第2話

「剣聖のスキルってどんなことが出来るんだ?」


 ちょうど暇も持て余していたし、それに空腹を紛らわせるために、俺はエルザと話をしてみることにした。

 俺は正直いって無知の部類に入るだろうし……こういう時に情報収集や気になった事は聞いてのが良いだろうからな。


「聞いて驚け!!剣聖スキルの能力は幾つもあるが、一番カッコイイのは剣に光を纏わせて、その斬撃を飛ばす遠距離能力だな。なんと言っても空気中のエネルギーを一点に──」


 やはりこういうタイプは、自分の事になると途端に機嫌よく自慢し始める系だった。

 ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ話している……暇つぶしなのに面倒臭くなってどうする。


 ……とりあえず、話を中断させるか。


「ああ、あぁ……エルザの話はよく分かったよ。とりあえず剣聖スキルが凄いことは分かった」


「そうだろう!!私は凄いのだぞ!」


 目を輝かせながら、自信満々にこちらを見てくるので思わずその勢いに苦笑してしまうが……よく理解した、その上で俺はエルザにさらに質問する。


「……その剣は恐らくは家宝だろ?そんなもんを、俺の討伐の為だけに持ち出す許可が出るはずがない。……さてはお前、無断で持ち出したな?」


「ぎ、ぎくぅ……」


 分かりやすい反応ありがとう。

 ……こいつあれだな。悪徳商法に引っかかりそうだな。見ててヒヤヒヤする。

 全くと言って良いほど表裏がないので、嘘をつく事や隠すことが全くできていない。


「……なぁ、悪いことは言わないからここで引いておけよ。もし俺がお前に倒されたとして、身柄を冒険者ギルドに持ってくなら、もちろんお前の家族にもその事が知れ渡るよな。……結構不味いんじゃない?」


 出来るだけ面倒臭いことはしたくない。今は極度の空腹状態だから尚更だ。

 だからエルザにそう提案してみたのだが……


「馬鹿者!!指名手配犯の貴様を捕らえれば、家宝の一つや二つ持ち出したぐらい、帳消しにできるわ!!」


 どうやっても、俺と戦うつもりでいるらしかった。


「というか、なぜ私が貴様如きと話をしなければならんのだ!!さっさと剣を構えろ!!今日こそは、貴様をコテンパンにしてやる!!」


 暇つぶしもここまでのようだ。……まぁなんだかんだ言って、そもそも俺はここしばらく人と話すという行為をしてなかったから、眠気を覚ますぐらいの刺激にはなった。


 エルザもそれが望みのようだし、付き合ってやるとするか……。


「はぁ、分かっ──」


 ──斬!!


 俺が言葉を言い終わる前に、我慢の限界だったエルザは剣に光を纏わせて次の瞬間、俺の横目掛けて斬撃を放ってきた。

 威嚇のつもりだったのか俺にはかすり傷ひとつついていないが、しかしその光の斬撃は地面を砕きながら俺の背後百数十メートルを切り裂いた。


 うひゃ……怖すぎだろ!そしていきなりすぎる!!さらに付け加えるなら、威力高すぎだろ!?もし俺に当たってたら木っ端微塵だったぞ!?


「──早くしろ!!」


 剣を振り抜いた姿勢のままで、エルザは威圧を撒き散らしながらそう話した。


「お、おぅ……わーってるから、そんなカリカリするなよ」


 面倒くさそうに話す俺に対して、相変わらずのムスッとした様子で対応するエルザ。


 ただ……俺は剣を持っていなかったのだ。いや前までは定期的に補給をしてたのだが、しかし最近はそれすらまともにできていなかったためそもそも武器が一つも無かった。


 だからヒョイっと、俺のすぐ下に落ちていた30センチぐらいの木の枝を拾って……そのまま構える事にした。

 決して馬鹿にしている訳じゃいよ?別にお前ごとき木の枝で十分とか全く思ってないからね?


