと言っても信じて貰えないと思うけどさぁ。


「……へー、どんな人達なんですか?」


 ここでさりげなく情報収集する俺!!これからの生活のためにも、大貴族の意見印象を聞いておきたい。


「詳しい事……それこそ能力や戦い方などは分かっていない。……が、名前ぐらいなら分かっている。古参から行くと、悠久の時を生きるという『永遠エターナル』オールフェウス・リバルゥ。今話している魔神教団のリーダー『破帝カタストロフ』シルファ・カノン。……そして、あの『星王』イニルを打ち倒したという『奈落アビス』東雲麗乃。……この3名だ」


 ……もう、なんてコメントしたらええか分からないよ。ここで何を言おうと負け犬の遠吠えみたいになるし。そしてなんか俺だけ名前漢字で少し疎外感。


「それぞれに多額の賞金が掛けられているが……本人の所在も分からない上に、実力者、何より容貌が……いや、東雲麗乃に関しては出回っていたか?うむ、顔はよく思い出せんが。……いや、まぁいい。そんな事もあって、誰一人として捕らえられていない」


「……」


 ……いや良くねぇよっ!!言わサラッと俺のこと話したよねウィリアム公爵!?……っていうか「いや、まぁいい。(キリッ!!)」ってなんだよ、そして顔が思い出せないだとぉっ!?貴方も俺の事を地味と思っているのか、うわーん!!

「へ、へぇ……っ」俺は口角をひくつかせながら、突っ込みたいのをめちゃくちゃ抑える。ここでっ……ノリツッコミすれば全てがパーになる。我慢しろ俺!


「……ん?なんか話が脱線している気がするが……。とりあえずはその中でも特に魔人教団を率いる『破帝カタストロフ』シルファ・カノンが問題なのだ」


「……問題?それは問題児という事ですか?」


「あぁ、正直『永遠エターナル』や『奈落アビス』は穏便派と言っていいだろう。……いや『奈落アビス』に関しては、何故だか異様に目立った犯罪を起こしたというのは聞いたことがないな」


 俺はそのウィリアム公爵の言葉にホッと大きく安堵する。この様子だとウィリアム公爵にとって俺はあまり危険度的に優先されていないらしい。

 まぁ、当たり前と言ったら当たり前だが。俺は別に善良な市民を殺戮したとかそんな大それた事はしていない。そりゃ俺を狙いに来る刺客は倒すけど、それにしたって記憶を弄るだけで命までは取らないし。


 この際、穏便派であるらしい『永遠エターナル』とやらはこの際置いておこう。となると、ウィリアム公爵も言った通り問題は魔神教団のリーダー様なのだとか。


「噂によると『破帝カタストロフ』は目的のためなら手段を選ばない性格をしている女らしい。冷酷無慈悲だとか。……そして今回の場合は何らかの目的があって、我が娘ローズを誘拐したというのが妥当なところだろう」


「それはまぁ……そうですね」


 公爵令嬢を誘拐する事が出来れば、とんでもないリターンが来る。だがしかし、それをいざ実行出来る者がどれほどいるか。

 そんな事をすれば死刑では済まない。一族ごと悲惨な目に合い不名誉を着せられる。……うへぇ、ローズを溺愛してるこのおっさんならやりかねないぞ。


 そしてそれが分かっているならば、そんなおめでたい性格をしているらしい『破帝カタストロフ』率いる魔神教団の仕業と考えるのが最も可能性が高い。


「前々から魔神教団がこの都市で何かの活動をし始めているという情報は掴んでいたんだ。でも無駄だった。……ローズの救出よりも優先させたのに!!」


 そして、ウィリアム公爵は自嘲の笑みを浮かべる。


「軽蔑しただろう……?実の娘を見捨てるなんて。だから貴殿には感謝してるのだ。ローズを救ってくれたレノ殿に」


「……そういう事情があったんですね」


 ウィリアム公爵だって苦渋の決断だったはずだ。この人は彼女を何よりも愛しているのだから。

 そして考え抜いた結果、マルファスを脅かす魔神教団を取ったという事だろう。

 ……その決断に俺がとやかく言う資格はない。


 そして、結果が伴わなかったからこそウィリアム公爵はここまで苛立ちを募らせていた。


「……ん?」


 そしてそんな事を考えていると、不意に1つの問題……というか考えるべきポイントが浮上する。


「魔神教団だとしたら金利目的では無いはず。……なら、なんのためにローズの身柄を欲しがったんだ?」

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食い逃げから始まる異世界逃亡生活〜チート転生者、自己防衛しまくってたらいつの間にかSSSランク犯罪者となっていた〜 紅蓮 @135745678743

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