第33話
──およそ数十分後。
「おらぁっ!ちゃんと飯食ってんのかてめぇっ!!」
「うっ……ぎゃああぁっ!!」
肉ダルマ君
うぉ、見ててめっちゃ痛々しいなこれ。あと少しでも食い込めば腹を貫通するかも。今の一撃は、俺にそんなことを錯覚させるぐらいの威力は誇っていた。
勝敗は明白。もちろん挑戦者の男はあまりの衝撃に喉から込み上げきたのだろう鮮血……吐血を辺りに撒き散らしながら、観客の群れの中に吹き飛ばされていった。
『うおおおぉぉ!!すげぇすげぇすげぇっ!!これで何連勝か!?さすがに圧倒的な力を見せつけるぞデイモンッ!!これまた圧勝だぁっ!!』
耐えかねたかのように、勝敗結果を添えてすかさずそんな実況が辺りに響いた。
それを耳にした観客はより一層興奮度を増させ、辺り一体に熱気が飛び交う。
当のデイモン君といえば拳を突き出した体勢のまま、ニヤリと口元を歪ませていた。そこからは圧倒的自身感が伺える。
……その光景、様子は一言で言えば王の凱旋を祝っているというのが1番しっくりくるだろうか。
「すげぇぜ!!やっぱあんたすげぇよデイモン!!」
「きゃあああぁぁっ〜。愛してるわ〜!!」
思わず両手で耳を塞ぎそうになるぐらいにはうるさい。
……ふー。そんな観客の声援でちやほやされている肉ダルマを見るが……めっちゃ羨ましいなぁおい!!
俺だって……俺だってぇ!!愛してるとか言われたりちやほやされた事ないのに!!妬ましすぎる!!
……ただまぁいくら変装してるからと言っても俺の真の正体は極悪非道のSSSランク犯罪者。自発的に目立ちに行くのには何のメリットも無いので、ただこうして指を咥えて羨むことしか出来ないが。
……正直、これ以上肉ダルマ君の活躍を見ているとどんよりした気分になりそうだなぁ。
まぁ普通に暇を潰せたし、そろそろお暇させてもらうもらうとしよう。ローズとのデートの続きがしたいし。
「なぁローズ、そろそろこ──」
横目でローズに視線を向けて口を開く。
だがその瞬間、俺は気づいた。すぐ隣にいるローズが、まるで目が離せないのかとある1点をじいっと目を見開きながら見つめているという事に。
(これは……ちょっと不味いかも)
ここ1年で培ってきた本能が叫ぶ。このまま行けば圧倒的面倒事に巻き込まれるだろうという事を!!
ローズちゃん地味に行動力えげつないから、そうなればチキンな俺にはもう止めるすべは無いぞ!?
一刻も早くローズの意識をそらさなければっ。
──無我夢中に、そうしてすぐさま対処しようとしたが……時すでに遅し。どうやらローズは、俺に行動する時間すら与えてくれなかったようで。
「レノ様……
口角を吊り上げながら、ビシィ!とリングの付近を指差した。
そうして示したローズの人差し指の延長線上に存在していたのは……全長10センチーメートルもないほどに小さい、2つの可愛らしいクマの指人形だった。
「……え?あ、あれが……?」
クマの指人形の周りには、他にも様々なものが備えつけられていた。それこそエールにウォッカ、新品の防具や武器、大量の食料など……番号とともに振り分けられた品々が巨大な台の上に存在していたのだ。
あれらは全て、この腕自慢大会で奮闘した者に送られる一種の景品のようなものである。
どれかひとつ自由に選ぶことが出来、そしてその中の一つに今ローズが指差したクマの指人形があるという事だった。
(って、そんな当たり前のような説明は今は良いだろ!!そんなことよりも大事なのが……)
話を戻すと、
それはつまり……景品として並べられているあのクマの指人形を手に入れるためには、この腕自慢大会に参加して肉ダルマ君と戦う必要があるという事だ。
……え?いやマジで言ってんの?
いや……そもそもなんであんなものを欲しがるのこの
そっちの方が安全でコスパも良さそうだし。
それを伝えようとローズに目で訴えかけるが……うぐぅ、逆にローズの瞳から発せられる謎のキラキラに返り討ちにあう。気まずくなり俺は目を逸らした。
だが相変らず妥協しない、どうしてもあれが欲しいという意思が見て取れる。あまりにも真っ直ぐなので、無視をすることも出来ないし。
というかそもそも絶対に注目を浴びるでしょ?そんなのは火を見るより明らかなんだから……俺が出場するのは無理だって。
「む〜!!」
そんなに可愛らしく睨んでもダメです。
「む〜む〜!!」
……くっ!2倍にしてもダメなものはダメだぁっ!!
正直に言えば俺だって可愛いローズの頼みなら何でも叶えてやりたい。だがしかしこんな所でリスキーな行動に出たくないというのもまた事実。
その損得を天秤で比較した俺は、内心でローズに謝りながら、しかしさりげなく拒否を示すしか無かった。
「レノ様〜!!」
「ぐ、お、お、お、おぉおぉっ。や、やめてくれぇっ目が回るからぁっ!!」
ローズが俺の腕に抱きついてきてグワングワンと激しく揺らす。結構辛いけど……うほっ、でもローズの柔らかな胸の谷間に俺の腕が包まれる。
ほんわり暖かくてめちゃくちゃ柔らかい。ローズのその行動が俺の意識を別観点に向けている。その行動は完全に逆効果だった。
(柔らかい気持ち良い。暖かいいい匂いーーーっ!!)
ローズは何故だがあのクマの指人形に異様に執着し……俺は俺でローズのお胸様に堕落して……。
だがしかしそんな攻防をしばらく続けていた次の瞬間、俺の行動の全てを否定するかのような非情で思わず突っ込みたくなるような出来事が起こった。
『おおっ!?その様子は……そこの麗しい美少女と乳くりあっているとても羨ましい少年!!もしかして次の挑戦者は君かっ!?』
……うん。でも何となく、薄々は分かってたよ。だって俺一応この物語の主人公だもの。こうするのが、1番話を進めやすいよね。
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