「き、き、貴様ー!!私を馬鹿にするのか!!もう許さん、命だけは助けてやろうと思っていたが、絶対に殺してやるぅ!!」


 だが悲しいかな。エルザにはそれが伝わらなかったようで、めっちゃ激怒し始めた。


 素早い動きで聖剣とやらを構えたエルザは、またもや剣を光らせて……まさに俺を消し炭にしようと言わんばかりの威力で、またもや光の斬撃を放ってきた。


「──光聖剣の斬撃クルシェルマエクスっ!!」


 超高速で光の斬撃が迫り来る中俺は、


(光聖剣の斬撃クルシェルマエクス……すっげぇ厨二病な技名だな。……なんかキラキラ光っててかなり神秘的だ)


 ぼうっとしながら、そんな事を心の中で考えていた。


 いくら何でも光の速度ではないが……しかし、その名を関するだけあってめちゃくちゃ早い。

 そして、そんな中俺が呑気に考え事ができたのは、とあるスキルによるものだった。


 ──そして、こんなに余裕でいられるのは勝つ自信があるから。


「……懲りないよなぁ、こいつも」


 俺は全身に力を入れて、一気に目を見開く。

 そのまま先程のエルザの動き方、重臣の移動方法や癖を思い出して、それをなぞる様にトレースした。


光聖剣の斬撃クルシェルマエクスっ!!!」


 俺の持つボロボロの木の枝が光り出したと思ったら、そのままエルザのそれと全く同じ規模の光の斬撃が放たれる。


「ちっ……さすがに伝説の聖剣は本物か」


 だが見た目は全く同じでも、その中に内包されているエネルギーの総量には圧倒的に差があった。

 俺が木の枝で放った光聖剣の斬撃クルシェルマエクスがジリジリ通され始める。


 ……なら、もう一発打つしかないな。


「──ふっ!」


 そのまま空中で、木の枝をもう一振りする。

 するとまぁ……流石に耐えきれなかったのか木の枝は砕けたが、まあそこら辺に落ちてる奴だし正直気にしない。


 するとまたもや巨大な光の斬撃が放たれて……前に放ったのと合流し一体化する。

 俺の黄金の斬撃とエルザの黄金の斬撃がぶつかりせめぎ合う……そして数秒もしない内に辺りへ凄い被害を撒き散らしながら、両方共に消滅した。


「………………へ?」


 その結果にエルザは何が起こったのかを全く理解出来ていないようで……頭を真っ白にしながら、放心状態となった。


 そして、そんな隙を逃す俺ではない。


「こちとら男女平等主義を掲げる日本で育ってきたんだよ!例え相手が女だろうと容赦はしねぇからな!!」


 そうして、またもや俺はとあるスキル(エルザの場合で言えば剣聖)を発動させる。


「屈辱的にエルザの身体をきつく縛れ。……『黒鎖くろくさり』っ!」


 次の瞬間、下衆な俺の要望に答えるかのように大地からいくつもの漆黒色の鎖が飛び出して……そのままエルザの自由を奪うかのように、身体全体に巻きついた。


「きゃぁっ!?」


 おいおい、エッチな体勢にして鎖で縛ったぐらいで、女騎士らしからぬ随分と可愛らしい声じゃないか。


「き、貴様……私にこんな屈辱的な体勢をさせやがって……後で殺してやる!!」


 えー……そこは『くっ殺』じゃないの?


「まあ、そんな事はどうでも良いけど……いや不味いなこれ。傍から見たらSMプレイだろ完全。……ちょっと緩めるか」


 案の定エルザの事をまたもや瞬殺してしまった。俺はその事に少し調子に乗ってしまっていたが、すぐさま冷静に物事を考えることに成功したので、


「……緩め」


 まぁ……エルザをみちみちギチギチに縛る鎖を身体にくい込まない程度に緩めてあげた。

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