第4話

「……はぁ、分かったよ。どうやらお前と対話は無理そうだし、もう諦めるわ」


 それだけ言い残してエルザを放置したまま、俺はこの場からさっさと離れるために歩き始めようとした。


「……おい、貴様どこへ行く」


「お前の言う通り俺は指名手配犯だからな。とっととおさらばさせてもらうぜ」


「なっ、待て!!」


 なんだよ、お前が聞いてきたから正直に答えてやったのに。まぁ俺は優しいから待ってやるが。


「貴様私をこの格好のまま放り出すつもりか!?」


「ああ」


「なんだと!?逃げるな腰抜け!!この鎖を解いて、もう一回私と勝負しろ、さっきは少し調子が悪かっただけだ!次は貴様のペテンと一緒にボコボコにしてやるから!!」


 いちいち『!』が多いんだよ畜生。さっきから言ってるが俺は空腹なんだ。いちいち怒鳴られたらたまったもんじゃないし、めっちゃイラつくな。

 そして勝負はしない。正直言うと、今のは不意打ちで勝ったようなものだ。身体能力バカのこいつと真正面から戦うとか、マジで勘弁して欲しいです。


「やだよ。お前めんどくさいし、勝負はまたもや俺の勝ちってことで良いだろ」


 突き放すように俺は冷酷に告げる。


「くそっ!この鎖を解け!!そうすれば私はっ……」


 ガチャガチャと黒鎖をちぎろうと体を必死に動かすエルザだったが……しかし黒鎖の能力のデバフで筋力が大幅に吸い取られており、全くもって無駄だった。


「はぁ……安心しろ。黒鎖に込めた魔力が無くなれば自動的に消えるからさ……なに、そう長い時間じゃないし」


 裏を返せば鎖が消えるまではこのままって事だけどな。まぁいい機会じゃないか……明らかにプライドの高いこの剣聖様だから、こんな屈辱的なまま放置されるのはかなり堪えるだろう。

 ……少しお急を吸えてやるぜ。これは愛のムチだ、愛のムチ。断じてSMプレイなどでは無い!!


「そのまま少し頭を冷やしてろ。……言っとくが俺は優しい方だぞ?これが他のやつだったらどうなっていたか。……敗戦した女騎士がどうなるかなんて、さすがのお前も知ってるだろ?」


 処刑されたり殺されたりするのはまだ良い方だ。場合によっては慰みものにされるってのもあるし。

 ……いや話がごちゃごちゃになってきたな。俺とエルザの勝負には関係ないのに。……まあ、つまり他の奴だったらそういう可能性もあるって事を伝えたかった。


「うるさいうるさいうるさぁい!!そもそも貴様がSSSランク犯罪者なのが悪いんだろう!!」


 いや、俺としてはそんな気はサラサラないし……文句は認定した冒険者ギルドに言ってくれよ。

 ついでに認定解除して貰えると嬉しい。


 まぁなんだかんだ言いつつもこれ以上は可哀想だし、これぐらいで済ませておこうと考えていたのだが……


「絶対、絶対次こそはコテンパンにしてやるからな!童貞、フツメン、低身長!!」


 ……カッチーン。そろそろ僕本気で怒って良いかなぁ?いや許可なんぞいらん。こんなのじゃダメだ。うん、こいつは一度絶望を知った方が良いな。


「ほほぉぅ……貴様俺を怒らせたな。もう謝っても許さないゾ☆さっきも言った通り、俺は男女平等主義を掲げる日本で育ってきたんだ、泣き面かかせてやるからな♪」


「な、何をする気だこの下衆め!!」


 俺の気迫が伝わったのかエルザは少し脅えたようにして尻で後退りした。これから何をされるのか……それに対して過剰に怯えだしたが、まあ安心しろ。

 俺は別に美人だろうとお前の身体なんぞ興味無いし、それよりももっと良い考えがあるからな。


「くくくく……なぁエルザ?そこに突き刺さってる剣何だろうなぁ?」


 俺は地面に突き刺さっている剣を指差す。

 エルザはそのまま視線を動かして……何をされるのかを理解したのか顔面蒼白にしながら口をパクパクと動かした。


 ……多分、今の俺はものすっっげぇ下衆な表情をしてると思う。


「き、貴様まさか!?」


「ああ……お前が俺を倒すために無断で持ち出てきた家宝の聖剣。それがもう二度と戻ってこなかったら……お前のお父様はどう思うかなぁ?」


「ぬおぉぉ……貴様それでも人間か!?良心のかけらもない悪党にしか見えんぞ!?」


「いや、実際俺は指名手配犯ですし?」


 そのまま俺はスタスタと歩いていき、伝説の聖剣とやらを強引に引き抜いた。

『剣聖』か『勇者』のスキルを持っていないと抜けないとエルザは言っていたが、まぁこれも俺のスキルによる影響だと思っておいてくれ。……うん。ほんとチートだな俺のスキル。


「じゃあなエルザ、迷惑料でこれは貰っていくぜ」


 ふふん、そんなに睨んだって返してやらないもん。

 お前が突撃してきたおかげで俺はたくさん迷惑や不利益を被ったんだから、これぐらいは貰っていく。


「ぐぅ……貴様ぁっ……!!」


「ついでに言うとこれは俺にも非があるかもしれんが、お前のせいでこの森が消し飛んだんだ。外から丸見えだし、ここから離れなきゃ行けない。俺が逃げるのは、後先考えずに『剣聖』スキルを使っちまったからという事だな」


 迎撃するためとは言え、エルザと同じく『剣聖』スキルを使った俺が何を言ってんだか……と思ったが、まあ事をこれ以上は悪化させないように何を言わずにこの場を去ることにした。


「頼む!聖剣だけは返してくれ!!それが無くなれば父上の逆鱗に触れる。そうなれば恐らく罰として私は学院に花嫁修業に行かなければならなくなるんだ!!」


 ぶっ……!?くははは、マジかよ。尚更返す理由が無くなったな。


「やだ。っていうか良いじゃないか花嫁修業。ガサツで家事できなさそうなお前にはピッタリだよ」


 『剣聖』スキルを持つ脳筋エルザが花嫁修業とは……ウケる。エルザのパパさんには是非お願いしたい。そうなれば俺もエルザの事で面倒臭い思いしなくて良いしな。


 そんなことを考えながらニヤニヤと歩き去って行く俺の耳に背後から「ちくしょーっ!!覚えてろ東雲麗乃っ!!」という言葉が聞こえたが俺は無視する。


 ……ふぅ、なんか少しスッキリした。

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