第3話

「がるるるるぅ……」


「どうどう……」


 怒りすぎて頭がおかしくなったのか、エルザはもはや野獣の発するような鳴き声で俺の事を威嚇してきた。


 まぁ噛まれても困るし、宥めることとしよう。


「貴様、なぜ光聖剣の斬撃クルシェルマエクスを使えるのだ!?光聖剣の斬撃クルシェルマエクスは我が剣聖スキルを持つものしか使えないはずなのに!?その上、剣聖スキルを持つものは一人しか存在しないはずだから貴様に使えるはずが無い!!」


「いや、実際使えるし」


「だから、私はその理由を聞いているんだ!!」


 黒鎖に体を巻き付けられているのでエルザは立つことができず体育座りに座り込んだまま、キッとこちらを睨みつけながらそう言った。


「……そんな格好で言われても、全然かっこよくないよ」


 俺は微笑みながらエルザに向かってそう言葉を紡いだ。

 彼女はゴソゴソと何度も腕や足、身体を動かして鎖の捕縛から逃れようとするが……しかし、それは全く無駄な抵抗だった。


 相変わらずめっちゃ睨んでくるなぁ。確か数ヶ月ほど前にこいつは貴族の、かなり良いところのお嬢様だという事を漏らしていたような。……ならもっとお淑やかに優雅に振舞って欲しいものだ。


「くそっ!なぜ壊れない!?私の力ならこんな貧相な鎖、強引にひきちぎれる筈なのに!!」


 おー、怖いな。

 どうやらさっきモゾモゾしていたのは鎖から抜け出す為ではなく、鎖を壊すための行動であったようで。


 だが無駄だ。確かに彼女の言う通り、普通の鎖であったら不味かっただろうが、これはスキルで作った鎖なのである仕掛けがされてある。


「無駄だよ。黒鎖は強度自体は大してないが、でも特殊能力として捕縛している対象の力を大幅に吸収するというものがあるんだ。……さっきからやけに力が入らないのはそのせいだな」


 そう答えを教えてやると悔しさからエルザはプルプルと震えるが、無駄な行為だと悟ったのかそれ以上の抵抗は見せなかった。


「……なぜ、貴様が剣聖の技を使える?」


 ……やはりその質問か。まぁ予想はしていた。自らしか使えないと思っていた剣聖スキルを、俺に使われたんだからな。


「……敵である君には詳しくは言えないんだけどさぁ。まぁ……俺のスキルとだけ言っておくよ」


 あさっての方向を向きながら俺は頭をポリボリとかいて話を濁そうとするのだが……


「馬鹿な!?スキルを真似するスキルという事か!?そんなものがあるなんて聞いたことがないぞ!!」


 ……だから人の話を聞けって。それと、勝手に予想して怒るのもやめてくれ。

 ……やっぱ、こいつと対話は無理そうだわ。


「……なんでこうなったんでしょうかねぇ、


 まだ一年ほどしか経っていないのにどこか感慨深い思いを抱きながら、俺はこの世界にやってきた時のことを思い出していた。


 俺は名前からもわかる通り、元々はこの世界の人間じゃなくて日本の東京都に住んでいた普通の高校生だった。

 しかしひょんな事からラノベや漫画ではよくあるが……異世界転移という非現実的なイベントに巻き込まれてしまったのだ。


 何言ってんだって?まぁつまりはそういうことさ。


 そして、俺はこの世界の……いや、転生転移を司るらしい女神様と対面し、今エルザが疑問に思っているだろうとあるスキルを授けて貰った。


 正直このスキル強すぎて思わずルビでチートと読んでしまいそうになる。

 ちなみにエルザが先程言ったスキルを模倣するスキルというのはあながち間違ってはいないけど、しかし俺のスキルは実際のところそんな生半可な能力じゃない。


「まあそれは良いとしてさ……お前、なんで俺にそんな執着する訳?好きなの?なら悪いな、お前の気持ちには答えられないわ」


 無抵抗を良い事に、ずっと疑問に思った事を聞いてみた。多分エルザと戦うのはこれで5回目ぐらいだ。まぁこうしてエルザのスキルを使うのは初めてだから、彼女も驚愕していたけど。

 ……正直なところ、エルザがしかけてきて俺が瞬殺するという構図にも飽きた。なにより面倒臭い。


「なぜ私が貴様など好意を持たんといけんのだ!!」


 こいついちいちマジで返してくるんだよな……冗談って言葉知らないのか?


「ならなんで?」


 俺が淡々と聞いてみると……


「決まっているだろう、貴様を捕らえて我が家の名を世に広めるためだ!!」


 拳を握り確固たる意思を含ませながら、彼女はそう話した。


「でもお前いいところのお嬢様なんだろ?十分に名誉あるじゃないか」


 エルザの話を聞いていると、ここでそんな疑問が頭の中に浮かんだので聞いてみたのだが……彼女はどこか悲しげな表情をした。


 ……やっべ、こいつがこんな表情をするなんて……結構踏み込んだところ攻めすぎたか?


「……とにかく、私は家の名を広めなければいけない。そして、SSSを捕らえることが出来れば、それは達成されるのだ!!」


 ぐあぁぁっ……辞めてくれぇ、そんな事を思い出させるなよ!!


 そう。日本から転移してきた一般高校生の俺だが、しかしこの世界では色々あって、単体で国をも圧倒するこのできる化け物……。

 つまりは最高位の危険度SSSランクの凶悪犯罪者と認定されているのだ。

 ……いや、どう言うことだよちくしょう!!


 国を圧倒するとか無理だから!!確かに俺のスキルはチートだけど限度ってもんがあるし。

 数の前には俺なんか瞬殺だよ瞬殺……だから、何かの拍子で一般人に戻らないかなぁ。


 なぜ俺がそんな犯罪者になってるのかはよく分かっていない。いや理由はわかっているんだが、それは不可抗力であり、俺に正当性があるという事を主張したい。

 ……まぁ俺を犯罪者認定した冒険者ギルドにそれを言いに行った瞬間、俺は捕まるだろうけどな。


 ──ここは、しっかりとここまでの俺の経緯を説明するしか無いか。


「なぁ聞いてくれよエルザ。俺が犯罪者って言うのはかなり誇張さ──」


「黙れ!!私を惑わそうとしてもそうはいかんぞ!というかさっきからエルザと呼び捨てばかり、気安いだろう!!」


 ……うん。こいつに話を、もとい対話をもちかけようとした俺が馬鹿でした。


 これからの事とこいつの事、俺は「はぁ……」とため息を吐きながら、頭を悩ませずにはいられなかった。

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